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ショートランド世界について 2

デスウィッシュ〔魂の祈り〕

 第3話でレスタトが最後に行った行為は「デスウィッシュ」と呼ばれます。

 デスウィッシュとは、自らの魂と引き換えに願いを叶える禁断の祈りです。デスウィッシュを行った者は、ただ死ぬだけではありません。呪文による復活もできなければ、通常の死者のように転生することもできなくなります。それは真実の意味での「消滅」であり、与えられた魂を無駄にすることは女神への冒涜行為であることから、一般にはこの祈りの存在は秘匿されています。

 レスタト以前では、ショートランド暦431年に、旧ショーテス王国の王女ローラナがやはり自らの命を投げ出して、滅びゆく自国に攻め込んできたガラナーク・ラストン・フィルシム三国連合軍から、ショーテスの町に住む民の命を救ったと言われています。

 デスウィッシュによる願いが叶うかどうかは女神の裁量次第です。通常はどんな願いでも聞き入れてもらうことができますが、稀に聞き入られないこともあります。




ウェポンマスタリー〔戦闘技能〕

 ウエポンマスタリー(戦闘技能)とは、一つの武器を集中して鍛え、より専門的に扱うための技能です。戦闘技能にはいくつかの習熟度ランクがあり、一つの武器に特化して上げることもできれば、いくつかの武器を並行して学んでいくことも可能です。

 この技能を修得するには、まず、戦闘に関して一定の経験を積んでいる、あるいはそうした経験者と同程度の実力を持っている必要があります。これが認められて後、希望する武器について教えている道場(ないし個人経営の師匠)に入門できます。

 通常、戦闘技能の訓練には高額な授業料が必要です。額面はその難易度が上がるほど高くなります。訓練が始まると訓練生は、一定期間、徹底的にその武器の技術を叩き込まれますが、訓練期間も難易度につれて長くなります。たとえば、ヴァイオラたちが受けるのは比較的やさしい訓練で2週間しかかかりませんが、一つ上のレベルではまる1ヶ月が必要です。

 訓練によって技能を修得できるかどうかは、もちろん、本人の資質にもよりますが、師匠の実力にも左右されます。よき師匠から教わるなり、本人がよい理解を示すことができれば、その武器の習熟度が一つ上がり、命中率がよくなる、一撃で大きなダメージを与えられる、敵の攻撃を巧みに防ぐ、などの利益を享受できるようになります。武器によっては相手の武器を落としたり、相手を転ばせたり気絶させたりといった特殊行動も身につけられます。




10フィートソード

 10フィートソード──「テンフィートソード」と呼ばれます──は、ショートランド特有の武器です。その名の通り全長3メートル(=10フィート)にもなる、巨大な両手用の大剣で、通常の剣と比べて3倍もの破壊力を誇るといわれます。

 発祥は魔法の発達していたサーランド王国時代に遡ります。当時の人気娯楽であった剣闘技の余興として力自慢の剣闘奴に与えたところ、商業的に成功し人気商品となったのがその始まりでした。とはいえ、この当時から既に希少な品でした。というのは、強度を失わずに重量を軽くするため、中を空洞化するというきわめて特殊な製造法を取っており、唯一シルバ村というところでしか生産できなかったからです。

 シルバ村は今はなく、わずかに現ガラナーク地方にあったとする伝承が残されるのみです。村の消滅と同時に、この剣の製法にかかわる技術はすべて失われました。つまり、10フィートソードは、新たに作ることはおろか、壊れたら修復することもできない貴重品なのです。

 もっとも、扱いが非常に困難なことや、今述べたように実在する剣の数が極端に少ないことから、使い手の側も数えるほどしかいません。どれだけ重量を軽くしたところで、3メートルもの大剣を持ち上げるのですから、体格・膂力、あるいはそれを補う何らかの技能に優れた人間でなければ、まず扱えないでしょう。さらに、それを武器として用いるには専門の訓練が必要です。使い手が少ないため、師匠となれる人間も限られています(フィルシムでこの剣の戦闘技能を教授してもらえるセリフィアはきわめて幸運であるといえるでしょう)。

 なお、希少な10フィートソードのうち、さらにわずか5本だけ、魔力を付与された逸品があるとされます。そのうち非常に高度な魔力を付与された上位2本(+4および+5)は、この物語当時は行方不明です。残る下位の3本は、ショーテス領主のマリス=エイスト(+3)、スカルシ村騎士のグッナード=ロジャス(+2)、スカルシ村傭兵スカルシ・ハルシア(+1)がそれぞれ所有していることが確認されています。




