現実は夢見るほど甘くない。
人は将来に希望を見る。
悪い想像というのはあまりしない。希望を見て、夢をみて、成功するんだって期待を抱いて――――そしてやってきた現実があまりにも酷いものだと絶望をする。
幸せをため込ませて、期待を抱かせるだけ抱かせて、そうして絶望に陥らせたら楽しいんだよって私は思っている。
でもさ、本当、絶望的な状況がそろっているのに、自分はこれから幸せになれる、何とかなるって思い込んでいるのってびっくりなんだよね。そんな気持ちで前向き君の事を見ていた私だけど。
前向き君ってさー、なんだろう、女優ちゃんほど面白くないんだよね。正直言って。
女優ちゃんはさ、明確な目標を持って、それを成し遂げたけど、前向き君って他人任せな面があるように見える。てか、そうだと思う。なんでもかんでも他人任せ。誰かが助けてくれるかもしれないって希望を抱いているように見える。
冒険者になりたいって、一生懸命で、こいつ本当に人質の子の事覚えているのかなーって不安になるレベルで能天気。
とらわれているお友達の方は今も、前向き君が助けてくれるって希望を持っているのにね。
あはははっ、そろそろこっちはくるってもおかしくないかもね?
モンスターたちにとらえられて、たった一人のこの場の味方であった前向き君もいなくて、恐怖と孤独で震えて、そろそろ狂いそう。信じるって気持ちは過ごした時間が短いほど、なくなっていくものだ。どんな状況に陥っても人を信じるっていうのは難しくて。ま、だからこそ私はその信じる心を揺さぶって思いっきり遊んでいるんだけどねー。
前向き君はMP回復薬を必死に手に入れようとはしていない。女優ちゃんみたいに割り切れてはいない。女優ちゃんは手に入れるためにって必死で、だからこそあれだけ短期間でMP回復薬を持ってきた。
でも前向き君はそうではない。というか、手に入ればいいなって楽観的っていうかさ。
冒険者に「MP回復薬が欲しい」ってはいっているみたいだけど、理由を言わない前向き君に渡してはくれないらしい。っていうかさ、MP回復薬を一つ手に入れればいいと思っているらしいんだけど、一つじゃ私満足しないしー。女優ちゃんみたいにさ、大量にもってきてよねって感じ。
そろそろ期限の三か月たつしね。三か月を目前にしてもMP回復薬が手に入らなかったことに前向き君は焦りはしているみたいで。
あのね、冒険者たちに事情を説明しようとしたの。
ふふっ、その情報を聞いたときにね、お友達を殺したよ。そしてね、普通の蜂ですっみたいにまぎれてたポイズンハニーに冒険者たちを刺させたの。色々改良もしたし、即死ではないけれど、対応間違えると死ぬレベルのをね。
むふふふふ。その時の前向き君の顔って見ものだったよ。あ、そうそう私は人間に紛れて前向き君の周りうろうろしていたんだけどね。
「え?」
って呆然とした顔をしていた前向き君。周りに人がいないのをいいことに私は、
「あははは」
笑い声をあげたよ?
「え?」
前向き君は驚いた顔で私を見た。
「あれ、お姉ちゃん……前に」
私が前に声をかけてきた事を覚えていたらしい。震える声でそういう。
「ふふふ、バイバーイ。ジ・エンドだよー」
にっこりと笑ってそういって、前向き君に切り付けた。前向き君は倒れる。前向き君が動けなくなったから、私はポイズンハニーに刺されて麻痺みたいになっている冒険者たちを殺した。麻痺で固まっていれば、私にだって自分よりレベルの高い存在を殺せる。
「え?」
前向き君が震えている。死にかけの体で、恩人たちの死を見ている。
「私が、『魔人』だよ。じゃあねー」
私は絶望に染まった顔の前向き君にそう告げて、首を切った。
そして、私は―――それからダンジョンへと戻った。しばらくはまたダンジョンにこもろうかなって思って。だって、色々やらかしたしね? 昔の知り合いとかにもであって姿が変わってないこと突っ込まれても困るし。
それにしても、子供をさらって遊ぶのってなかなか楽しいね? めちゃくちゃいい感じだったよ。私は最高に楽しかった。まぁ、子供たちはそれなりに遊べる最高の玩具だったかなー? って感じ。
そして、その日私はまた神様から接触をされた。
『お前は、本当に元人間か?』
私という存在を楽しむような声だった。引いたり、怯えたりというのは一切ない。神様は邪神らしいからどんなに鬼畜な所業をする人間を見ても引いたりはしないだろう。
「ふふ、人間ですよー。神様」
心に響いてきた言葉に、自然と答えた。
ちなみに今は、マスター室にいるよ? 寛いでるんだよ。次はどんな風に遊ぼうかなーって考え中だったり。
「ねぇ、神様、これでもまだ会いにきてくれない?」
前に神様がいっていた言葉を思い出してそういった。
『もっと面白いと思えたら』
「あははっ、神様ってばもっと残忍非道なのがみたいんだ? いいよー、やってあげるから会いにきてね!」
『楽しみにしていてやろう』
神様の声はそんな偉そうな声で、終わった。




