絶望を与えてみましょう。
さてさておじさんに報復をするっていう目標は達成できたわけで、私は次の遊びに移ろうと思っていたわけなんだよね。
それで次は何をしようかなーって、おじさんの死体で作った料理を口にしながら考えていたの。
そういえば、さらってきた子供たちの中で、さっさと死んでしまった子のペアの女の子に少年が死んでしまったことをまだ言っていなかった。
どのタイミングで言おうか考えていたんだっけと思い出した。
女の子の様子を眷属のモンスターたちに聞いたら、恐怖心でおかしくなりそうな中で、彼が助けてくれることを信じて気丈であるらしい。
なんだか、とらわれのお姫様かってぐらいなヒロインみたいな状況になっているよね。面白い。こういうのの物語って大抵、男の子はしっかり生きて、力をつけて戻ってきて、助けてくれるものだけど、現実はそういうのないよね。
正直私が《魔人》としてやってきたこの世界って、そういう甘い理想を打ち砕くような現実が沢山転がっているわけだしさー。人の命はとっても軽い。人はどんどん死んでいく。そういう世界である。
物語の世界は、そうってあってほしいと願う理想であると私は思っている。だからこそ主人公が救われるようなものばかり溢れている。
現実はそういう理想をあざ笑うくらいに厳しくて、私はそのことが嬉しい。
この現実はだからこそ楽しいのだとそんな風にさえ思う。
―――現実は一つの行動次第で変わるものなのだ。
そう、とらえている女の子を絶望に追いやるのも、希望にすがらせるのも私次第。
このまま先延ばしにしてもいいけれど、女優ちゃんと前向き君で遊ぶ前に希望を抱いている少女を絶望させてみようと思った。
少女を絶望させようと思い立ったのは、本当にそんな気まぐれな気持ちからだった。
少女がとらえられている場所へと向かった。
《眷属》の魔物たちも連れてだ。私自身が接触するのは危険かもとは正直思ったが、それでもやってみたくなったのだ。
「こんにちは」
にっこりとほほ笑んで、その場所へと現れた私を少女は不思議そうに見ている。
私があまりにも無害そうな見た目をしているのもあって、少女は私が今の状態の元凶である《魔人》であると理解していないことが見て取れた。笑ってしまう。見た目で人は図れないというのに。
「私はアイ」
「え、えっと」
「――――貴方をここに閉じ込めている《魔人》よ」
戸惑ったような少女にそう告げれば、見事なまでに固まった私が《魔人》だなんて考えもしなかったのだろう。なんだかおもしろい。
「《魔人》? え?」
「私と遊びましょう? 拒否権はないわ。この遊びであなたがかったら、貴方の待っている人を与えてあげる」
にっこりとほほ笑んだ。
嘘はいっていない。あの死んでしまった男の子の体は回収してあるのだ。
身体は返すことはできる。でも楽観的だったらしい少女は私の言葉に目を輝かせた。少年が死んでしまったことなんて欠片も思っていないのだろう。
「本当に?」
そんな風に目を輝かせた。
やることに決めたゲームはあえて少女が勝てるようなものを選んだ。この世界の平民たちが遊ぶようなちょっとしたゲームだ。
私はこの世界出身ってわけではないからそのゲームは聞き知っている程度でやったことはあまりない。だから明らかに少女有利なゲームとなる。
少女はそのゲームの名を聞いて、それなら私も勝てるかもというようにうなずいた。
結果としていえば、もちろんのこと少女の勝ちであった。
あえて、少女を勝たせるためにそれを選んだのだから当然である。寧ろこれで私が勝ったらびっくりだよ!!
「や、やった。これで……」
少女は心の底から嬉しいのだろう。瞳に涙をためている。
これで大切な少年にまた会えるとそう思って嬉しくて仕方がない様子の彼女に私は笑いかけた。
「おめでとう。じゃあ商品を与えるわね」
喜んでいる少女は負けたというのに私が笑っていることにさえ気づかない。
私は眷属のゴブリンたちに指示を出して、とっておいて腐らないように保存してある少年だったものを持ってくるようにと指示を出す。
目の前で少女は嬉しそうに泣いている。この空間に、モンスターだけしかいない場所で、何もやることもなく一人っきりというのはくるっても仕方のない状況だったといえる。そんな中でたった一人の味方にまた会えるというのだから、少女はどうしようもないほど歓喜しているみたいなんだよねー。あー、面白すぎる。
「ほら、彼だよ」
「え?」
そしてしばらくして眷属たちに連れてこられた少年だったものを見て、少女は固まった。だって、動物に殺された少年の体は見るも無残な姿で、かろうじてそれが少年だったものだと理解できる程度の原型しかとどめていない。
その少年だったものを、少女の前に置く。
そうすれば、少女は狂った。
「え、なんで、どうして! なんでええええええ」
先ほどまでの歓喜していた態度が嘘のように叫ぶ少女。
私は彼女に笑いかけた。
「あははははっ。その子ね、貴方を助けるために頑張ったんだよ。でも殺されちゃったんだ」
私は少女をあおるようにいった。
「無様よね。絶対に助けるからって出ていっておきながらって」
そんな風に告げるのは、少女の反応を楽しむためである。
少女は私が何か言うたびにぴくぴくと反応した。でも視線は少年だったものに向けたままだ。
「お前の、せいだ。お前がいなきゃ!!」
結局、少女はそんな風に泣きじゃくりながら告げて私に飛びついてきた。武器も何もないのに、私への殺意を胸に飛び込んできたんだよー。
私はそんな少女を、逆に取り押さえた。
そうすれば、我に返ったように怯える少女。
「ふふふ、じわじわ、殺してあげるね?」
私はそういって笑って、顔を青白くさせる少女をいたぶって殺した。