ユートピア教

 ユートピア教とは、その名の通り「理想郷ユートピア」を求める宗教です。

 もとは、ピエール=エルキントンというヴァンパイアの司祭が起こしたものですが、そちらの信徒は教祖を含め3名しかおらず、今あるユートピア教とは同一ではないようです。現在のユートピア教と共通するのは一点、「邪教」と見なされていることだけでしょう。

 現在のユートピア教は、やはり「理想郷」の実現を説くものですが、特徴的なのは「ハイブは神が遣わした御使いである」とするところです。彼らによれば、ハイブは「神さまからの贈り物」で、ハイブになることによってヒトは、「食物連鎖の最上位に立つ」「争いのない世界を実現」「現にあるハイブの脅威から解放される」「平等が実現し現世における不公平や貧困から解放される」というのです。彼らは現世に対する諦観を勧請しながら、「神の元での統一」の重要性を説き、「ハイブになることは素晴らしいこと」と説いて回ります。


 物語の舞台であるフィルシムではまだ被害が少ないのですが、ハイブ禍の悲惨なディバハ、カノカンナなどでは、一般市民が続々とハイブの餌食になっています。また、ガラナークは食糧難が深刻で餓死者も出しています。飢え、火の気のない家で、寒さに震える夜。地中より突然襲い来るハイブ。隣人が、家族が人外のモノへと変わっていく恐怖と、自分の無力に対する絶望。食糧不足により略奪と暴行が横行し、同じ人間ですらだれも信じることができない、何も頼ることのできないどん底の日々──。

 この末世に安らぎと平和を約束するユートピア教の布教は、着実に成果をあげています。

 彼らは身を守る術を持たない人々に「恐怖に怯えることはない」と語りかけ、「君もハイブになれば強くなれる」(フィルシム)、「ハイブは御使いであり天罰の執行者。ハイブはヒトの目指すべき姿である」(ガラナーク)、「ハイブは究極の知性体である」(ラストン)と言って聞かせます。実際には、飢えを免れるためだけに入信する人間も多いようです。

 ユートピア教はまた、一部の魔術師や僧侶に対して、「ハイブになって集合意識に接続されることの素晴らしさ」を説きます。複数の人間の記憶・知識・経験が統合され、より深い認識と洞察の境地へ達することができる──この考えは、「個」の意識の薄いガラナークの知識階級や、モラルの薄い旧ラストンの知識階級には魅力的に感じられるようです。

 知識階級の人間の厄介なところは、その数こそごく少数ですが、彼らの知識が厖大な意味を持っている点でしょう。ですが、困窮する市民層にせよ知識欲に溺れたインテリ層にせよ、信者になった彼らを待っているのは、本当に「ハイブ化」でしかありません。

 財力や軍事力などが少しでもあるような人々──貴族、騎士などの支配者階級や、大商人、冒険者など──に対しては、ユートピア教はこれも別な勧誘方法をとります。家族や大切な人がハイブ化してしまった者に向かって、人間に戻すための研究をしていると偽ったり(そもそものハイブ化がユートピア教の仕業である可能性が高いのですが)、政敵を陥れるのにハイブを使えとそそのかしたり、あるいはまた、ハイブに襲われない方法ないしハイブを支配する方法を開発中であるとして、「協力者」や「寄進」を募ります。

 さらに、これらの勧誘に「NO」を唱えた者たちにはハイブの襲撃がプレゼントされます。昔ながらの暴力組織の手法を踏襲しているに過ぎませんが、ハイブの軍事力が強大かつ神出鬼没であるため、断ってなお身の安全を求めるには、莫大な人的金銭的労力が必要です。

 こうして自主的ないし強制的に作り出された「寄進」はかなりの額にのぼりますが、何に使われているかは不明です。ただ、より広範な信徒の獲得を目指して、ハイブコアを各地に拡散したり、麻薬をばらまくのに一役買っているだろうことは想像に難くありません。

 たとえば、現在、ガラナーク領および旧ラストン領では「パラダイス」という安直な名称の薬が広く普及しています。これはハイブの唾液から抽出されたダウン系の麻薬です。常習性があり、効果が長く残ります。日々の恐怖から逃れるために、市民たちは安価に提供された「パラダイス」で現実逃避をはかり、その結果、現世から完全に逃避する=ハイブ化の道を選ぶという図式になっているのです。


 このように、ショートランド全世界を破滅の危機に追いやっているユートピア教ですが、その真の目的はわかりません。本当に本心から全ハイブ化した世界を招来したいのか、その裏に何らかのもくろみがあるのか、あるいは単なる破壊衝動に過ぎないのか。

 ただ一つ言えることは、このまま彼らの活躍を見過ごせば、いずれこの世界における人類は滅びるだろうということです。物語がどう転ぶか、今後の展開にご期待ください。

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