女は女優です。
女は女優。そういう言葉は地球にもあった。けど、本当に小さくても女は女で、自分の思うがままに人を動かすために、目的のためなら本気で人をだませるのだと、それを私は《ポイズンハニー》たちからの報告を聞いて思った。
そして面白くて仕方がなくて思わず口元が緩む。ああ、なんて愉快。なんて面白いんだろう。やっぱり人で遊ぶのは面白い。
そうなの、あのね、商隊に拾ってもらった女の子、大好きな友達を救うためにって本当にガチなの。やばいね、あんなに小さい女の子でもやっぱり女は女優なんだなーって。私も油断させるために自分をか弱くみせたりとか、結構そういうことはするよ? だってか弱い見た目は自分で利用するためにあるものなんだもん。
ふふ、それをよくわかっているあの子――名前知らないから、もう女優ちゃんでいいよね――って凄い私と気が合うんじゃないかなって思ってたり。自分の見た目をとことん利用するっていうのは、偽善的な感情を持ち合わせていたら完璧にはこなせないもんねー。
まぁ、私は地球にいたころからそういう罪悪感とか欠片も感じることもなく、ただたんに私が自分の思うがままに遊んでいたんだけどね。人が自分の演技に完璧にだまされて、私がか弱い女の子だからって簡単に信じ切って馬鹿みたいって馬鹿にしていた。だって面白いでしょう? っていうか、私が性悪だってこと、気づかないのって最高に面白いんだよ。
私ってさ、自分でいうのもなんだけど凄い性格悪いと思うんだ。というか、性格が良い人であったならばこうやって《魔人》なんてものになって、楽しんで人生を謳歌するなんてそんな真似できるはずないじゃんか。そうやって楽しんで遊んでいる時点で、私はどうしようもないほどに性悪だって証拠なんだけれども、本当に面白いくらいに周りはそれに気づかないんだよね。
で、まぁ、女優ちゃんの話に戻るんだけど、女優ちゃんの潜伏した商隊ってそこそこでかいんだよね。それでいて皆が女優ちゃんの事を好いている。なんていうか、女優ちゃんってマジ女優なんだよね。人に好かれるコツを知っているっていうか、どうすれば大人を油断させられるか知っているっていうか。
正直町からさらってくる子供たちが以前どんな生活をしていたのかなんて欠片も知らないんだけど、女優ちゃんに関してはどういう生き方をしてきたんだろうって興味が出てきてたまらなかった。だって女優ちゃんってば凄いんだもん。まだ小さな子供でありながら、大切な存在のためにってあれだけ割り切れる子ってそうはいないと思うんだよね。
ある意味狂っているって言えるのかもねーって思える女優ちゃんだよ。
商隊の人たちって女優ちゃんの事可愛がっていて、女優ちゃんに幸せになってほしいと思っているみたい。まぁ、実際に私が見た光景ではないんだけど。
私って町でちょっとやらかしたからさ、人間の町に出て姿変わってなかったら面倒かなっていってなかったんだけど、正直そろそろいいかなーって思って、商隊の様子見に行くことにしたの。
幻影の魔法はね、正直まだまだ私は弱いから魔法を使っているってことで逆に警戒されて面倒そうだからそのままの姿で、知り合いがいたら知らぬがふりして押し切ろうってことで。
実際に女優ちゃんと会話をしてみたいなーって思ったからってのもあるけどねー。
そんなわけで私は女優ちゃんへと接触を果たした。
普通に商隊に買い物に来た少女ってことでね。女優ちゃんはにこにことしていた。一生懸命接客をしていた。その一生懸命な態度を見て、何人もの人たちが女優ちゃんから商品をかっていた。
商隊の人たちはうちの看板娘だと高らかに自慢していた。
「頑張っているんだね」
「うん、やりたいことがあるから」
私が声をかければ、女優ちゃんはそういって笑った。やりたいことというのは、私のところにとらえられている大事な人を救い出すことであろう。
いくら女優ちゃんといえども、こうやって《魔人》である私が接触してくるなんて考えてもいないのだろう。この商隊や町の人たちだってそうだ。《魔人》が平然とこうやって傍まで現れるなんて考えていない。
彼らにとってみれば、《魔人》は人前には出てこないし、出てきたとしても何かをやらかすときだという認識でもあるのだろう。
「やりたいことか、なんなの?」
「…秘密」
「ふふ、そうなの。秘密かぁ。なんだかわからないけれど、頑張ってね」
「うん、絶対にやり遂げる」
にこにこと微笑みながら、穏やかな笑みを浮かべながらも女優ちゃんは私の言葉に頷いた。
やっぱ面白いなと改めて思う。だって女優ちゃんがそれをやりとげるってことは、今お世話になっている商隊を裏切るってことなのに、やり遂げることをためらわないって頷くんだから。
あははは、もう面白い。
どんなふうに女優ちゃんは華麗にこの人たちを裏切るんだろうか。それを思うと私は楽しくて仕方がなかった。




