新米教師と禁断の果実
その次の日。
リリカは久しぶりに体育の授業に出る事に決めた。
理由は勿論、日向七尾が体育の教師だからである。
机の上にジャージの入った袋と、体育館シューズの入った紙袋を置くと、周りがザワザワと騒ぎ始めた。
「宝船さん、今日体育出るの?(小声)」
「うっそ…あの宝船リリカが…?(小声)」
聞こえてる…そう睨めつけながら言おうかとも思ったが、あんまりクラスで変なことを言ってイジメられたら嫌なので、黙っておこう。
そのまま袋二つを持ち女子更衣室へと足を向けた。
ここで一つ説明をさせて頂きたい。
「裏・学校相談係宝船リリカ」という存在はこの学校ではただの都市伝説となっており、勿論リリカは何度もこのことについて問い詰められたが、彼女は
「都市伝説上の登場人物と名前が被っているだけ。私、人の相談とか聞くの嫌いだし。宝船リリカなんて名前ありふれてるし」
と、見事に一蹴した。
他の生徒たちは正直「そんな名前ありふれているワケない」と誰もが思ったが、彼女の言う「相談とか聞くの大嫌いだし」というワードはそれ程外れている様でも無さそうなので、これ以上は追及しなかった。あと、多分リリカの性格がめんどくさそうだったからもう絡むのはやめようと誰もが思った瞬間だと思う。
そうこうしている間に、何とかリリカはジャージに着替えることが出来た。
途中で髪の毛がジャージのチャックに引っ掛かったり、ズボンを表裏逆に履いていたり、色々とトラブルがあったものの、体育館シューズを履き、少し急ぎ足で体育館へと向かった。
すでにほかの生徒は整列しており、とりあえず女子の列の最後尾につく。
…逆背の順らしく、身長151センチのリリカの場所はどうやら最後尾の一人だけはみ出た場所で正解だったらしい。
すると奥から、「お~整列してんな~」と、少し間抜けな、でも低く心地の良い声が聞こえてくる。
(やつか…)
その間抜けな声の主が「前から順番に座ってけ~」というと、前の身長の高い組から順にウェーブの様に頭の位置が低くなっていった。
あまり目立ちたくなかったリリカは(だって一人だけはみ出てるし)、前の列と全く同じタイミングでしゃがみ込むことに成功。
普段体育なんかに出ないリリカにとっては、こんなのも深く溜息を付いてしまう程に疲れる行為だった。