絶望させるためには悪巧みを欠かしません。
「こうかな? アイちゃん」
「そうそう。そうやって切って――」
今、私が何やっているかと言うとアルシアに料理を教えていたりするんだよー。もちろん、人間の肉だよ、材料は。
あははっ、面白いよね、愉快だよね。全く私がどこから肉を手に入れてきたかとか気にしないとかどんだけ考えなしなんだろうねー? おもしろすぎるよね? アルシアってば異世界にきた事でもしかしたら思考力低下しているのかもしれないね?
っていうか、本当私の事信頼しすぎだよね。まぁ、突然異世界に連れて行かれて、誰も話す人がいない中で私だけが味方で、私だけしか交流者がいなくて、そして私が遊ぶために思いっきり優しくしている。そう、とってもとっても優しくしているの。
毎日のように一緒にあって、お花見とか、アルシアの好きな事を何でもさせて、お弁当も作ってあげて、料理も教えてあげて――うん、私、思いっきり遊ぶためとは言え、超優しくしてるよ! まぁ、それもアルシアを思いっきり絶望させて遊ぶためだからアルシアに欠片も救いはないけどね。寧ろ救いなんて私が絶対に与えてあげない。アルシアを幸せにする事は私は出来ると思うよー? だって私が優しくして笑いかけて、そうするだけでアルシアは味方がいるって幸せだもの。でもさー、そんなの地球でも出来るもん。ただにこにこ笑って友達を作って笑い合うなんて、そんな当たり前に出来る事なんていらない。そんなものより、もっと楽しくてワクワクできる事をするんだ。折角、私は《魔人》なんてものになったんだから。
そんな決意から人間肉の料理をアルシアに作ってもらっているわけだよ! それだけでもアルシアって十分絶望するとは思うよ? だって、人間の肉を食べ、人間の肉で料理をしたんだよ。普通の人なら確実に狂うね。特に現代社会なんていう平穏な世界で生きているならば。あ、でも日本人よりもショックすくないかもね? だって西洋とかって拳銃とかもオッケーな世界だし、そういう物騒な事件に耐性少しはありそう。でもさ、あれだね、折角なら同じ日本人の《魔人》だったらもっと楽しかったかも。
そこだけがっかりしてしまう。
でもま、どっちにしろアルシアを精神的に壊し尽すためにはもっともっと絶望を与えてあげたい。そして―――、私が最初からアルシアを好きでも何でもなかったってしったとき、アルシアはどれだけ面白い顔をするんだろう。そう、その一瞬が見たい。その一瞬の、ほんの数秒ほどであろう絶望を。
地球では絶対にできなかった事。
やりたいと思っていた、どうしようもなくわくわくする事。その、瞬間―――。
口元が緩む。想像しただけで、なんて愉快な気分になるんだろう。
「アイちゃん? どうしたの?」
「ううん、何もないよ。次はね――」
継続して料理を教えながら次はどんな遊びをしようと考える。だって折角これだけの時間をかけているんだもの。
人肉を食べらせ、人肉を料理させ、次は――。
どうしようか考えた私は、早速次の行動に出るのであった。あ、人肉料理は私とアルシアが美味しく頂いたよ?
*
「ねぇ、アルシアさん、知っている? この世には人間の姿をした化け物も多くいるんだよ?」
もっとこの現状を楽しくするために、私がアルシアに対して始めたのは、そんな洗脳だった。頭の中で疑問をぶつけ続ければそれが嘘だってすぐにはわかるだろう。《人間》の姿をした化け物って、私達《魔人》を表すのにぴったりな言葉とも言えるんだけどね。
アルシア的には、《魔人》は化け物ではないらしいよ? 一般人からすれば《魔人》はとっても恐ろしい存在だろうにね。そういう思考にはいかないのかな? ふふ、そういう何処か純粋で、自分に都合良くしか考えない人間だからこそ、そう、だからこそ――、余計に遊び甲斐があるんだけれども。
もっと客観的に物事を見れて、自分は《化け物》なんだって絶望している《人間》で遊ぶのも楽しいっちゃ楽しいだろう。でもさ、折角これだけ私の言う事を何でもかんでも信じてしまっているような、そんな存在が居るんだよ?
