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「それで東北に行きたいと?」

 私の専属執事の黒崎奏は自分で入れたコーヒーを飲みながら尋ねる。

 彼と二人きりのときはどちらかというと彼に主導権がある。

「だめかな?」

 なんとなくおどおどしてしまう自分が憎い。


「別に構わないが、今の時期に東北か」

「何か問題でもあるの?」

 私は首を傾げて尋ねる。


異界悪魔(ストレージデーモン)が東北のほうで出現しているらしい。ニュースは……みたりしないな」

異界悪魔(ストレージデーモン)?そういえばそんなのがいるんだったっけ」

 初日に説明を聞いたけど、そんな存在のことはすっかり忘れていた。


 彼は溜息をつくとフロックコートの胸元から携帯端末を取り出す。

 しばらく操作をすると、その端末を私に見せる。画面には日本列島が浮かび上がり、ところどころにオレンジやら赤の色がついている。


異界悪魔(ストレージデーモン)の警告MAPだ。行先は福島だよな?ここだ。オレンジ色になっているだろう。注意段階というところだ」

「でもさ、東京は赤いよ?注意じゃなくて警告でしょ?これ」

 私はMAPの東京あたりを指さす。


「解除が遅れているだけだ。それは昨日倒した」

 彼は携帯端末を受け取ると胸ポケットにしまう。

()()()?」

 私はじっと彼の顔を覗き込む。

 さすがに少しは見慣れてきたので最初のころのような美形の独特な威圧感はない。


「お嬢様の安全のためには倒しておかないと危険だからな。紗枝木グループの情報網はとても正確だった。探索5分以内に見つけられたよ」

 ことなげなく彼は答えた。


異界悪魔(ストレージデーモン)ってゲームでいう魔物でしょ?強いんでしょ?単独で倒したの?」

 私は呆れたように完璧主義者の執事を見る。

「今回初めてじゃないしな。武器は好きなだけ提供してもらえるし、情報も正確。紗枝木グループ様様だ」

 彼はいつものようにチョコレートを口の中に放る。実は彼は結構な甘党だったりする。


「なんか私のためというより、自分の経験値上げに紗枝木グループを使っているように聞こえるんだけど」

 彼はこの『アナザーワールド』の謎を解きたいと常日頃から言っている。そのためにはLvを上げて世界をいろんな角度から見る必要があるという。

 私を助けるのは緊急クエスト発生率が高いからだと公言するくらいだ。紗枝木グループの伝手を頼って、レベル上げのために異界悪魔(ストレージデーモン)を狩っていても不思議はない。


「まぁどうとってもらっても構わない。それで行くのか?」

「守ってくれるのでしょ?」

 私は溜息をつくと、少し冷えたコーヒーを一口味わう。

 彼は楽しげに笑う。

「ああ、守ってやるさ」







 ことの始まりは夏休みにはいってから久しぶりに再会した友人の一言だった。

「そんなに美少女なの?一度見てみたいわね」

 真紀はガリガリとコップに入っていた氷をかみ砕きながら、突然そんなことを言い出した。

 二人で大学の学食でお昼ご飯を食べていた時だった。


「しかももうLv5なの?早すぎない?私あなたより早く始めて今やっとLv3よ」

 彼女は不満げにそういうと、私のお弁当のから揚げをひょいとつまむと口の中に放り込んだ。

「ああ!メインのから揚げが!」

「普段ゲームの中でおいしいもの食べてるんでしょ。気にしない気にしない」

 お弁当をしょんぼりとみている私に向かって真紀は、ケタケタと笑い出す。


 確かにおいしいものは食べている。ゲームの中の食事なのでまったく身にならないが。昨日ゲームの中で綾小路家ホテルの夕食で出た、伊勢海老のゼリー寄せを思い出して、のどが鳴る。

 現実で味わったことがない味覚でもゲームの中ではクリアに再現される。


 よし、あの味を思い出してご飯を食べよう。私はメインのおかずがなくなったお弁当を食べ始める。


「あっちの世界でおいしいと思ったのは、うちで作っているお米なんだよね。もちもちして本当においしいの。最近こっちでお弁当のお米食べると残念感が漂ってせつなくなるんだよね」

