死んだ理由と殺人計画。
「あーあ、つまんないの」
思わず私は一人で呟いた。
そこは私が最近よく通っている図書館の一室だ。此処でビアンカと一緒に色々な本を読んで、仲良くなって、折角自分が生み出したモンスターではない眷属がはじめて出来ると思ったのにさ。まさか魔人の眷属にさせる前に死んじゃうとか予想外すぎる。
ビアンカを眷属にしたら、二人で色々やろうと思ってたのにと思って足をぶらぶらさせる。
つまんない。折角楽しい事が起こると思ったのに、楽しい事ができると思ったのに。そう思って仕方がなかった。
ビアンカは死体で発見されて、街中でその事が話題になっている。此処は治安のいい街だから、殺人事件なんて滅多にある事ではないのだ。最もこの世界では人を殺す行為はありふれてはいるが。
私とビアンカが図書館で共に過ごしていたことを知っていた人々は、ビアンカが死んで私が悲しんでいると思ってか心配したように私に声をかけてくる。
ビアンカがいなくなったのは残念だな、つまらないなって正直思うけどしんでしまったものはどうしようもないから、周りの人々の思っているような悲しみは私は感じていない。まだ死体が確保できればモンスター化でも出来たかもしれないけど、現状死体を確保するのは無理。よってもう諦める。
ただビアンカが死んだことはもうどうでもいいとして、ビアンカが死んだ原因の方が気になる。
警備兵の見解では悪意を持った殺人というより、愉快犯的な殺人のようだと言われている。これは『ポイズンハニー』を一匹放って手に入れた情報だ。
殺すことを楽しむような人間が実際に殺人という行為に手をそめ、つかまりも死にもせずに街の中に潜んでいる。その事実に街の人々は恐怖している。
冒険者とかならともかく、普通の一般人は弱い。レベルも低いし、魔法を使えないものも多い。
そんな彼らにとって、魔法学園に通い闘う術を持っていたビアンカが殺された事実は恐怖以外何者でもないのかもしれない。
殺人鬼がこの町に潜んでいるというなら私も気をつける必要がある。どういう相手を対象に殺しを行おうとしているのかわからないが、無差別なら十分私も襲われる可能性があるのだ。
私も魔法を覚えてきているといっても街での生活の中ではレベルは上がっていない。下手に行動して勘付かれる可能性もあるからレベル上げにはいそしんでいないのだ。
ただ殺人鬼がこの街に潜んでいて、これからも殺人を犯し続けるいうならばこれは好機だと思うのだ。
何の好機かって、私が『はじめてのおつかい』ならぬ『はじめてのさつじん』をやる好機!
だってそうでしょう? そういう殺しをしそうな人間がいない状態で、殺しがおこったら誰が殺したんだって大騒ぎになって探される。殺しに証拠を残すつもりはないけど、何がきっかけでばれるかわからないから用心に越したことはない。
でも殺人鬼が潜む街で殺人が起きたら、周りは高確率でそれを起こしたのが殺人鬼だと思うはず。この世界は幸いにも地球のように細かい調査は出来ない。それに私が殺人鬼をまねた似たような殺しをすれば、『また殺人鬼が出た』と認識するだけだ。そいつが捕まった後に、『あれは俺がやってない』と一つの殺しをいったとしても信じるものはそうはいないだろう。実際に殺しを多く行った人間がやってないといっても信じる人間はいないと思う。
となると……、私としては私以外の人間を殺人鬼が殺す行為をこれから街でやってくれたら嬉しい。殺しがやりやすいからね!
そう考えると楽しくなってきた。
さっきまで詰まんなかったけど、これからおこること考えればわくわくしてくるよね。眷属に関してはビアンカじゃなくてもいつか調達出来るだろうし。残念だったとは少しは思うけど。
あー、やばいやばい。私は今友人をなくして落ち込んでる少女なんだから友人と過ごした図書館でニヤニヤしてたら不気味だよね。表情筋を引き締めなきゃ。
そう思いながらも私は落ち込んでますよーって演技をする。
ビアンカを殺したのが私、とか勘違いされても困るしね。
さて、とりあえず殺しのために計画をきっちり練らなければならないよね。私って疑われないように!
あと殺しやすい人選をしなきゃ、私じゃ殺せない可能性もあるし。やっぱ無力な女子供が有力候補かな? 人体の急所についてとか、殺し方とかも色々考えなきゃいけない。
ま、それはこれから殺人事件が連発すると仮定してだけど。
もしビアンカ以外殺す気がない殺人鬼っていうなら、今回の『はじめてのさつじん』は後回しにするしかないかな。んー、どうせならやる気満々だから連続殺人事件起こしてほしいかな。
あれだね、10人ぐらい殺しても足がつかめないのがいいよね、やっぱ!
