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(私にとっては)楽しい誕生日。

 「おめでとう、アルシアさん」

 私はアルシアに向かってにっこりと笑った。今日はアルシアの誕生日。

 アルシアに出会ってからアルシアの誕生日を一応義務的に祝っていたけれども、今年は特別な日なの。私が今まで築き上げたものを達成する日。

 だって今、この時のために、思いっきり楽しむために私はアルシアにこれだけの時間を割いたんだもん。これだけ時間をかけて、思いっきり楽しもうとしているのに失敗するとかありえない。そんなの私は認めないし、絶対にいやだ。

 まぁ、失敗したらしたで楽しいかもだけどさー。折角同じ《魔人》に出会えてはじめての遊びなんだから成功させたいよね。私は本当に心の底からわくわくしているんだ。アルシアで遊べる事を。アルシアの精神を崩壊させる事を。

 「わぁ」

 アルシアが感嘆の声を上げる。

 今年のアルシアの誕生日は今までよりも盛大に祝っているの。私がアルシアを騙すために作った偽のマスター室の中に、ケーキとか料理とか大量に並べられている。去年よりも料理の数も多い。飾り付けも派手にした。

 「なんかいつもより凄いね」

 「ええ。今日は特別な日ですもの」

 「特別な日?」

 「はい」

 不思議そうなアルシアの言葉に私は頷く。アルシアはその言葉に何も言わなかった。ただよくわからないという顔を浮かべながらも確かに笑っていた。

 ああ、なんて愚かなんだろう。私が与えたいのは絶望なのに。私がアルシアに与えようとしているのは、確かな死なのに。それを一切考えないだなんて。

 「アイちゃん、誕生日を祝ってくれてありがとう。毎年、こんなに祝ってくれて。この世界で私の誕生日を祝ってくれているのなんてアイちゃんだけだよ」

 泣き出しそうに、だけれどもうれしそうに言葉を発する。

 私の用意した食事(もちろん人肉含む)を食べながらも私に信頼のこもった目を向けている。一切そこに疑いはない。

 心からのうれしさを、心からの感謝を。

 その純粋で、真っ直ぐで、明るい笑みはそれを私に見せつけていた。

 にこにこしているアルシアを見ながら、私が感じていたのは殺したくないとかそういう思いじゃなくて、ああ、早く殺したいなっていうそれだった。殺したかった。これだけ幸せそうな笑みを浮かべているアルシアだからこそ。

 幸福に満ちて、自分の不幸をまったく考えていないアルシアにだからこそ、どうしようもないほどの、精神が崩壊するほどの絶望を感じさせてあげたかった。そしたらきっと私は楽しい。どうしようもないほど興奮して思わず笑い出したくなる。

 「当たり前です。アルシアさんは私にとって特別な人ですから」

 そう、アルシアは特別。私が長い時間をかけて騙している最中の、私と同じ地球からやってきた特別な玩具。

 ずっとアルシアは私の作った料理を食べながら笑っていた。


 そして、食事が終わる。


 「アルシアさん、誕生日プレゼントを渡したいのですが」

 食事が終えると私が告げたのはそんな言葉だった。

 「ここでは渡せないものなので、私のダンジョンの方へいきましょう」

 私がそういって笑えば、アルシアは嬉しそうに顔を綻ばせる。そこに一切の疑いも、恐怖も何もない。本当にアルシアは私を心から信じ切っている。

 私とアルシアはそのダミーのマスター室を後にする。

 私のダンジョンは、まだ相変わらず小さい。この世界にやってきてもう8年目だから少しずつでかくはなっているけれどね。私ってよくばりなんだろうなーって自分で思うのだけれども、ダンジョンをでかくする事以外にもやりたいことが多くてなかなか発展するの難しいんだよー。

 ダンジョンを出現させてから何年もたっていて、流石に多くの冒険者が私のダンジョンに訪れるようになったから油断したら私の第二の人生終わったいそうで凄く困っているんだけどねー。それにかわいいモンスターたちが死ぬのも正直嫌だから精一杯モンスターたちが死なないように努力しているんだよ!