 真紀は学食のご飯を片手にふぅと溜息をつく。


 地球とそっくりな『アナザーワールド』の世界ではだいたいのところこっちと同じなんだけど、ところどころが違っている。

 例えば紗枝木コンツェルン。ゲーム中の私の父親の会社だ。こっちにはそんな財閥はない。

 日本の首相の名前ももちろん違う。


「話がそれたわ。ゲームの中で会いに来てよ。美少女と美形執事の顔拝みたいから。どうせ夏休みずっとゲームして過ごすんでしょ?ゲームの中でくらいどこかに出かけたほうがいいって」

 真紀はご飯を残し、おかずだけ食べる。


 彼女にはゲームの中で起きたこと、そして執事のことも全て話していた。

 彼女は話を聞いた後、「じゃあ夏休みもずっとゲームするの?ご愁傷様」と私に向かって手を合わせて南無南無と拝んだ。私が話した荒唐無稽な話を彼女は肯定も否定しなかった。私は少しほっとしたのだった。


「んー、とりあえず執事と相談してみる」

「これ、ゲームの私の住所ね。うちって放任主義だから数時間家にいなくても全然問題ないから。おいしいごはんが食べれる場所に連れて行ってね」


「放任主義って6歳でしょ?誘拐犯だと思われたらいやよ」

 私は真紀が取り出したメモを一応は受け取るけど、乗り気ではない。


「大丈夫。近所の子供の家に遊びにいっているって言えば疑われないわ。いつもそんな感じだし」

「ところで、6歳の生活ってどんなかんじ?」

「意外と新鮮かな。飼っている犬と遊んだり、小学校で勉強したり、畑仕事手伝ったり。田舎だからなのか、なんか暖かい気持ちになれるのよね。癒し系ゲームだと私は思ってる」


 癒し系?あれが? いつ不運による緊急クエストが発生するかドキドキしているあれが?

 同じゲームをしているはずなのに、この差はいったいなんなんだろうか。


 とまぁ、こうして私は福島へと足を延ばすことにしたのだった。






 東京から福島までリニアカーでおよそ40分で到着する。日帰りでも余裕の距離だ。

 出発を決めたのが昼過ぎだったので、到着する頃にはとっくに日が暮れるだろう。真紀と会うのは明日にして、今日は仙台駅の近くのホテルに一泊することにした。


 リニアカーの中での暇つぶしに、新しいスキルを選ぶことにした。

 新しく増えたスキルは以下の通り。


 ・防御Lv1

 ・跳躍Lv1

 ・火耐性Lv1

 ・雷耐性Lv1

 ・発火Lv1

 ・放電Lv1


 ついに攻撃魔法みたいなスキルが出現した。

 手堅くいくのであればやはり防御Lv1かな。跳躍も捨てがたい。


 だけど、正直に言おう。発火と放電というスキルに私は心がひかれていた。


 攻撃は最大の防御というし、包丁を突き付けられて拘束されていたとしても、発火か放電のスキルがあれば、犯人を一瞬無効化できるのではないだろうか。

 そう想定すると、熱いのとビリビリするのとどちらがいいのだろうかと悩み始める。


 スキル説明を読んで私は放電のスキルをとることにした。まれに相手が麻痺することがあるそうだ。

 私が使うとしたら一か八かのときだ。不運で放電が発生しない可能性があるかもしれないけど。


 ・不運Lv3(バッシブスキル)

 ・体力Lv1

 ・移動速度向上Lv1

 ・手当Lv1

 ・放電Lv1


「なにか機嫌がよくなることでもありましたか?」

 リニアカーの中は他に人がいる。そのため彼は執事モードになっているので言葉使いが丁寧だ。


「魔法っぽいスキルが出てきたの。今回は放電をとってみた」

 素直に私は答える。彼には知ってもらっておいたほうがいいだろうと判断したのだ。

「放電ですか。Lv1では大した威力にはなりませんが、何か役に立つときがくるかもしれませんね」

 そう答えるとすぐに彼は携帯端末に視線を戻す。


 私も携帯端末を持っているけど、この世界の情報などぐぐった経験はない。

「何か面白いサイト知ってる?」

「面白いかどうかはわかりませんが、プレイヤーサイトがあります」

 彼はブックマークで携帯端末の画面を切り替えた後に、私の携帯端末にアドレスを転送してくる。


 そのサイトは『パラレルワールド見聞録』とありがちなサイト名だった。情報のメインは異界悪魔(ストレージデーモン)についてだ。先程見せてもらった異界悪魔(ストレージデーモン)の出現MAPも乗っている。

