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女優ちゃんの絶望。

 女優ちゃんは、もとはただの女の子だった。

 それこそ、普通の女の子。《魔人》に、私にさらわれるなんてことがなければ、普通に生きていただろう。私に脅されなければ、大好きなお友達が、仲良くなったお友達が人質になんてとられなければ―――。

 でも、そんな、たらればは何の意味もなさない。

 現実はそんなことをいっても仕方がない。たらればっていうのは、そうあってほしいという願望で、仮定でしかなくて、現実はそうではないのだから。

 現実では女優ちゃんは私っていう『魔人』に捕まって、友達を人質にとられているが故に私に逆らう事は出来ない。それでいて私の、甘言に惑わされて、それにすがって、友達を助けたいからって、普通の女の子から、私が面白いと思えるほどの目的のためなら何でも行う女優ちゃんになった。

 そう、女優ちゃんだって好きでそういうことをしたわけではない。

 誰かを犠牲にしてでも助けたいものがあったからこそ、女優ちゃんは一生懸命だったのだ。

 女優ちゃんがお世話になった人が自分のせいで死んでも、それでも笑っていたのは友達を助けられると、これで自由になれると生きていけるとそんな風に思ったから。

 そういう風に感じて笑える時点で、女優ちゃんは既にくるっているといえたのかもしれない。だって平常な状態ならきっとそんなことは出来ないから。

 そう、それだけ女優ちゃんは必死だった。

 友達を助けたかった。

 でも――――、MP回復薬を眷属のモンスターに渡して、笑顔で友達に会いにいった女優ちゃんは、

 「…………こ、来ないで!」

 久しぶりに会った、大好きな友達におびえた目を向けられていた。

 「え?」

 女優ちゃんの顔から笑みが消えた。

 「ど、どうしたの?」

 心配そうに、不安そうに問いかけた女優ちゃん。その不安そうな顔は、MP回復薬を手に入れるためにあれだけ非情になっていた少女と同一人物には見えない。

 だけど伸ばされたその手は―――パシッとはじかれた。

 「こ、来ないで!」

 怯えたような目を向けて、触られるのが怖いとでもいうように女優ちゃんのお友達は女優ちゃんを見ている。

 女優ちゃんは何がなんだかわからない。

 あはははっ、その理由は私が原因なんだけどね。女優ちゃんの非情な様子は、そのお友達に伝えられているの。女優ちゃんが友達を助けるためとはいえ、どんなえげつない事をしてきたのか、そういうことを。

 女優ちゃんとその子は確かに友達だっただろう。

 《魔人》にさらわれた同志であり、限られた空間の中で二人しかいないのだから仲良くなれた。

 「絶対に助けるから」といった女優ちゃんの言葉に、その子は頷いていた。でもそれから、大分時間も経過していたのだ。女優ちゃんと会わない時間が延びれば伸びるほど、そして、女優ちゃんが何を行ってきたか報告されればされるほど――――、お友達の中では女優ちゃんへの不信感などがましてくる。

 それに加えて、今、久しぶりに会った女優ちゃんは、確かに前とは違う表情をしていた。

 ―――それも仕方がないだろう。

 助けるためとはいえ、人を死に追いやったのだ。どんな犠牲を払ってでもという覚悟のために自分の手を染めた少女が、それ以前と同じままでいられるはずはない。

 「なんで……」

 「なんでって、あんなひどい事出来るなんて……っ。怖い。貴方の事が私は怖いの」

 なんでと問いかける女優ちゃんに、お友達は叫ぶ。

 あんなひどいことが出来る女優ちゃんの事が理解できないとその目は訴えかけている。自分が理解できないものを、人は恐れるものだ。そうして、その子は、友達であったはずなのに、女優ちゃんにおびえている。

 そしてあんなことが出来るなんてと女優ちゃんを責め立てている。

 それは、確かにその子のための行動だった。女優ちゃんがあんなに非情になってまで頑張ったのはお友達のためで、お友達と女優ちゃんが二人で生きるために頑張った。

 でも、それをほかならぬお友達に否定された。

 女優ちゃんは責められる中で、無表情だった。

 無表情なまま、ただその言葉を聞いて、そして次の瞬間、カッとなったかのように女優ちゃんはその友達を突き飛ばした。

 「え?」

 手を出されると感じていなかったその子は驚いた声を上げる。だけど、我を忘れた女優ちゃんは、心を壊した女優ちゃんは止まらない。

 女優ちゃんは何度も何度もお友達を殴った。

 そして、我に返った時には、お友達は動かない。死んでいた。

 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 そして、女優ちゃんは叫んで、自分から命を絶った。





 それが、女優ちゃんとお友達の結末だった。

 私はそれをただ、楽しんでみていた。




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