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おじさんと私

 「おじさん、こんにちわー」

 「お?」

 「あれ? 私の事忘れちゃいました?」

 私はその日、とある町で警備員をしているあのおじさんに笑顔で話しかけた。この場にいるのは私とおじさんだけではない。

 おじさんの周りにはおじさんになついているらしい子供たちが何人も存在していた。

 おじさんは、前に会った時よりもやっぱり老けている。

 老けているけれどそれでも衰えてはいないみたい。いい事だね。おじさんの周りにいた子供たちはおじさんに「知り合い?」と聞いている。

 おじさんはうまくこの町でもいい人の仮面をかぶっているみたい。流石だよねー。てか、よくやるよねー。あはははっ。面白い。

 おじさんはねー、私の顔を見て一瞬驚いた顔をしたけれども、だけれども私が誰か思い当ったんだろう、笑みを浮かべた。

 「おお。アイちゃんか久しぶりだね」

 ってそんな風に笑って。いいねー、良い感じにくるっているね。いい感じだよ。私はにこにこだよ。変わっていないおじさんにさ。

 まぁ、《ポイズンハニー》たちから報告は聞いていたけれどもさ。それでもね、おじさんが前より腑抜けてたらつまらないって私は思っていたからさ。嬉しくて嬉しくて仕方がなかったんだー。

 だから私が浮かべているのは満面の笑顔だ。だって本当に心の底から嬉しいんだもん。

 「はい。お久しぶりです。その節はお世話になりました」

 「いや、いいんだよ。それで今日はどうしたんだい?」

 私とおじさんはにこにこと微笑みながら、穏やかに会話を交わしていく。

 この様子を見て誰も私とおじさんが殺し合いを繰り広げた仲だなんて思わない事だろう。

 「―――今日は、お礼を返しにきたんです。お世話になったお礼を」

 にっこりと笑って私が告げた言葉の意味をおじさんは理解したことだろう。おじさんは目を細めて、頷いた。

 おじさんはやっぱりおかしい。だって私とおじさんは殺し合った仲で、だからこそ、本来ならこんな和やかに笑いあえないだろう。でも、私もおじさんも普通ではないから。

 私はおじさんに殺されかけたけれど、おじさんを恨んでいるわけではない。私は寧ろ、おじさんという相手を面白がっている。だって、おじさんは異常者で、そんな存在は面白いとしか言いようがない。

 私は約束は守る主義だし、おじさんに私が生きていたら殺しに行くってそういったしね。

 「そうなのかい」

 「はい。ごめんなさいね、貴方たち、少しお話をしたいの。おじさんを借りて行っていいかな?」

 私が子供たちに申し訳なさそうにわらってそういえば、子供たちは疑いもせずに、私が良い人だと信じ切っているような無邪気な笑みを浮かべていた。

 「うん」

 「いいよーお姉ちゃん」

 そんな声が返ってくる。なんて滑稽なのだろう。なんて、愉快なんだろう。全く気付くことなく、私にだまされる彼らを見て思う。

 本当にこうやって私を勘違いしている子供たちを、絶望に陥らせたらなんて楽しいんだろうか、そんな妄想さえわいてくる。そうしたら、そんな風に出来たらっていうそういう願望がわいてくるけれども、私はまだまだ弱い。大量虐殺なんて出来るほど強くはない。

 もっと、もっと力があれば、私はもっと、楽しくこの世界を楽しめるのだ。そのために死ぬわけにはいかない。私は生きて、この世界を楽しみたい。

 この世界で、魔人として、私は精一杯楽しむのだ。

 そのためには、

 「二人っきりだね、おじさん」

 このおじさんとの遊びに勝たなければならない。私が生き延び、おじさんが死ぬ未来を私の手で生み出さなければならない。

 未来はね、わからないからこそ楽しいんだ。まぁ、でも死にたくはないかな。だってまだまだやりたい遊び沢山あるんだから。死なないために、おじさんとの遊びで殺されないようにしなきゃ。

 「そうだね、アイちゃん。見た目が変わっていないとは驚きだよ」

 笑顔の私に、笑顔のおじさん。

 おじさんは、笑っている。楽しそうに。面白そうに。

 「―――私は人間ではないからね。おじさんは老けたね」

 「へぇ、そうか。まぁ、そうだろうとは思っていたが」

 「あははは、おじさん、私はね、《魔人》だよ」

 私とおじさんはにこやかにほほ笑んで、そんな会話を交わす。

 私の言葉におじさんの目が見開いた。おじさんも私が《魔人》だということには少し驚いたらしい。

 まぁ、《魔人》って一般的認識ではダンジョンの外には出ないものらしいからね。

 「《魔人》ね。本当に人間と変わらないんだ」

 「見た目はねー、中身は違うよ」

 「なんで《魔人》が人間の町に? もっと君のように《魔人》は町にやってきているのかい?」

 「ふふ、私は遊ぶため。でも、他の《魔人》は違うと思うよー。っていうかね、《魔人》も元《人間》だからさー。あんまり《人間》を殺したくないよーっていう人は出てこないっぽいよ。まぁ、他の《魔人》にはあんまりあったことないけどね」

 「そんなに私に喋って大丈夫なのかい?」

 「ふふ、大丈夫だよ。だっておじさんは私に殺される予定だから。死人に口なしっていうでしょ?」

 私がそういって笑えば、おじさんも笑った。

 「おじさん、夜にね、町の外の―――」

 そして私とおじさんは一つの邂逅の約束をするのだ。





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