女優ちゃんの暗躍の結果である。
さて、あれからまたしばらくがたったんだよー。
ふふふふ、いたぶって殺した時にね、泣き叫んでやめてってあの子いっていたの。そういう子を押さえつけてね、絶望に陥らせて、遊んで殺したの。
そういう地球ではできなかったことが出来て私はほくほく顔だよ。
さて、そんな私が今何をしているかというと、あの女優ちゃんを見ているんだよ。
女優ちゃんはね、本当にびっくりするぐらいに女優ちゃんだった。だって人をだますスキルがやばい。
「私……、その、どうしてもMP回復薬が欲しいの。手に入れなければならないの」
涙ぐみ、そんなことを告げる。女優ちゃんの目の前にいるのは女優ちゃんを大好きだっていう、そういう男の子。
商隊の後を継ぐだろうといわれている、将来有望な少年。その少年に向かって、女優ちゃんはそんな風に泣きながら告げたらしい。少年は女優ちゃんに恋心を抱いているのもあって、泣きじゃくる女優ちゃんを見て心が動かされてるようだ。
「………お願い、お願い」
泣いて、泣いて、ただ懇願する。
男は女の涙というものに弱いものだ。特に、人生経験もない男なんて女優ちゃんみたいに自分を使い分けることが本当に上手い女の子にはすぐにだまされてしまうものだろう。
女優ちゃんの演技はそれだけ完璧であったといえる。というか、本当にすごい。私はそんな女優ちゃんが本当に絶望に追いやるのが楽しみで仕方がないくらいに楽しみだよ。
女優ちゃんはね、何処までも女優ちゃんなんだよ!! 本当に演技をして、人をだます事にためらいがないっていうか、私は本当にそんな女優ちゃんの事が楽しくて仕方がないよ。
女優ちゃんの涙に、少年は心を揺れ動かされていて、何度も何度も涙ながらに訴えかけられて、決意をしたようだ。
自らを後継者と押してくれる商隊を裏切る決意を。
恋と、家族。
それのどちらを取るかで少年は揺れ動いたらしい。その結果、恋心を取ったらしい。
面白いよねー。女優ちゃんとの関係なんて、短い間だけなのに! それでも恋心を取るなんてなんて楽しいんだろうか!
しかも女優ちゃんってば、それが《魔人》からの指示だなんて言葉は一切口にしていない。
大変だから手に入れたい、手に入れなければやばいって口にしている。
ふふふふ、女優ちゃんはどれだけの覚悟を持っているのかなって面白くなって、私はちょっかいを出してみることにした。
手紙をしたため、それを眷属のモンスターに持たせて、届けさせた。その時の、手紙を目にした女優ちゃんは無表情で、絶望に顔がゆがまない様が本当に面白いなぁと思った。
女優ちゃんは、私に捕まった時にもう決意していたのかもしれない。どんな犠牲を払ってでも、とらわれている友達を助ける事を。そうだねぇ、決意がなければ女優ちゃんみたいに女優はやれないか。それを思うと面白くて仕方がなくてわくわくしてしまう。
そして、手紙に対する返答がかえってきて、私は笑った。
「女優ちゃんは、面白いね」
思わず口にしてしまった言葉はそれだ。
本当に女優ちゃんは、割り切っている。覚悟を決めている。そんな女優ちゃんだから私は本当に嬉しい。面白い子で、こうして遊べることが出来て本当に嬉しい。
そして、それから数日後――――女優ちゃんはMP回復薬を強奪した。多大な犠牲を払って――――………。
「な、なんでこんなことに」
女優ちゃんの目の前で絶望に膝をつく少年がいる。女優ちゃんへの恋心から、女優ちゃんに泣いてほしくなくて、決断をした。
それなのに――――、目の前で広がっているのは今まで大切にしていた人たちの、死だった。
それを見て、無感動な瞳の女優ちゃん。
女優ちゃんの選択によって、少年の選択によって、商隊の人たちは死んでしまった。
私の眷属たちが殺した。
モンスターたちに囲まれた中で、女優ちゃんは立っている。
見下ろしている。絶望している彼を。
「ごめんなさい。私はどうしても手に入れたかったの」
それだけ告げる。顔をゆがめもしない。事情を説明することもしない。
それはそれだけの決意があるからだろう。自分が決意して、自分が行動したことなんだから言い訳もしない。そんな様は面白かった。
「うわああああああああああああああああああ」
絶望で声を上げる少年は、私の眷属のモンスターに殺された。
女優ちゃんはそれを見ている。ただ、無表情に見ている。
そして、MP回復薬を手に取る。手に取って、笑った。たった今、お世話になった人たちが自分のせいで死んだのに、笑った。
その様が面白かった。
それは彼女がくるっているって言えるのかもしれない。お友達を助けるために必死で、これで助かるって心の底から喜んでいる。
「あははははははっ、手に入れたわ。これで―――」
女優ちゃんは笑っている。心の底から嬉しそうに。
でも、ダンジョンへと戻った女優ちゃんからは笑みは消えた。
それは自分の帰りを待っていたお友達が原因だった。