 異界悪魔(ストレージデーモン)情報掲示板もあるが、まず私が開いたのはこのサイトの主が書き込んだ記事だった。



「この世界は異界悪魔(ストレージデーモン)がよく出現する。異界悪魔(ストレージデーモン)は人や家畜などを襲うが、この世界では被害を広げないために警察や自衛隊などの防衛組織が動く。まぁそんなの当たり前のことだと思うだろうが、先にあげた組織はあくまで防衛としてしか機能していない。


 そう、彼らは異界悪魔(ストレージデーモン)を倒そうとはしていないように見える。

 一体なぜなのだろうか。


 いままで倒された異界悪魔(ストレージデーモン)はプレイヤー達の手によるものだ。NPCは異界悪魔(ストレージデーモン)を倒そうとはしない。俺はひどくこのことについて関心がある。


 プレイヤーの諸君。

 異界悪魔(ストレージデーモン)を倒したときはこのサイトの掲示板へ書き込んでくれ。俺はこの状況のデータを取りたい」


 なんかこのサイト主ってうちの執事なんじゃないかと疑ってしまう内容だった。

 私はこの記事を読み終えると異界悪魔(ストレージデーモン)情報掲示板へと移動する。






 201 名無しのプレイヤー

 東京に発生した異界悪魔(ストレージデーモン)を倒した。パンサーだった。


 202 名無しのプレイヤー

 え、まじ?警告でたのついさっきだろう。


 203 名無しのプレイヤー

 ( ゜д゜ )ポカーン


 204 名無しのプレイヤー

 またお前かー! 


 205 名無しのプレイヤー

 もうだめだ。東京近郊は奴に狩られまくっている。

 他を狙うしかない。


 206 名無しのプレイヤー

 早すぎでしょ!ネタはどこから拾ってるの?教えてよ!


 日付をみると昨夜のログだった。201は明らかにうちの執事だろう。

「ねぇ、このサイトって黒崎が作ったの?」

 私は、隣で物憂げな表情で携帯端末を操っている執事に質問する。


「まさか。警戒MAP情報を利用させてもらっているので、情報提供はしていますけど、私じゃないですよ。ゲームだと考えればNPCが異界悪魔(ストレージデーモン)を倒さないのは当たり前でしょう。どんなゲームだって魔物は放置され、NPCがプレイヤーに助けを求める。やけに現実に近い世界だからサイトの主は思考が混乱しているのでしょう。

 私が知りたいのはマイナススキルの現実への継承の件です。異界悪魔(ストレージデーモン)は経験値以外にあまり興味がありません」


 そうですか。そうですよね。どちらかというと一人でこっそりと調べるタイプですよね。


 私はそのまま異界悪魔(ストレージデーモン)の情報を辿っていく。今のところ異界悪魔(ストレージデーモン)で現在目撃されているのは3種類。


 ・シャドウブラックパンサー

 陰を行き来する黒い虎。体長はおよそ3メートル。

 獲得経験値 2122 稀に「影渡」のスキルを習得することがある。

 ・サキュバス

 人の夢を渡る淫魔。男女それぞれのタイプがあり、異性に対して強力な魅了を使用してくる。

 獲得経験値 1013 稀に「魅了」のスキルを習得することがある。

 ・デス(死神)

 大きなデスサイズ(大鎌)を持ち、空中を浮遊する。瀕死になると中確率で即死スキルを使用してくる。

 獲得経験値 3428 スキル情報は今のところなし


 出現するのはほとんどがシャドウブラックパンサーで死神の出現はまれなようだ。

 中確率で即死って、私が出会ったら高確率になっちゃうわけ??

