男は夢を見ます。
女は女優とはよく聞く言葉である。事実、女は自分の利のために演技をしたりなどといったことは地球にいたころからよくある話だ。
欲望に塗れた女というものは恐ろしい生き物である。
私も自分が楽しみたいっていう欲望の元に、動いて人間の敵だと思えるようなことを散々起こしている事を思えば確かにそうだろうなーとか思っていたり。
それでさ、男は夢を見るものだと思うの。
よく言えば前向き、悪く言えば馬鹿っていうかさ、単純に物事を考える人って多いって私は勝手に思っている。
どうして私がそんな話をしているかというとさ、あの女優ちゃんとは別の子、冒険者たちと一緒に過ごしている男の子の方は、なんていうか、《魔人》である私に人質を取られていて、それをどうにかするために無理難題を押し付けられているっていうさ、そういう客観的に見ても色々と不幸なことになっているわけでしょ?
でもそれでも前向きっていうか、何とかなると思っているような、希望を心に秘めているようなそんな感じなんだよ。
前向き君は、冒険者たちと信頼関係を築いているっていうかさ、冒険者たちの事を尊敬して、様々なものを学んでいる。冒険者たちも前向き君の事をとても可愛がっているようで、前向き君が《魔人》の手の物だなんて全く考えてませんよーって様子で様々なものを教えているの。
私はういう話を偵察に出していた《ポイズンハニー》たちから念話で聞きながらも、《魔人》に大切な友人の命を握られておきながらも、あそこまで前向きで、希望を持っている前向き君の事が面白くて仕方がなかった。そういう希望を持っている人間って、どん底まで落としてあげたくなるよね。
どん底まで落として二度と立ち上がれないようにしてあげたい。
そうしたらどれだけ楽しいだろうか。
そうだ、一人目のあっけなく死んだ子の情報をまだ、もう一人の子にも流していないんだよねー。どのタイミングでばらせば絶望に陥るかな。それを考えるだけでどうしようもないほどわくわくするよ。
私は人を絶望に追いやるのって、正直好きだよ。性格悪いって言われようと人が正気でいられなくなる瞬間ってとっても楽しいと思っている。
まぁ、それはともかくとしてさ、前向き君のことどんなふうに絶望に落とそうか。どんなふうにその目に宿る希望をぼっきりとおってあげようか。
あー、ダメだ。それを考えるだけでどうしようもなくわくわくがとまらない。興奮して、どれだけ絶望に私の行動で染められるかって考えるだけで心臓がばっくんばっくんいっているのがわかる。
私はこちらにも接触してみることにした。
まぁ、あまりにも人間たちと接触しすぎても《魔人》だってばれて面倒なことになるかもしれないけどさ、ちょっとね、接触して遊びたいんだよ、私は。
自分が危険になり、それに加えて命の危険にさらされるとか正直な話を言うと絶対に嫌。私は死にたくはない。この楽しい時間を、《魔人》としての日々を永遠と続けていきたい。だって玩具はまだ沢山ある。楽しむ方法はいくらでもあるんだもん。
そう、死にたくはないけれど、あの前向き君は私が接触したらどんなふうに言葉を返すんだろう、そして女優ちゃんのように声をかければ何て言葉を返してくるんだろう。
わくわくして、うずうずして、どうしようもなくて、だから接触した。
「凄いね、小さいのに冒険者たちに混ざって」
ただ、普通に一般人を装ってそういって笑ってあげた。もちろん、その顔に張り付けられている仮面は、小さな子供に笑いかける優しいお姉さんといった顔だ。
優しく微笑みかければ、前向き君は欠片もこちらを警戒していなかった。幾ら冒険者見習いとはいえ、私が切りかかったらすぐに死にそうだなーって思うぐらい警戒心がない。
うーん、《魔人》の手のひらで踊っているって自覚あるのかな、と思えるぐらいだった。っていうか、人質にとられている子いるっていう状況で、これだけ前向きって凄いと思う。
前向き君は照れ臭そうに「そうかな」と笑った。
「今からこうして冒険者たちに混ざれるなんて、将来英雄にでもなれるのかもね」
なんて、心にもない言葉をその口から言い放ったのは、前向き君がなんて反応を示してくるのかといった点が気になったからだ。
そしてかえってきた返答を聞いた私は、爆笑するかと思った。
「そう、かな。僕、頑張る」
って、そんな《魔人》の手のひらにいるのにどうして前向きでいられるのって意味不明なぐらい前向きだった。悲観的ではなく、私っていう《魔人》がその命握っているっていう状況でありながらなんでそんな将来に期待できるんだろうね? もう、本当楽観的すぎて笑いたくなった。
馬鹿にしたように爆笑したくなった。
「うん。君ならきっとなんだって出来る英雄になれるよ。頑張って」
「うん、頑張る! まずは目標を達成する! そして僕は冒険者として活躍するんだ」
目標というのは、助け出すことなのかもしれない。
《魔人》の目の前でそんな発言するなんて面白いね。まぁ、私が《魔人》なんて欠片も理解していないからっていうのもあるんだろうけど、もっと無防備で、前向きすぎて笑いそう。
うん、いいね、その自信私が絶望に変えてあげる。全部、へし折ってあげるから。
そんな風に考えながらも私は前向き君の前で優しいお姉さんを演じたのであった。




