第34話:悪夢に見る現
――教会本国から帰ってきて数日、ボクはいまだあの日の夢を見ていた……それはどこか作為的なような、呪いのような……そんな感じに見せられている夢だということはわかっているのに、それがどうやって見せられているのかわからなくて……
「深咲ーっ嫌いにならないでーっ」
「うぇ?瑠衣どうしたの?」
ほとんど寝不足状態で起きたボクはいつの間にかまたベッドにもぐりこんでいたらしい瑠衣に急に抱きつかれて正直いって混乱した。
だって、いつもなら機嫌がいいのに……
それから数分、ようやく落ち着いたらしい瑠衣に話を聞けばある意味ではとても単純な話だった。
「夢でね、深咲に嫌いって言われる夢みて……あの時の深咲の表情が怖くて……」
まぁ、要約すれば夢の中で瑠衣はあの小さい時よくいた公園でボクにすごく冷めた目で『いつボクが瑠衣のことを好きだなんて言ったの?嫌いだよ、おまえなんて』と言われ、そのまま背を向けてボクは立ち去ったらしい。
……白夜がいたらまず間違いなくざまぁって言いそうだよなぁ……
ていうかそもそも
「ボクが瑠衣を嫌うわけないでしょ」
「うぅ……深咲ぃ……」
瑠衣は涙目でまたボクに抱きついてきたけど……それよりも気になったのがボクにとっての悪夢も、瑠衣にとっての悪夢も教会本国から帰ってくるまでは見ることのなかったものだということだ。
まぁ、瑠衣が悪夢を見たのが今日だけっていうのが気になるとこだけど瑠衣だし。
「あるとしたら枕か、ベッドか……あ、部屋にって場合もあるのか……」
「深咲どうしたの?」
ボクは瑠衣になんでもないと言ってからもういい時間だしそのまま瑠衣を引きずって朝ごはんに向かった。
一応こういうのはアインさんに聞いてみた方がいいかもしれないよなぁ……
そんな風にボクはこのときは少しだけ楽観的に思っていた。
「悪夢、ですか……」
「うん、あの爺どもが仕掛けた可能性ってどのくらいあるかなって」
「そうですね……」
アインさん曰く、その可能性はとても高いとのことで昼間の間に調べてくれることになった。
でも、昼間に調べて効果ない系とかだったらどうしよ……
「少し探知の術式は特殊なものを使いますので幾分か精度の方は増すと思いますよ」
「見学してもいい?どういうことするのか見てみたい」
「えぇ、どうぞ。それじゃあ今から行きましょうか」
アインさんはそう言うと近くにいたまだ若さの残る神官の服を着た人に二言三言何かを話すとすぐにその人はその場から離れ、何かを持って戻ってきた。
「ごくろうさまです。それでは行きましょうか」
「はーい」
とりあえず部屋にはボクが先頭で向かい、部屋についてドアを開けた瞬間アインさんが顔を顰めたのが見えた
「これは……勇者様も神子様も強い方なのですね……」
「え、そんなにやばいの?」
ひとつ頷いたアインさんが告げたのは簡潔であるけどとてもめんどくさそうな言葉だった。
「悪夢症候群を引き起こす術式が使われていたようです」
「悪夢症候群?」
はい、とまた頷いたアインさんは手元で神官の1人に持ってきてもらっていた何かを操作しながらそれについて説明してくれた。
悪夢症候群、それは人に悪夢を見せ、悪夢を植え付け、悪夢に縛りつけ、最後には夢と現の境がわからなくなってしまう呪いにも似た病のことを指すらしい。
そしてそれを発症させる特徴として眠ることに対して恐怖を持つようになるらしい……
うん、ボクも瑠衣もやばいよね……
そんなことを思いながら何かを操作し続けているアインさんの背中を見ていたら
――部屋の向こうに、気持ち悪い笑みを浮かべているこの世界にいるはずのないボクの大事な存在を奪ったあの男が見えた気がした……――
1回くらい暴走させたいなーって。