 正直出会いたくない。


「お嬢様もうすぐ着きます」

 彼は携帯端末を懐にしまうと、銀色の小型のアッタシュケースと私の荷物が入ったをキャリーバックを持つ。

 普段彼は手ぶらでいることが多い。だいたいが必要なものを現地で購入して済ませている。つまり使い捨てだ。勿体ない。

 だが今回は荷物を持っている。珍しく着替えでも持っているんだろうか。


 私は彼に促されて、リニアカーの乗車口に向かう。仙台駅に止まるのはわずかに2分。その間に降車しないといけないのだ。私は駅に到着するとさっさとリニアカーを降りた。



「仙台といえばやっぱり牛タンよね」

 私はホテルに着くと早速携帯端末で牛タンの店を調べる。

「ホテルのレストランにもあるが、外に出るのか?」

 彼はキャリーバックから私の着替えを取り出し、クローゼットに掛けながら質問する。


「ホテルのはホテルのでおいしそうだけど、やっぱり専門店のほうがおいしそうじゃない?」

 気取ったホテルで食べるよりそのほうが絶対おいしいに決まっている。


「そういうと思って、有名な店を予約しておいた」

「いつの間に!」

 さすが完璧執事様だ。私は携帯端末をバックの中にしまい込む。


「リニアカーの中では時間はたっぷりあったからな。このホテルから歩いて15分ほどのところにある。車でいくか?」

「15分なら歩きでも問題はないでしょう」

 体は華奢だけど、体力スキルがある。おかげである程度歩いてもまったく疲れない。

「わかった」



 仙台の街の夜は東京に比べると静かだった。

 駅を離れると商店街通りがあるくらいで割と静かな街並みだった。

 そんな道を10分ほど歩いたときだった。


 ブーブーブーブー。

 最近慣れてしまったブザー音が鳴り響く。

「一昨日あったばかりよ、またなの!」

 私は驚いて声を上げる。

 黒崎は銀色のアタッシュケースを開け、その中から2丁の大型拳銃を取り出す。


『緊急クエスト発生!シャドウブラックパンサーから身を守れ!』

 ゆらりと目の前の空間がゆがむ。

 そこに現れたのはまっ黒な大きな虎だった。


「お嬢、下がれ!」

 執事は私の前に立ちふさがると、2丁の拳銃を操り連続で虎に向かって弾丸を放つ。

 凄まじい轟音が鳴り響き、襲ってこようとした虎が銃弾の威力で、少し後ろに跳ね飛ばされる。

 私は一瞬硬直するが、すぐに後ろに向かって全力疾走する。

 建物の角を曲がるとそっと戦場を覗き込む。


「グルゥゥゥゥゥゥ」

 虎は低く唸るとそのまま大きく飛び、黒崎に向かって襲い掛かる。黒崎は軽く体をひねり、くるりと宙返りをして虎から身をかわす。その体勢からすかさず連撃し、一発が虎の左目を打ち抜いた。

 虎は不利をさとったのか近くにあった街灯の陰にすぅっと身を潜り込ませる。


 いったいどこに消えたのだろうか。

 もし逃げたのであれば緊急クエストの終わりのファンファーレが鳴るはずだ。


「お嬢、後ろだ!」

 黒崎の声に私は反射的に後ろを振り返る。

 街灯の影の中からゆっくりと虎が現れる。虎は私に向かって大きな口を開ける。だらだらと流れるよだれが地面に滴り落ちる。


 今から逃げても間に合わない。私は一か八かでスキルを発動させる。

「放電!」

 悲しくも私が放った光の曲線は虎に当たらず、虎の数センチ前の道路に落ちる。


 バリバリバリッ。

 光と音に一瞬虎が立ちすくんだ。


 その一瞬の隙に距離を詰め、飛び込んできた黒崎が残りの全弾を虎に浴びせる。最後の2発は至近距離から、虎の眉間へと着弾する。

 私はすぐさま放電のスキルを虎に向かって放つ。闇夜に白い光がほとぼしり、虎全体を覆う

 これが最後の決め手になったのかぐらりと虎はその場に崩れ倒れる。


 飛び込んできた勢いを数回地面を転がることで殺した黒崎は、すぐに持っていた2丁の拳銃をその場に捨る。そして素早く立ち上がりながら、上着の下に隠していた2丁の拳銃を素早く取り出し、倒れた虎に向かって構える。


 黒崎に眉間を連続して打ち抜かれた時点で虎はほぼ即死に近い状態だったのだろう。

 鼓動が止まるまでのほんの数瞬の時間を私の放電が断ち切ったようだった。


 パンパカパーン!パンパカパーン!

