謎の声の接触とか、この世界にこれた幸福とか。
この世界にやってきてもう何年も経過しているけれど、全然飽きなんて来ない。この世界は楽しい。私はこの世界が好き。この世界に《魔人》として存在できる事に心から感謝したい。本当に、本当に、嬉しい。
この世界で、こうして好き勝手に遊べる事が。
ビアンカが殺されちゃって、はじめての殺人を行ったのも。
殺人鬼と殺し合いをして、飛び込んだのも。
ポルノを誑かして、トラウマを植え付けるのも。
初心者冒険者をどうしようもないほど痛めつけて殺すのも。
ハーレム男で遊ぶのも。
アルシアを殺して、食べたのも。
ポルノにもう幻影の魔法で近づいて遊んだのも。
全部、全部本当に楽しかった。
心が躍って、どうしようもなくわくわくして。私はこの世界にこれた事に心の底から感謝している。
地球で過ごした十六年なんて吹き飛んでしまうほどに、私はこの世界を楽しんでいる。
―――だって、私にとって地球での生活は退屈の一言で尽きた。
優しい両親は私の事を愛してくれていただろう。私の事を可愛がってくれていただろう。お兄ちゃんもお姉ちゃんも私を可愛がり、自他認めるシスコンというやつであった。私は愛されていた。私は可愛がられていた。
だけれども、私はそんな環境に満足していなかった。優しすぎたからこそ、満足できなかったというのが正しいのかもしれない。刺激が足りなかった。刺激がほしかった。
優しいだけの日常に満足していない人でも、結局の所日常をのちに求めてしまうものかもしれない。だけど、違った。非日常を求めていた私は非日常に酔いしれて、この地球では決して味わえない思いや楽しみに胸を躍らせている。
家族に対する未練なんてない。そもそも私にとって地球での関係のあった人間はもう過去の人間だった。どうなろうと知った事ではないし、元から特に関心もなかった人たちだった。
っていうのに、異世界に来て益々実感した。
お母さんは金持ちの娘で、だけれども常識を持ってる普通に良い人だった。
お父さんは社長をしていて、だけど家族の事を大切にしていた良い人だった。
お兄ちゃんはシスコンで、家族思いで医者を目指していた良い人だった。
お姉ちゃんはシスコンで、優しくて大学に通っている良い人だった。
良い人で、平穏な暮らしは出来たけれどもそれはつまらなかったのだ。本当に。退屈で、窮屈で、どうしようもなかったのだ。きめられたレールの上を歩く事が嫌だった。何処までも決まりがあって、その決まりを破ることは許されなくて。やりたいことなんてできなくて。つまらない世界だった。だからこそ、私はこの世界に喜んでやってきた。
『―――面白い』
思考し続けていれば、何処からか声が響いた。
耳に響いているというわけではない、何だか頭の中に直接響いているような声であった。
私は驚いた。驚いたけれども、なんだか無性に嬉しくなった。これが私の幻聴だったとしても、それでも面白いなって心が躍ったのだから。
そんな思考を、心の中に響く声は読んでいるかのように次の言葉が響いてくる。
『はははははっ、面白いなお前』
響く声に対し、疑問も恐れも居たくことはなかった。そんなもの、抱く必要性はない。だってどんなに不気味で、どんなに不思議な声だったとしても。どうして声が聞こえるかわからない声だったとしても。
――楽しい。そして、面白い。それだけでもう、私にとって嬉しくて仕方がないことで。
『嬉しいか。本当に変わった面白い奴だ』
心の中に響く声は、私を面白いと称する。誰かなんてさっぱりわからない。けれども、まぁ、いいや。別にそんなのどうでもいい。誰であろうと私を楽しませてくれるなら、面白いって思わせてくれるならそれでなんでもいい。
『―――じゃあ、これからも楽しませろ。お前が俺を楽しませてくれるなら、俺はまたお前に接触する事を約束しよう』
そんな言葉が聞こえる。響く。私が楽しませれば、この声の主はまた私に接触してくるとそんなことを言う。
そうなったらもっと、もっと楽しいかなってそう思えるから私はそれに笑みをこぼす。
それ以降、声は響かなくなった。もしかしたら私の幻聴なのかもしれない。でもそれでもいいとさえ思う。幻聴だったとしても面白かったことには変わりがない。楽しかったって事は事実だった。だから、何でもいい。
声に従って、声の主を楽しませられるかわからないけれど私は私が楽しめるように、これからも『魔人』として行動し続けよう。
地球では、平和すぎるあの場所では、与えられる事がなかったこの喜びを、楽しさを、嬉しさを、開放的で満たされる気持ちを、もっともっと、感じられるように。
家族も、友達も、人間としての人生も、全て捨てた。捨てて私は異世界に喜んでやってきた。満たされてるんだ。地球では決して得られなかったこの快感に。
『魔人』としてこの世界で生きられる事を私は幸福に思う。




