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大きなカブ

作者: きゅう

 あるところに農家のおじいさんがいました。おじいさんはいつもお米とレタスと玉ねぎを育てていますが、今年は更にカブを育てることにしました。孫娘が突然カブを育てたいと言ったからです。

 いつもカブを育てているのは二軒隣の青年です。おじいさんは青年が赤ん坊の頃からたくさん面倒を見てきたので、恩を傘にきて孫娘の代わりにカブの種をもらいにいきました。

「おい、青年。わしはお前がまだおしめをしているときからずっと面倒を見てやってきたんだ。代わりにカブの種を一粒寄越せ」

 青年は呆れた顔で言いました。

「別にそんなこと言わなくてもカブの種くらい、いくらでもあげますよ。ほら、一粒なんて言わずにどうぞ」

 差し出された手の上にはカブの種が何十粒も乗せられていました。

「ほ、本当にこんなにもらっても良いのか!? いやはや有難い有難い。今までの貸しはこれでチャラにしてやろう。いや、これからも困ったことがあればいつでも来なさい。力になろう」

 おじいさんは大げさに喜ぶとスキップもどきをしながら帰っていきました。孫娘はその種を大事そうに受け取り、うっとりしていました。


 孫娘はカブの種を一粒だけ植えました。せっかく青年にもらったカブの種。一つ一つ大切に、愛情込めて育てたいと思ったのです。

 水をやりながら孫娘は愛しげに呟きました。

「大きく大きくなあれ。あまーい甘いカブになあれ」


 カブは驚きの速さで成長していきました。孫娘はとても喜んで更に愛情を込めてカブの世話をしました。一日中カブのそばにいると言っても過言ではありません。朝早くから孫娘はカブのもとに行っておはようのキスを送り、夜遅くまでカブに話しかけておやすみのキスを送るのです。

 おじいさんはそんな孫娘を見て少し心配になりましたが、カブが順調に成長しているので、そんなものか、と無理矢理納得しました。深く考えてはいけないと思ったのです。


 そして、カブを植えてから六十日が経ち、ついにカブを収穫する日が来ました。

 カブはとても大きく育ち、孫娘よりも、そしておじいさんよりも大きくなっていました。

 おじいさんはあまりの大きさに驚きましたが、孫娘にこのカブを抜くことはできないだろうと思ったので「わしに任せなさい」と言ってカブを引っ張りました。

「よいしょ、よいしょ」

 カブはピクリとも動きません。

 おじいさんは困った顔をしておばあさんを呼んで来ました。

 おばあさんはカブの大きさに驚きながらもおじいさんの腰に手を回し、おじいさんと一緒にカブを引っ張りました。

「よいしょ、よいしょ、ほれ、早く抜けんさい」

 それでもカブはまったく動きません。

 おばあさんは困った顔をして孫娘に声をかけました。

「あんたも見てないで手伝いなさいな」

 孫娘は頷くと、おばあさんの腰に手を回しておじいさんとおばあさんと一緒にカブを引っ張りました。

「よいしょ、よいしょ、大きく育て過ぎたかしら…」

 ミシリ、と何かが軋む音がしました。しかし、おじいさんもおばあさんも孫娘もカブを引っ張るのに夢中で気が付きません。

「よいしょ、よいしょ、早くあなたの真っ白な体を見せて頂戴」

 孫娘は引っ張りながらカブに話しかけましたが、まだまだカブは抜けません。

 孫娘は困った顔をして青年を呼んで来ました。

 青年はカブの異常な大きさに驚きましたが、孫娘の腰に手を回して、おじいさんとおばあさんと孫娘と一緒にカブを引っ張りました。

「よいしょ、よいしょ、中々抜けませんね」

「そうね、なかなか…」

 青年は目の前の孫娘の耳が真っ赤になっているのがとても気になりましたが、雑念を振り払いカブを引っ張るのに集中しました。

「よいしょ、よいしょ、だけど美味しそうなカブです」

「あっ、ありがとう…」

 ズリ、と踏ん張っていた足が一歩後ろに下がりました。皆、カブが抜けてきている手応えを感じ、更にカブを引っ張ります。

「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょーーーー」

 バキッという音と共におじいさんとおばあさんと孫娘と青年は後ろに吹き飛びました。ついにカブが抜けたのかとおばあさんと孫娘と青年は喜びましたが、おじいさんが悲しそうに言った言葉に黙り込んでしまいました。

「痛てて、葉がもげてしまったわい」

 カブを見てみると青々とした葉が根元からぽっきりと折れてしまっていました。

「ああ、私の大切なカブが……」

 孫娘はこの世の終わりかのような顔をしてへたり込んでしまいました。おじいさんとおばあさんも同じように暗い顔をしています。

 青年はそんなおじいさんたちを見て、何を思ったのか突然走りだしました。おじいさんたちは驚いて口をぽかんと開けていましたが、青年が大きなシャベルを持ってきたのをみて納得しました。

「これで掘り起こしましょう」

 そう言って笑った青年の頼もしい姿のおかげで、おじいさんたちの顔には生気が戻っていました。孫娘の顔が真っ赤に染まっていたのはご愛嬌です。


 青年が持ってきたシャベルは一本だったので、「僕が掘ります」と言って青年は一人でカブを掘ることにしました。カブが傷付かないように丁寧に周りの土から掘っていきます。青年はシャベルに体重をかけながら本当に大きくて立派なカブだと思いました。そして、こんなカブを育てた孫娘はすごい、とも。ぜひカブ農家として一体どういう育て方をしたのか聞きたいものだと思いながら土をほぐしていた青年は、ふとその動きを止めて、カブのある一点を見つめました。

 カブの葉の根元の手前。そこにはおじいさんの靴のあとがはっきりくっきり残っていたのです。

「これは……抜けるわけないな」

 青年は遠い目をしながら呟いたあと、そっと靴のあとを拭い、何事もなかったかのように再びカブを掘り始めました。


 その日の夕飯は孫娘が腕を振るいに振るったありとあらゆるカブ料理でした。おじいさんもおばあさんも一口食べて美味しいと口々に褒め称えました。孫娘は嬉しそうにしながらどこか期待するような目で青年をチラリ、チラリと見ています。青年はいただきますと手を合わせ、ホクホクと湯気をたてる料理をそっと口に入れました。そして、

「とても美味しいです。是非これからも君のカブ料理を食べていきたい」

 と、言いました。

 おじいさんは顎がはずれるのではないかというほど口をあんぐり開けて呆けてしまいました。

 おばあさんは「まあまあまあ!」と楽しそうに笑いました。

 孫娘はボンっと音がするほど真っ赤になって机に突っ伏してしまいました。

 青年はおじいさんたちの反応に首をかしげ、自分の言った言葉を思い出し、その意味をよく考えて――――、孫娘と同じぐらい真っ赤になりました。


 お わ り

最初は代表的な大きなカブの絵でおじいさんがカブを踏みながら引っ張っていることを書きたくて書き始めたんですが…気付けば孫娘が青年に恋してる話になってました←

大事に大事に一粒ずつカブを育てようとしたのはおじいさんだったんですけどおじいさんが青年大好きみたいになってしまったので急遽孫娘に変更。

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