06
「では、お礼を込めて乾杯!」
未菜ちゃんが紅茶のティーカップを高く掲げた。
(...危ないよ)
僕はコーヒーを飲みながら、
彼女の紅茶が溢れないかどうか、
心配で見上げていた。
「未菜、危ないよ」
由利ちゃんも
僕と同じことを思っていたのか、
心配そうに未菜ちゃんに言う。
「あ、ごめん由利。西田さんもすみません」
指摘されて急に恥ずかしくなったのか、
掲げていたティーカップを
下のテーブルに置いた。
「...由利ちゃんって、意外とはっきり言うんだね」
僕は率直な意見を述べた。
(初対面なのに、失礼なこと言ったかな?)
由利ちゃんの様子を盗み見る。
やっぱり、
可愛いな〜。
「そうですよね、見た目大人しい―てか、仲良い人以外にはこうゆうこと言わないんで、はっきり言うように見えませんよね」
未菜ちゃんも頷く。
「すみません...」
悪いことをしてもいないのに、
申し訳なさそうに謝る。
「いや、悪いことじゃないよ!むしろはっきりした性格の方が良いよ!」
僕は慌てて
フォローをする。
(気にするタイプなんだ)
いや、
僕とは知り合って一時間しか経ってないからだ。
絶対。
未菜ちゃんも、
そう言ってたからね。
「そう、ですかね」
探るような、
人のことを観察する目で、
見つめてくる由利ちゃん。
(うん、やっぱり可愛い...)
可愛過ぎて本当に
萌え死んでしまいそうだ。
「うん、そうだよ!由利は知り合い以外の奴には、余計なこと言って不快にさせない良い子!それにさー、仲良いうちらのことを一番理解して、的確なアドバイスをしてくれるから、だーいすきだよ!」
未菜ちゃんは優しく、
しっかりとした感想を彼女に―
由利ちゃんに伝えると、
嬉しそうに抱き締めた。
(...ぎゅーてしてる)
二人は一番の
誰よりも仲の良い大親友なのだろう。
でなければ、
あんなに互いに安心しきった顔をしないから。
少女漫画において、
恋を応援する主人公の友達は、
恋のライバル以上に必要不可欠な存在だったりする。
彼と主人公を支え、
少し強引にさせたり、
時には友達の肩を借りて泣く。
これが少女漫画の王道だ。
(って、何考えてんだよ僕)
二人の熱い友情を目の当たりにして、
もう描かない漫画のことを
思い出してしまうなんて。
何を考えても、
もう僕には全部意味のないものなのに...。
そして1つだけ、
最近の一、二作の自分の漫画に
足りないものを見つけた気がした。
それは―
友達との友情や、
愛することの喜び、
支える友達が居ないから、
彼に大胆に、
そして素直な気持ちをぶつけられなくて、
ライバルに譲ってしまいそうになる
メンタル面の弱さ...。
(そうだ!僕に足らなかったのは、これだ!)
自分は恋をしたことないから、
友情とか、
愛情とか、
人の持ち合わせた欲望に忠実に従う精神を
忘れていた。
「西田さん?どうかしましたか?」
僕は一人で、
興奮したように頭を整理していると、
心配そうな顔をした二人が居た。
代表して由利ちゃんが、
聞いてくる。
「あ、ごめん。大丈夫です」
僕は心配させまいと、
今自分に出来る
精一杯の笑顔を浮かべた。