もし『はじめてのさつじん』が成功したら、『殺人鬼がいる街は恐ろしいので』とかいってひとまず退散してダンジョン整備に励むのもいいよね! しばらく可愛いモンスター達にあってないからね。会いにいって愛でなきゃだよね。
人族を殺せたら、動物殺す以上にレベルアップするはずだし。
この街で冒険者から聞いた『普通のダンジョン』とは違ったダンジョンにしてやるんだからね。この街は本当に有益な情報が沢山だもの。ま、この世界でやってきたはじめての街だから当たり前だろうけど。
流石に観光の旅はもう少しレベル上がってからじゃないとしにそうだしなー。地道な作業だけど、地球で『経営ゲーム』とか大好きだった私からすれば凄い楽しい事なんだもんね!
地道な作業でダンジョン作成だなんて本当楽しそうと思って仕方ないことだと思うんだよね。
あー、やばいやばい。私は落ち込んでる子なのに考えたら楽しくなってきてにやけそう。
ま、とりあえずはしばらくはバイトして金稼ぎしながら1人にならないようにするべきかなー。
そんなわけで連続殺人事件起こればいいなー、って気分の次の日はバイトに励んでます。お金も少しずつたまってきたんだ。魔人って便利だよね。基本食事いらないし。
食費抜けるから、一人暮らしには優しい種族だと凄く思う。
だってさ、地球だと大学生の一人暮らしとかだと大変じゃん? やっぱ邪神様に誘われてここに来れてよかったって凄く思うよ。だってさ、普通にスリルも何もない生活なんてつまらないからね。断然、魔人として生きる方が絶対楽しいよ。
「アイちゃん、一人で街を出歩かないように気をつけるんだよ?」
バイトにいそしんでいたらミカヅキさんに心配そうに言われた。いい人だよねー。ま、私が魔人って知ったらこんな心配されないんだろうけど。私ミカヅキさんのお料理美味しいし、ミカヅキさんのことは嫌いじゃないんだよねー。
「はい。気をつけます」
にっこりと営業スマイル浮かべる私。
友人が死んで落ち込みながらも健気な少女と認識されてればいいなー。そっちの方が動きやすいし。
まず、殺人をするとしてもミカヅキさんは除外かな。というよりこの食堂で働く人たちはなるべくやめた方がいい。下手に調査に入られても面倒なのだから。
私が魔人ってばれたら高確率で殺されてBADENDだしさ。そんなの勘弁したいし。
ミカヅキさんと話しをした後は、料理をお客さんに届ける作業をしていた。その時になんか私をナンパしてくるあのウザ男もいてさ。
「アイちゃん、今度……」
「無理です」
いい加減しつこい男は嫌われるよーってわかんないのかな。本当にこいつ殺したくなるよね。確かに一般人に比べてこいつ大分レベル高いけどさー。なんつーの? 調子にのってるんだよね。
まぁ、外見もよくて女も放っておかない顔してるし、所謂勝ち組なんだろうなぁ。きっと私の事もいずれ落ちると思ってるよ、こいつ。
うーん、私じゃレベルがたらないからこいつ殺せないんだよねぇ。不意打ちだろうと対処されたら負けちゃうし。一番殺したいの、こいつなんだけどねー。一番いいのはこいつがビアンカ殺した殺人鬼に殺されることかな。
そうすれば「はじめてのさつじん」もしやすくなるし、この男にも付きまとわれなくなるし一石二鳥なんだけどな。
「そんなこといわずにさ。俺がおごるよ?」
「無理なんですよー」
ああ、何だか本当この男邪魔なんだよねー。あれだね、私が殺すとしたらバラバラ殺人事件的な残虐な殺し方したいぐらい邪魔かなー。折角ファンタジー世界これて、これから楽しみだなーとわくわくしている所でしつこいから余計なんかいらだつんだよねー。
「アイちゃんは本当つれないなぁ。俺がこんなに誘っているのに」
「じゃ、諦めてくださいよ」
まぁ、黒髪黒目なんてこの世界じゃ滅多にいないけどさー。探せば魔人以外でも少しはいるはずだし、私みたいに街に出てる魔人がいれば神様が連れてきたのが日本人なら全部黒髪黒目なんだけどなー。
「こら、アイちゃんが困ってるだろう!!」
おお、ミカヅキさん、かっこいい! 私かっこいい女性とか好きだよ。ガツンって男にいってやる感じがかっこいいおばちゃんだよねー。
さて、ミカヅキさんが対処してくれてるみたいだしバイトに戻ろうかなー。
でも殺す機会があったらあのウザ男、私が殺したいなぁー。
「はじめてのさつじん」を思うだけでドキドキのわくわくだよ。
どうか、連続殺人が街でおこりますよーにって願っとかなきゃね。