そら〈01〉
「本日も快晴なり...とかな。」
そう呟いた少年は15、いや、現代の日本でいう高校生ぐらいの歳だろうか。
身長は高くもなく低くもない。
深く被ったフードの奥からは、意志の強そうな切れ長の目が覗いていた。
ドォォォォォォォォン
少年は後ろを振り返る。
破裂音、というのは正しくないだろう。どちらかといえば、なにか、重いものが高いところから落とされたような、そんな大きな音が聞こえてきた。
「なんだ...?」
街のど真ん中、数十メートル先の広場に、大きな鎧が落とされていた。
「...。」
少年は周りを見渡す。
驚いている?泣いている?怖がっている?
いや、ちがう。誰も、鎧の方を見てはいなかった。
無関心、というのが一番正しい表現だろう。
「にいちゃん、ここは初めて?」
後ろから若い女の声が聞こえた。
「ああ、さっきこの《ワグ》に着いたんだ。」
振り返ると、髪を一つにしばった、いかにも体力バカな女が、仁王立ちをしていた。
「へぇ、そりゃご苦労なこった。
にいちゃん名前はなんていうんだよ。」
「...シヲ。」
「ふーん。ここの《ワグ》はね、空からモノが落ちてくるのさ。」
「だからか。」
事実を知り、シヲと名乗った少年はさっさと踵を返す。
「ちょいと待ちなよ。おまえさん、旅人かい?」
「まあ、そんな感じだ。じゃあ。」
再び歩き出そうとしたところで、シヲは沙乃絵に腕を掴まれた。
「...なんだ。」
「そう急くなって。この《ワグ》のこと、いろいろ教えてやるからさ。」
「必要ない。」
シヲは掴まれた腕をパシッと振り払う。
「つれないなぁ...。美味しいものでも奢ってやろうとおもったのにさっ!」
沙乃絵はわざとらしく最後の一言にアクセントをつけた。
今度はシヲが沙乃絵の腕を掴む番だった。
「この《ワグ》のこと、詳しく聞かせてもらおうか。」
先ほど鎧が落ちてきたときよりも真剣な顔でシヲは言った。
「ノリがいいね、にいちゃん。」
沙乃絵がピーと一度指笛をならすと、どこから出てきたのか、気付くと一頭の馬が目の前にいた。
「こんな街中で馬...。」
「さっきみたいにいきなり空から物が落ちてくるからね。逃げるために必要なツールはどこだって、なんだって許可されているのさ。」
「なるほどな...。」
大人になりかけの2人の体を、乗せて尚走る馬の姿はとても凛々しい。
「にいちゃん、何で旅してんの?」
「探し物だ。」
至って簡潔な答え。
「ふーん。どのぐらいの《ワグ》見てきた?」
《ワグ》とは国のようなものだ。人が住み、頭がいて、土地がある。
そして、その《ワグ》それぞれに、いろいろな個性がある。
「12から13ぐらいだろうか...。長いこと旅しているから覚えていないな。」
「ふーん、そうなんだ。」
それっきり、沙乃絵は黙ってしまった。
長い赤髪の揺れる後ろ姿は、何かを必死に考えているようにも見えた。