 まぁ、ここ数年はアルシアを騙す事に労力を費やしていたから、色々忙しかったんだけどね。ダンジョンを発展させすぎてもアルシアに訝しがられる要因になりそうだし、あまり大きな変化は起こしていない。

 ポイント使って適度に追加したものはあるけれどまだ大部分は残っている。アルシアを思いっきり壊したら、もっと急速にダンジョンを発展させようと思っているの。

 「アイちゃん、ご機嫌だね」

 私がこれからアルシアを殺すことを思ってにこにこしていたら、アルシアは私がご機嫌なのが嬉しいのか笑っていた。

 私はアルシアを殺すための場所にアルシアを誘導していて、そしてアルシアを殺す事を思ってこれだけにこにこしている。

 アルシアは誕生日プレゼントに何をもらえるんだろうという期待と、私がにこにこしているのをみて微笑んでる。

 遠目にみたら私とアルシアは仲良く笑い合っている少女なのかもしれない。最もその心中はまったく違うけれどね!

 「アルシアさん、止まって」

 私は森の中央部にたどり着くとアルシアにそう告げた。

 一応モンスターたちに見張らせているけれど、いつ冒険者がここにやってくるかもわからないからなるべく迅速に終わらせなきゃね。

 アルシアは私の言葉に立ち止まる。

 「ねぇ、アルシアさん」

 私はその顔に笑みを張り付ける。どこまでも、優しい笑みを、あえて浮かべる。

 私の目の前に立っているアルシアに近づく。アルシアは私を一切不審に感じていないようだ。私が右手をアルシアの見えない背中の位置にやりながら近づいているのにも何も思っていないらしい。

 私は、アルシアに近づくと告げた。

 「アルシア、私の誕生日プレゼントうけとって」

 満面の笑みを浮かべて――偽りを一切取り除いた殺す事にわくわくしている笑みだ。恐らく見ているものからすれば性悪な表情だろう――、それと同時に右手を動かし、やったことといえばアルシアの身体を切りつける事だった。

 「え」

 アルシアの顔は、驚愕に歪んでいる。

 何が起きたか一切理解できないという表情に、私は愉快な気分になる。アルシアの身体――丁度胸からお腹の部分から血があふれだす。でもそこまで大きな傷ではない。私はあえてアルシアに致命傷になるような傷を与えなかった。やろうと思えば心臓を一刺しする事も出来たけれども、あえて浅い傷をアルシアにつけた。

 なんでって、そんなの私が楽しむために決まっている。私がアルシアを甚振るために決まっている。折角の特別な玩具をすぐに殺しちゃうのはつまらないでしょう? だから遊ぶの。

 アルシアが唖然としている間に、私の可愛いモンスター達は動いていた。

 アルシアの背後から現れた私の可愛いモンスターである《コボルト》五体が、一気に襲い掛かる。アルシアを絶望させるのにそれほど多くのモンスターはいらない。そもそもアルシアで遊ぶ事にモンスターを集中させて、冒険者たちに好き勝手やられるのもいやだしね。

 アルシアは倒れる。倒れたアルシアの身体を彼らは抑える。魔法を使われても、抵抗されても面倒だからアルシアの顔は一人の《コボルト》によって試作的に作った小さな毒沼(ノートパソコンぐらいの大きさ)に頭を突っ込まされる。

 《ポイズンハニー》の毒を抽出して、そこにためてあるの。これで麻痺状態になるでしょう? 仰向けの状態で、毒沼に顔を突っ込まれ、身体を拘束されているアルシアを私は見下ろす。

 アルシアと目が合えば、なんでとでもいう風に、信じられないとでもいう風に、声をあげようとして声を上げられず、苦しんでいた。その表情はどこまでも絶望している。

 「誕生日プレゼント、あげる。―――私が楽しむために、思いっきりの絶望をね?」

 ふふと笑えば、アルシアがおびえたような表情を見せた。

 というか、現状でもアルシアはどうしようもなく絶望しているんだろうね。だって抵抗ないよ。あれだね、ショックすぎて動けないみたい。

 そんなアルシアをもっと絶望に落とさせてあげましょーってわけで、私の暴露大会開始だよ?

 「私は楽しいことが好き。地球ではできなかった事をするのが好き。―――人を殺す事も好き」

 だって人殺しは地球では決してできなかった事だもの。私は好き勝手に、たのしんで人殺しができるからこの世界大好き。

 「アルシアの事は最初から殺すつもりで仲良くしてたんだよー? 私が同じ地球人だからって安心しきちゃってさぁー、何度爆笑しようかと思ったんだよねー。あっはは」

 私はきっと歪んだ笑みを浮かべている事だろう。どこまでも残忍な、どこまでも歪な笑みを。だからこそ、アルシアがどうしようもない恐怖心で一杯だとでもいうような表情を浮かべているのだろう。

