村を壊滅させたんだよ。
私はね、今とってもわくわくしてる。
これから起こることを思って。これからアルシアをもっと面白い存在へと出来ることを思って。
そのための舞台を用意したんだ。
田舎すぎてほとんど他の村との交流がなくて、やってくるのは定期的にくる商人だけの、そんな村を。
そこの村人たちが《偽人》なのだと私はアルシアに教え込んだ。洗脳した。思い込ませたの。
「私たちだけじゃきっと無理だから……」ってそういいくるめて、アルシアのダンジョンのモンスターも『《偽人》の村襲撃計画』に参加する事になったの。
あははっ、あれだけモンスター不気味だとかいって遠ざけていたのに使う必要ができたら使うんだー? って思ったよ。てか、モンスターを道具扱いとかなんか嫌だよねー。こんなに可愛いのにさ。
そもそも《魔人》が自分のために生み出した存在っていうのがモンスターだよ。《魔人》のエゴで生み出された存在なんだよ? それを邪険に扱うって、かなり残酷な行為だよねー? あははっ、なのに自分が残酷な行為してるって自覚が欠片もないとか、アルシアって本当自分に都合の良い事しか考えていないみたい。
でもそれも仕方がないと言えば仕方がない事だとは思うけれど。
だって人は自分に都合がよく考えてしまうものなんだよ。世界が残酷だって頭では分かっていても、もしかしたらって期待してしまうものなんだよ。そういう意味でいったら、アルシアはとても『人間らしい』女の子なんだって言える。逆に私はそういう所がない。この世界にきて益々そういう『人間らしさ』を私は失ったと言えるね。アルシアはこの世界にきて何年も経っているのに、自分が《人間》だっていう自覚を持ち、『人間らしく』存在しているってだけで面白い存在と言えるかもしれない。
私はアルシアをもっともっと壊したい。
そのかろうじて存在している人間らしさをぶち壊してしまいたい。
そうしたら、きっと私はどうしようもないほど楽しめるだろう。そう、そのためだけに私はアルシアを時間をかけて騙しているんだ。私が最高の”楽しみ”を味わうために。他では感じる事の出来ない高揚感に身を馳せるために。私はとってもわくわくしている。
性格が悪いと言われる事を思考し続けている事ぐらい自覚している。この他人の不幸が蜜の味が地を行く私の性格が一般的に見て異常な事ぐらい知っている。だからこそ、《人間》としてではなく《魔人》として生きられる事が私にとって幸福だと思う。だって《魔人》は何にも縛られない。法律とかそんなものはないし、共同体に属さなくても《魔人》は生きていける。私は誰にも咎められる事がなく、やりたいことをやっていけるんだ。
「……アルシアさん、《偽人》の村を壊しに行くよ」
「う、うん」
「《偽人》はアルシアさんを騙しにかかるから気をつけて。《人間》の振りをして、アルシアを油断させようとするから」
命乞いをしてきても、悲痛そうな声をあげても、全部は演技だからためらいもなく殺すのが一番良い――、私はそういうことをアルシアに要するにいっていた。
まぁ、本当は《偽人》なんて存在はこの世界に存在していなくて、実際は《人間》の村を襲撃しようとしているわけなんだけどね。あはは、面白いねー。アルシアってば、全然私の事疑ってないんだよ? 私が、アルシアにとってこの世界で唯一信じられる友人の私が告げた言葉は全て真実なんだってそういっているんだ。なんて浅はかで騙しやすい子なんだろうねー?
