第10話:いっぱい食べたら後は帰るだけです。
一仕事した後に食べる揚げたてのエビフライが美味しくて、
ボクはもう身体を動かしたこともすっかり忘れてしまった。
「ミサキ様……よく食べますね……」
「うん、瑠衣達に言わせたらこれでも少ない方かもしれないけどね」
――お父さん達が死んだあの日からしばらくの間、ボクは何も食べることができなかった。
拒食に近い状態だった、とは瑠衣のお父さんが言ってたことだけど。
そういうことを気にすることさえボクはできなかったから。
それでも復讐心に燃えはじめた頃、ボクは力をつける為に……とも少し違うけど
とにかく食べることから始めていた。
過食とは違うよ。
そのせいか、そのおかげなのか。
ボクはいつしかいっぱい食べるのが当たり前になっていた。――
「ごちそうさまでした!おばさん、美味しかった!」
「おや、それはよかった。」
そうだ、1個聞いとかなきゃいけないのあったんだった。
それを思い出したボクはすぐにその本題を切り出した。
「……おばさん、もしかして最近この近くに新しい食堂とかできてない?」
「1軒本通りの方にできたけど……それのことかい?」
「んー……多分それかなぁ?」
この世界の事情にあんまり首をつっこみたくないけど
おばさんのご飯は美味しかったし、また食べたいからちょっとだけ余計なお世話というものをしようかな、と。
やっぱり美味しいものは正義だと思う。
「タスクさん、お城戻るときにこの荷物置いて行きましょう。」
「………そういう、ことですか……わかりました。引きずってでも運びましょうか」
「4人だから……ボクこのお姉さんとお兄さん持ってくよ」
「え、大丈夫ですか………大丈夫そう、です、ね……」
「ん?」
ボクは女の人と無言だった男を肩に微妙に担いで、足は完全に引きずる形にしていた。
それを見たタスクさんは少しだけ呆れたようなため息をついていたけどなんでもないと残り2人の男達を小脇に抱えた。
「じゃあおばさんまたこれそうなら来ます!」
「いつでもいらっしゃい。」
「失礼します」
お店を出たボク達はそのままタスクさんの案内で例のお店に向かった。
というか……
「思ってた以上に近かった。」
「そうですね。ここが出来てからあの店はお客が減ったみたいですし」
「……でも、このにおいはヤダ。混ざり過ぎてくさい……」
別にボクの嗅覚は普通だ。
ただちょっと匂いに敏感になっちゃっただけで。
とりあえず思ったのはあまり長居したくないという本音だけ。
「とりあえずここおいてこ。もう帰りたい」
「そうですね。あまり遅くなっても問題がありますしね。」
「あ……瑠衣達には何も言ってこなかったもんなぁ……まぁ、いいか。」
例の4人をお店の前に下したボク達はそのままお城へと帰った。
その前にタスクさんのお部屋にまた寄ったけど。
「おかえりなさいませ、ミサキ様」
「ただいまーカオンさん。」
お城でボク達を迎えてくれたのはカオンさんで、彼女曰く瑠衣と白夜はちゃんとご飯を食べていたらしい。
やっぱり、どうしてボクがいないのかって騒いでたらしいけどちゃんと食べたならいいや。