 「こーんな、性悪な私を信じ切って。本当に愚かだねぇ。あはっはっ。あのね、アルシア。貴方に食べさせてたの、モンスターと人間の肉なんだよ?」

 ねぇ、絶望して。もっと絶望した、顔を見せて。そしたら私はとっても楽しくなる。そしたら私はもっとわくわくする。

 「《人間》の肉だよ。ニ・ン・ゲ・ンの肉! いつの間にかアルシアは人間を食べちゃってたんだよー? あはっ、絶望した?」

 私の視線の先で、見下ろす先で、アルシアの表情が益々どうしようもないほど崩れていく。ああ、これほど絶望した人の顔を、こんなに近くで見たのは初めてだ。

 ―――ああ、なんて、なんて愉快な気分なんだろう。これほどの絶望を感じた表情を浮かべさせているのが私で、私の掌で踊った結果、アルシアがこんなに面白い表情を浮かべているだなんて。面白い。面白くて仕方がないよ、私は。地球にいた頃は決してできなかった事。だって地球で私は適度に人を振り回す程度の”良い子”だったもの。この世界には法律なんてものは地球ほど厳しくなくて、《魔人》に関して言えばそんなものはない。なんて、楽しいんだろう。

 異世界に来られるだけで最高なのに、こんな《魔人》なんていう好き勝手できる種族になれるなんて、もう私をこの世界に連れてきた神様愛してる! 私の人生はもう輝いているよ!

 まぁ、《魔人》としてではなく普通の《人間》としてこの世界に来ていたならば《人間》としての枠組みにはまった行動をしながらも遊んでたけどね。それはそれで楽しそうだしねー。

 アルシアはそこまで聞いて自由の利かない身体をバタバタと動かして、ごほごほと苦しそうな声をあげている。あはは、毒沼に顔突っ込んだままってつらいよねー。麻痺しかしない毒にしろ、それでもつらいよねー。

 「あとね、《偽人》って存在実はいないのー。私が勝手にでっち上げた存在だよ? だから、アルシアは人肉を食べた殺人鬼ってことになるかなー」

 暴れていたアルシアが固まる。泣き出しそうな、絶望したような表情を浮かべながらも死にたくないとその目はいっている。ああ、生に執着していて、おもしろいね? 

 「ねぇ、アルシア」

 にっこりと私は笑う。その笑みを見て、アルシアはおびえながらもこの状況からにげたいと無意識に身体を動かそうとしている。

 「貴方は特別。特別な玩具。私がこの世界にやってきてはじめてあった地球人」

 突然そんなことを言い出した私に毒沼の中でげほげほいいながらもアルシアはこちらを見てる。

 「だから、食べてあげるねー」

 私がにこやかに笑って告げた言葉に、アルシアの目が見開かれる。

 「あのね、私、この世界で色々と遊んでて、それでやってみたいと思ってたの。―――生きたまま、食べてあげる」

 私はそう告げて、手に持った刃物でアルシアの”肉”をそぐ。

 痛みにアルシアの顔がゆがみ、どうしようもない恐怖心にその顔はまた歪む。ふふ、《魔人》って《人間》より頑丈だからしばらく死なないもんねー。ちなみに面白く遊ぶために《ポイズンハニー》の毒の中に顔を突っ込んでどれだけ《魔人》が大丈夫かも私自身で実験済みだよ。ちなみにそれしたら《毒耐性》がついたからいいんだよ!

 削いだ”肉”をアルシアに見せつける。見せつけたそれを炎であぶると、私は持参していた味付けのためのものを振り掛ける。その様子をアルシアが見ている。凝視している。目が離せないとでもいうように。

 そして私は―――アルシアの目の前でアルシアの”肉”を食べた。

 アルシアが声を上げる。どうしようもないほどの、絶望した声を。

 ああ、その表情が見たかった。ああ、本人の目の前でその人の肉を食べるとこういう反応を人はするのか。人肉を遊びで食べるようになってからずっと思ってた。生きたまま食べたらその人はどんな面白い反応をしてくれるんだろうって。

 「ふふ、味わって食べてあげるねー? アルシアもうれしいでしょー? 大好きな親友の私の一部になれるんだよー?」

 そんなことを言いながらも私はアルシアを生きたまま食べるのであった。






 それからアルシアは死ぬまでずっと私に食べられ続けたのであった。死に際のその表情は私が求めた絶望した表情で私はどうしようもなく興奮したのであった。





 

次回はアイ以外の視点予定。

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