面白いね、凄く愉快だね。私の手のひらで大人しく踊ってくれるアルシアを見ていると気を抜くと爆笑しそうになるから気をつけているんだ。
「ごめんなさい。アルシアさん。私の事に巻き込んで」
真実味を帯びさせるためにもそんな風に申し訳なさそうに言葉を放つ事も忘れない。泣き出しそうな表情を作ることが私は得意なの。同情させるような表情を作るのは、地球にいた頃からも何度もしていたことだもの。私がか弱い少女の外見をしているってのも補正になっていると思うけれど、地球にいた頃からも思っていたけれど皆騙されやすいよね、本当。世の中には私みたいな性悪がいるんだって実感わいてほしいなーとか思っちゃうよ、私は。
「泣かないで…。アイちゃん。いいの、私もアイちゃんに死んでほしくないもん。大事な友達が危険な目に陥るっていうなら私はなんだってやるよ」
決意を固めた目でこちらを見つめるアルシアを見て、私は爆笑したくて仕方がなかった。だってやばい。笑い死ぬくらい面白いよ、これ。っていうか、アルシア。友人のためにつらいけど頑張れる自分に酔ってる? そんな雰囲気醸し出している気がするよ。
「ありがとう、アルシアさん」
私は、涙を流しながらも感謝の意をアルシアに伝える。内心はそんな感情欠片もないけれども。
アルシアは純粋で、人を疑うことを知らなくて。その純粋さはある意味すごいと思う。だけどアルシアはその純粋さ故に、私に騙され、絶望を味わうんだよね。あはは、考えただけで、愉快すぎるね。
――そして私はアルシアとモンスターたちを連れて村を襲撃した。
モンスターたちがいないと勝てない。私たちは死んでしまうって訴えたら、アルシアはあれだけ嫌がっていたモンスターを使うようになったんだよねー。まぁ、私のモンスターたちと違って、主に放っておかれて、戦闘経験もないモンスターだからあんまり使えないけれどさ。
意思疎通って大事だよね。私のかわいいモンスターたちは、私の好み(虐殺方法の)を理解しているからか、残忍な殺し方をあえてしようとしてくれていて、もう、かわいいのー。
突然モンスターと謎の二人組――あ、私とアルシアは顔を隠してたんだけど。そっちのほうが後々便利だし―-襲われてね、冒険者も来ないような小さな平和な村は混乱に陥ったんだよー。
逃げまとう村人たちの姿に私が感じたのは、確かな歓喜だった。罪悪感とか、悲壮感とか、そんなもの一切ない。ただこの、今まで経験したことがないような状況を自分で生み出し、それを実行できていることがうれしかった。
沢山殺した。
村人たちが何が起こっているかわからないといった間に一番厄介そうな若い男から殺していった。不意打ちだと結構あっさり死んでくれるものなんだね。土壇場で冷静に動ける人間なんてほとんどいない。予想外の事態に追い込まれたら頭が真っ白になって何もかも考えられなくなってしまうものなんだから。
首を掻っ切った。
手首を切り落として反応を見てみた。
命乞いをする村人に一度助けるといった素振りを見せて、その後殺した。
モンスターたちに嬲り殺させた。
あ、ちなみにね、アルシアは自分の事でいっぱいいっぱいで欠片もこちらの様子に気づいてなかったよ? アルシアも人を殺した後なんだから、私の「嘘」に気が付いたらとっても楽しくなるんじゃないかなーって思っているから敢えて気づかせようという素振りはしているけどね? でも全然気づかないの。
アルシアはね、殺さないでくれと縋り付く村人たちに最初は一瞬固まって、ためらってた。でもそれでも「友達のために」って殺してた。美談だね、あははっ。
でもアルシア自身でも気づかないうちに、殺すことになれてきたんだろうね。なんだかもう、何かの作業みたいにアルシアは無表情のまま、やりきっていた。
そしてね、村人全員を私とアルシアで殺した後に、ようやくその無表情は崩れたの。
「ア、アイちゃん」
アルシアは返り血で染まったことに気づかずに、私に近づいてきた。そして私のほうにふらふらと倒れ掛かってきて、泣きじゃくった。私はそんなアルシアを抱きしめながらも、重いなーなんて考えていた。そのあと気絶したアルシアはモンスターたちに運ばせて、冒険者たちがこないうちにダンジョンへともどったんだよー。




