第15話:めんどくさいことは早めにかたずけよう。
タスクさんに案内してもらった日から数日後の夜
ボクは部屋にあるベランダから外に出ていた。
目的はと言えば早々に面倒事を終わらせるために。
その為にこの数日の間、ボクはタスクさんに馬の乗り方を教わって、書庫で地図を見て。
念の為に今日の夕食に出たパンをいくつか残して。
「夜走馬、お待たせ。」
暗がりの中、覚えていた道筋を進んで、辿り着いたのはあの子のいる厩舎。
夜走馬はボクに気付くとすぐに厩舎の出入り口まで出てきてくれた。
「……行こう。」
ひとつ頷いた夜走馬はそのままボクに乗るようにと視線を向け
鞍の乗っていないその背中にボクはよじ登った。
向かうは魔王が住むという場所。
この子なら、辿り着ける気がしたからボクは彼に初めて会って思いついたときにお願いした。
そしたらこの子も頷いてくれたからこうしてボク達はお城を抜け出したんだから。
“夜を駆ける”という意味合いを持つダークブルー色の馬、夜走馬
その名前は正確だったと思えるくらいにこの子は足が速かった。
深い森も、高い山も、広い川ももろともせずにただまっすぐ駆けて
時々密かに書き写していた地図を確認しながらゆっくりと傾いて行く月を横目で確認しながらボク達は魔王がいるらしいその場所へただただ進む。
その時、何が起こるかわからないけど……きっと、大丈夫だと信じて。
※※※
ミサキ様が寝付いたのを確認して部屋を出た私はお城の仕事をしていました。
そこに神子様と守護者様が駆けてきたのはそれから数刻過ぎた頃でした。
「あ、いた!メイドさん!深咲どこ!!」
「ミサキ様ですか?お部屋の方でおやすみになられてるはずですが……」
「ッチ……深咲のヤツ……やっぱり抜けだしたのか……」
「え……?」
どうやら私が部屋を出た後、ミサキ様は窓から部屋を抜け出したようです……
お二方が言うにはいつものようにミサキ様の部屋に忍び込もうとしたらそのベッドはもぬけの殻で
そのうえでベッドの上には置き手紙があったらしい。
「僭越ながら……なんと書かれていたのですか?」
「“ちょっと魔族の領域に魔王に会いに行ってきます。追伸、瑠衣と白夜は騒がないこと。あと夜走馬をお借りします。”」
「それだけだ。」
少しだけその置き手紙を見せていただきましたが
そこに書かれていたのは私が見たことのない文字で(聞けばミサキ様やお二方が元々居た世界の文字だったとか)夜走馬を私は見たことないのですが、厩舎には確かに1頭だけ、その馬がいたことを城勤めの誰もが知っていた。
おそらくその馬を借りていったのでしょう。
「お二方はもうおやすみになってください。」
「深咲居ないんじゃ仕方ねぇか……」
「深咲いなかったら意味ないもんね。メイドさんおやすみなさい」
……ホントに、お二方はミサキ様がお好きなのだと思えるくらいにあの方達は……
いえ、このことには触れない方がいいでしょう……
それにしてもミサキ様はホントに1人で魔王の元へ行ってしまったのでしょうか……
お伝えした方がよいのか、迷ってしまいます……
ただ願うのは、ミサキ様が何事もなくここに……いえ、あのお二方の元に無事に帰ってこられることです。
なんとも言えないような静寂の中、夜は更けていく……
今、ミサキ様はどこにいるんでしょうか……




