ショートランド世界について 1
神話の時代 〜 成り立ち 〜
女神エオリスに作られたこの世界は、「ショートランド(小さな世界)」と呼ばれ、その姿は球に浮かぶ小さな島だと言われます。
女神はこの世界に人類として、まず十二種類の獣人たち(狼、鷹、猪、熊、縞馬、コウモリ、虎、鮫、バッファロー、海豹、鼠、狐)を作り、そのあとで人間を作りましたが、他の人型生命体は創りませんでした(冒険小説でお馴染みのヒューマノイド、ドワーフやエルフやゴブリンなどが全く話に出てこないのはそのためです)。
人間を世界唯一の人類とし、獣人を月の裏側に住まわせようとしたエオリスに対して、太陽の明るさに嫉妬した月――すなわちエオリスの双子神であるリムリスは、獣人たちに自分の魔力を与え頑強に抵抗しました。こうして、人間と獣人の長く激しい戦いが始まりました。
守護者である月の出ている間、獣人たちは無敵でした。しかし、その強力な魔力に精神が耐え切れず、彼らのほとんどは狂ってしまったり、死んでしまったりしました。それでも、残った獣人だけでも充分に人間に抵抗することができました。
この戦いは多くの犠牲を生みましたが、同時に多くのものを生み出しました。なかでも人間は、国を造るということを覚えました。そしてその「国」は多くの文化を生んだのです。
ついに、女神エオリスは、獣人をショートランドから排除することを諦めました。そして獣人たちの功績を讃え、彼らの代表を星座として天に上らせました。また、特に活躍した四種族――狼人間、熊人間、虎人間、鼠人間にはそれぞれ、信仰心と知恵、魔法と知識、武力と力、技術と器用さを与えました。
こうして人間と獣人の共存の時代が始まりましたが、一部の獣人たちは、人間世界との関わりを絶ってしまいました。女神の目となるべく天上に住まうことになった鷹族や、女神の言葉を護るために海底に潜った海豹族、女神の力を受け継ぐこととなった縞馬族などがそうです。また、人間世界に残った獣人たちの中にも、バッファロー族、鮫族など、現在では失われてしまった種族もあります。
女神エオリスは月神リムリスに、自分に反抗した罰を与えました。それは、三十日に一回女神の元まで来て、丸一日反省をするというものでした。ですが、彼女の元まで行くのには片道十四日かかります。このため、この時から月は満ち欠けするようになりました。
リムリスはとても賢い娘なので、このことに深く反省し、以前のように力を獣人に与えるようなことはなく、今では残った獣人たちを静かに見守っています。ただ、獣人の身体の中には以前の力が残っているため、無敵ではないにしろ満月の日にはとても強くなります。
人間も同様に獣人たちを讃え、彼らの星座の上を太陽が三十日ごとに通ることを発見して、それぞれ狼月〜狐月と名付けました。何故なら三十日という周期は月の満ち欠けの一周期に等しいからです。同時に、四月にあたる熊月の初日に、一日中太陽も月も出ない夜日(「悪魔の日」とも呼ばれ不吉とされる)があることと、十月にあたる海豹月の十五日に、やはり一日中太陽と月が出ている昼日があることを発見しました。この周期がちょうど十二月になり、それを一年と名付けました。四月と十月は三十一日、他の月が三十日、だから一年は三百六十二日となるのです。四月と十月は十六日、他の月は十五日に満月を迎えます。
物語の時代 〜 現在の状況 〜
作品の背景になるショートランド暦450年代後半まで、魔法大国ラストン、宗教国家ガラナーク、怪物王国フィルシムの三国は、絶妙な政治的バランスで平和を保っていました。しかし、度重なる内乱によるフィルシムの国力低下、また、ガラナークの侵攻によるラストンの疲弊によって、その平和と均衡は失われました。
戦乱の中、ガラナークがラストン領リーティキレスを陥落した際に、街中の略奪が許可された前代未聞の「血の収穫祭」事件(457年)をはじめ、悲惨な出来事が次々と起こりました。そしてついにはラストン陥落間際に、ハイブが異世界から召喚されるという「破滅の日」事件(457年4月1日)が起きてしまったのです。この事件で無数に現れたハイブによって両国の戦線は瓦解、ラストンは一昼夜にしてハイブの巣と化しました。
「運命の日」を引き起こしハイブを異世界から召喚した犯人は459年に処刑されましたが、ハイブは未だラストンを占拠しています。あまつさえ「ユートピア教」を名乗る団体が台頭し、ハイブの召喚と蔓延を「女神の意志である」としてさらにハイブを世界各地にばらまく、といった現象まで見られるようになっています。
現在、ショートランドは、ハイブにより三つの危機に瀕しています。
一つは、ハイブが人間を餌にして増殖する寄生生物だということ。
もう一つは、ハイブの被害によりラストン、リーティキレスという大穀倉地帯が崩壊してしまったこと。これはそのまま食糧危機に直結します。元来、ラストン王国では、ショートランド全体の3分の2の食糧をまかなっていました。そのラストン王国がほぼ壊滅状態となったため、ショートランド全体に食糧の供給ができなくなったのです。
この結果、全世界で食糧価格の高騰が引き起こされました。具体的には、ラストン王国で唯一残る大都市ディバハと直接流通経路を持つフィルシム王国内で以前の二倍前後、流通経路を持たないガラナーク王国では三倍前後、産地であるディバハでも五割増しの食糧価格となっています。今のようにディバハ周辺の生産だけでは、ショートランド全体に必要量を供給することはできません。この食糧不足は深刻で、ハイブによって滅びる前に食糧不足で滅びるのでは、とも言われています。
そして最後の点は、ラストン経由の陸路が全く機能しなくなってしまったことです。
ハイブという明確な外敵の存在、食糧不足という直接的な危機、交通の崩壊による治安の悪化や精神の荒廃――豊かだったショートランドは、今、初めて、世界そのものの存亡の危機に立たされているといっても過言ではないのです。