07
頭が混乱したように、
僕の小さな脳みそが一生懸命整理をする。
だから僕が浮かべた精一杯の笑顔というのは、
彼女達にしてみたら、
余計不安を煽る行為でしかなかっただろう。
(あっちゃー)
自分ではやってしまった、
と思うのに
まだ頭が追い付かないからか、
上手い言葉を見つけることが出来ない。
あれこれ考えている内に、
浮かんではまた消えていき、
声にならない台詞。
「頭でも痛いんですか?」
僕の困った顔を見たためか、
それを頭が痛い時に顔をしかめる動作と勘違いし、
由利ちゃんと未菜ちゃんが顔を見合せ、
今度は未菜ちゃんが口にした。
頭が痛い―
訳ではないのだけど、
理由を話したって、
今日会ったばかりだし、
親しく何でも打ち明けられる間柄でもない。
だったら...
結局心配させるのだったら、
余り理由を話さない方を選ぶべきだろう。
僕が選んだのは、
二人が言うところの『頭が痛い』だ。
「うん...少し、ね」
いかにも頭が痛いかのように頭を押さえ、
ゆっくりと言った
―嘘の言葉を平気で、
躊躇せずに。
(僕も相当のひねくれ者だなぁ...)
もっと素直な人なら、
本当のことは言えない、
でも嘘もつきたくないと、
言葉を濁し、
口を閉じる筈だ。
その心が、
僕にはないのだ。
「...もう帰りますか?」
当然のことながら、
話はそこに行き着く。
僕はもう少し二人と―
特に由利ちゃんと話していたかったが、
僕が嘘をついたのだ。
良心を持った彼女達の前で。
それに頭が痛いのだから、
無理させては悪いと、
優しさから
由利ちゃんは言った。
それだけは―
それだけだったら、
僕は素直に受け止めなければならない。
(一応、大人?みたいなものだからね)
「有り難う、折角だけどそうして貰っても良いかな?」
僕は紳士的な口調で、
作り苦笑いをしながら、
同意を求めた。
「当たり前ですよ!具合悪いんだったら、尚更!」
言うや否や、
急いで立ち上がり、
帰り支度を始める未菜ちゃん...。
(高校生って、元気だよね)
テキパキとしていて、
なおかつ無駄のない動きを
呆然と見つめてしまう。
「未菜―少し落ち着こう」
ゆっくりだが、
帰り支度を始めた由利ちゃんが、
慌ただしく動く未菜ちゃんの肩に手を置いた。
「西田さん、驚いちゃって帰り支度出来ないから...」
僕の方に由利ちゃんが、
可愛らしい表情で、
笑いかけてくる。
(...あんな顔もするんだ)
思わず、
惚れてしまいそうになる。
「ああ、そうだね」
何とか言葉を継ぐと、
僕も立ち上がった。
家に帰るべく―。