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誕生日プレゼントをあげましょう。

 この世界と地球って日付間隔って何となく似てるんだよね。敢えて私をこの世界に連れてきた神様が似てる世界から連れてきているのかもしれないけれど。あ、でも似てるってだけで呼び方とかは全然違うんだよ。

 ちなみに私は8月21日だったんだけど、この世界では、瑞月の三・七日目っていうかな。瑞月が8月ね。あ、週は7日で1週間なのは変わりないよ。三・七日目っていうのは、1日目から数えて3週目の7日目って事。この世界は毎月35日間あるからそういう数え方なの。うん、日数だけが違う感じかな、あと呼び方。だから誕生日も地球のままの間隔で考えてお祝いとか一応できちゃうわけ。

 こういう微妙に地球と共通点があるからこそ、この世界に連れてこられた《魔人》は地球での事を忘れられないのではないかって正直思うかなー。

 さてさて、どうして私がこんな話をしているかといえばもうすぐアルシアの誕生日だったりするんだよー。村を壊滅させた三週間後が丁度アルシアの誕生日。6月4日。帰月の一・四日目かな、この世界でいうと。

 「ねぇ、アルシアさん。アルシアさんの誕生日もうすぐなんですよね?」

 私がアルシアに笑いかければ、アルシアはとっても嬉しそうに頷いた。ああ、なんて愚かなんだろう。何て、私を信じ切った笑みを浮かべているんだろう。

 《偽人》の村と偽って、《人間》の村を私とアルシアは滅ぼした。

 あの後気絶をしたアルシアは、目が覚めた時、どこか壊れていた。

 まず最初にアルシアが口にした言葉は、「アイちゃん、アイちゃんだ……よかった。アイちゃんがいる」そんなものだった。私を見て、安心したように、私がここに存在している事を心から喜んでいた。私が目が覚めたらいないんじゃないかってそんな恐怖心で一杯になっていた。自分が殺しつくした《偽人》の事ではなく、真っ先に私の事を気にしていた。

 アルシアは私に依存しきっている。まぁ、私がそうなるように仕向けたわけだけどさー。自分の手が命を奪ったっていう事実にアルシアは目を背けていた。料理を教えようとすると面白いの。刃物を持つとびくって、虐殺劇を思い出して震えて、だけど次の瞬間にはいつも通りになるの。当たり前のように日常を謳歌しているの。まるで自身が人を殺しつくして、一つの村を壊滅させた事実がなかったかのように。

 だけど時折思い出して、身体を震わせるの。

 ふふ、私がどうしたのって問いかけると、何もないよって強がって。

 私が「これで《偽人》に狙われることがなくなった」ってそんな風に笑えば、一瞬固まって、そして笑って。自分の敵だとは言え、あれだけためらいなく殺人を行っていた私に疑問を持たない時点でいろいろとアレだよね。

 というか、アルシアが今料理している肉も人間の肉だったりするんだけどねー。面白いね、全然気にしないの。地球でならこれは何の肉だろうってもし人間の肉を食べたならアルシアほど鈍くても感じられたと思う。

 だけどさ、この世界で《魔人》ってのは特に食事が必要ない生き物なんだよ。だからこそ、アルシアは異世界にやってきてまともに肉なんて食べてなかったんだよ。アルシアが異世界にやってきたのは、私と同じ時期なんだってさ。それから私に会うまで肉を口にしていなかった。だから味覚もだいぶ麻痺してるんだと思うよ。それと私だけしか味方がいないっていう補正効果もあるね。

 アルシアにとって《親友》である私がアルシアに人間の肉なんて食べさせるわけがないっていうそういう気持ち。そう、私を信じ切っているから、食べさせられているのが人間の肉だなんて考えない。まぁ、私が何も気にせずに同じものを食べている事もアルシアが安心しきっている一つの原因だろうけどさー。

 「アルシアさん、料理うまくなったね」

 私はアルシアの作った人肉料理を見ながらいう。本当に肉を裁くのがうまくなったなって思う。

 私がアルシアに教えている料理の大半は肉を使った料理だ。わざわざ人肉を使わせたくて肉料理ばかりだ。それにアルシアは疑問を感じないのだろうかと面白くなる。

 「えへへ、アイちゃんが教えてくれたからだよ」

 「ううん、アルシアさんに料理の才能があるからだよ」

 私は謙遜してそういって笑う。まぁ、この世界料理するための設備も地球とは違うし、難しい料理をするための設備もないし、簡単な料理ばかりだからアルシアが簡単に覚えたのも当たり前といえば当たり前だろう。寧ろ簡単な作業だけなのに教え始めた頃に失敗していたアルシアはどちらかというと不器用だ。

 「ねえ、アルシアさん」

 私は、アルシアに向かって笑いかける。

 あえて、”親しい人”に向けるような穏やかな笑みをその顔に張り付ける。最も穏やかな笑みがすべて偽りなわけではない。”獲物”としてアルシアを見ている私の気持ちは今、楽しくてうれしくて、これから起こす事を思うと思わず笑みがこぼれるほどなんだ。

 あれだね、私の演技が全然バレないのって、所々に真実が混ざっているからだと思う。

 「誕生日もうすぐだっていってましたよね。とびっきりの誕生日プレゼントをあげますね」

 それに、アルシアの誕生日に絶望を与えて殺してあげようと思っているの。だから最後の三週間、思いっきりアルシアを甘やかして、優しくして、もっと絶望の浸ってもらう予定だもの。

 「本当? うれしい」

 満面の笑顔を浮かべるアルシアを見て、私はアルシアの誕生日を思って笑うのだった。

 楽しみで仕方がないんだよ、私は。ねぇ、アルシア。たっぷり私を楽しませてね?




 

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