『緊急クエスト達成! 取得経験値 587』

『シャドウブラックパンサーを倒しました。 経験値 1061』

『カルマLvが6に上がりました。』

『カルマLvが7に上がりました。』


 ゆらりと虎は影の中に消えるようにゆっくりと形を消していった。

 黒崎は拳銃をもとに戻すと、先ほど捨てた拳銃をアタッシュケースの中に格納する。

 私はへなへなと腰が抜けてその場に座り込む。


「よくやった」

 黒崎は私の頭をゆっくりとぽんぽんと叩く。

 その手から優しさが伝わってきて、私の震えていた体が収まる。


「おんぶ。腰が抜けて歩けない」

 私は黒崎に向かって両手を上げる。体には異常がないので手当は役にたたない。

 いささか子供っぽい言い方になってしまったんだけど、今は素直に甘えることにした。


 彼はじっと私を見つめた後、無言で私に向かって背を向けしゃがみ込む。

 その肩に手をのせるとすぐに黒崎が手を後ろにまわした。私は黒崎の広い背中に背負われる。


「それで、牛タン食べにこのままいくか?」

「それはさすがに恥ずかしいかも。ホテルに戻ろう」

 彼は来た道をひきかえしていく。目の前で揺れる金色の髪が暗闇の中で輝いている。

 そして甘いムスクの香り。


 私はだらりと下げた手をぶらぶらと揺り動かす。

「ねぇ、銃刀法違反で捕まったりしない?」

 広い背中に背負われ安心しきった私は彼に気になっていたことを質問する。

「あの空間に結界を展開していた。誰にも気づかれていない」

 なるほど。なんで誰も銃声に驚いてこっちにこないかの謎は解ける。

 さすがうちの執事はそつがない。


「ねぇ、黒崎」

「なんだ」

「どうしたら私は足手まといにならないようになれる?」

 彼はしばらく黙り込む。


 どうやら答えにくい質問をしてしまようだ。

 緊急クエストが発生したときに、私は基本できるだけ逃げれるように頑張るつもりだったのだけど、今回のように実際はうまく逃げられていない。

 もし相手がシャドウブラックパンサーでなく、死神だったら?即死していたかもしれない。


 私は彼がプライドが高いことを知っている。守るといったからには守ってくれるのだろう。

 でも、いざ守ろうとしたときに守られる側が非協力的であったり、愚鈍であったのならそれは厳しいことなのかもしれない。


 私は悲鳴を上げているだけではなく、彼の役に立ちたいと思い始めたのだ。

 かけられているのは私の命だ。私は私にできることをしてこの不運に抗ってみたい。

 私は夜空を見上げる。東京と違って星がいっぱい見える。


 ホテルが見える頃になって彼は口を開く。

凰華(おうか)(ローズ)・スペンサー・紗枝木(さえき)に、そんなことを言われたのは初めてだ。お前変わっているな」

 背中越しなので彼の表情は見えない。

 でもたぶん彼は笑ったのだろう。


「私がサポートしましょう。お嬢様の意のまままに」

 恭しく告げられた言葉の内容に私は嬉しくなり、ぎゅっと彼の背にしがみついた。



 次の日会いに行った友人は想像通り小さな可愛らしい姿をしていた。

 色白い肌にりんごのようなほっぺが特に愛らしい。

「遠山(みこと)ちゃん?約束通りに会いに来たよ」

 私はきょとんとした顔をしている小さな女の子に話しかける。


「驚ぐほど、凄いおなごだきゃ。中身が真由だり知きやのきゃうっどり眺まなぐていでぐきやい」

「え?黒崎、わかった?」」

 少女が何を言っているのかわからない私は、首を傾げる。


「こっちのオドゴもわや美形だきゃ」

「何を言っているかわかりますが、本人から聞いた方がいいでしょう」

 黒崎はちらりと少女を見てそれっきり口をひらかない。


 私の顔みてぷっと少女は笑い出す。

「私の津軽弁なかなかでしょう?おばあちゃんが青森に住んでいるの」

「驚かさないでよ。人違いかと思ったんだから」

「とりあえず、おいしいごはんを(みこと)に食べさせてね。お姉ちゃん、お兄ちゃん」

 つぶらな瞳でじっと見つめられるとこれ以上文句は言えない。

 わざとやっているんだ。友人の性格はよくわかっている。


「黒崎」

「かしこまりました。お嬢様方、私にお任せください」

 彼は恭しく車の後部ドアを開き優雅に一礼した。


異界悪魔(ストレージデーモン)の設定が浮いていたので書いてみました。

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