「え、そんなのが居るの?」
「うん……。そうなの、とっても怖い存在が居るんだよ」
私がそう言えば、アルシアはとても怯えた顔を浮かべた。私が泣き出しそうな顔を敢えて作っていたからだと思う。それにしてもアルシア、ちょろい。
私の言葉は全て偽り。
私の浮かべている表情は全て作られたもの。
だというのに、一切気付かない。
互いに笑みを浮かべて笑いあっていたとしても、私とアルシアではそこに感じている感情は全く違う。
アルシアは私と言う友達と共に過ごせる事に笑っている。だけど、私はアルシアという獲物をどれだけ面白おかしく殺せるかっていうただそれだけを思って笑っている。
「……《人間》のふりをして、《人間》を殺すんだよ。私……、つい最近一度殺されそうになった事があって…それで、知ったの。そんな恐ろしいものが居るって」
敢えて、そういう言葉を選んで、アルシアに向かって言葉を放つ。
「そんなのが居るなんて……怖い。もしかしたら私も殺されそうになるかもしれないの……」
「そうだよ……。だから、強くならなきゃ駄目なんだよ。その《偽人》って呼ばれる存在は、いつでもどこでも襲ってくるんだから――」
私はそういって、真剣な目を浮かべてアルシアを見る。
アルシアはその言葉に怯えた目を浮かべて、だけれども私が何処までも真剣だったからか、何かを決意したようにうなずいた。
って、ヤバいね。爆笑しそう。
っていうか、私、《人間》を襲うって言ってんだよね? なのに何で《魔人》である私が襲われてたり、《魔人》であるアルシアが襲われるのかって疑問に思ったりしないのかなーってね。つかさ、《人間》を襲うなら私らが襲われるのおかしいもんねー。私もアルシアも《人間》ではなく、《魔人》って人種なんだから。ま、アルシア的には何時までたっても自分は《人間》だって考えなんだろうけれど。
ふふふ、これから私が《偽人》に扮してアルシアを襲っちゃうんだもんねー。あはははは、それからのシナリオもきっちり考えているんだよ?
私が襲ったらアルシアはどういう反応をするか。あ、もちろん私だってわからないようにするよ? 幻術とかそういう系のスキルもあるから取るんだよ。
とってね、私だってわからないようにしてから襲いかかるの。モンスターたちと一緒に。そうしたらきっと楽しいんじゃないかな。モンスターが《人間》に見えるようにとかもできるかなって思うしさ。そうして、追い詰めて、私しか味方が居ないって状況にもっとしてあげるの。そしたらきっともっと楽しくなるんだよー。
「だからね、アルシアさん――。強くなろう。強くなるためには、何かを殺すとかスキルを使うとかしなきゃだから」
正直ね、このままアルシアを殺すのなんて簡単だよ? 簡単にその命を散らす事は私には出来るよ? だけどね、それじゃあ、詰らないでしょう。
だから、だからね、もっともっと楽しく、面白く、わくわくする最期を作るために。私は何だってする。だって楽しんでこそ、人生だよ。
幾ら私が《魔人》になったからといっていつ死ぬかわからないもん。あっさりと冒険者に殺されてしまうかもしれない。だって私が簡単に人を殺せるように、この世界は命が驚くほど軽いんだよ。私の命だって軽い。いつ死んでもおかしくない。寿命はなくても私は好き勝手に遊んでいるんだよ、私殺される可能性滅茶苦茶高いんだよー。
というかさ、確実にハルマ君のお母さんとか私が犯人って知ったら殺しにかかるかもだしー、あの殺人鬼のおじさんは私を殺したいだろうしー、ポルノも私の真実知ったら憎しみに染まるかもね? 思いつくだけでそれだけ居る。てか、もっともっと私がやっている事したら私を憎んで、私を殺そうとしている人多いだろうね。でもさ、それでも私は楽しみたいんだよー。
だからね、精一杯絶望させるの。そう、そうした方が楽しいから。
「……うん、アイちゃん」
私を信じたアルシアは何処まで落ちてくれるかな?
それを考えるだけでわくわくが止まらない。
出会ってからの数年は、私を完璧に信じさせるための、心を許させるための準備期間だったんだもん。我慢したんだよ。殺したい気持ちを。
だから、ねぇ、もっと私を楽しませてね、アルシア。
間違えている所があったので、二、三日以内に訂正します。




