裏・学園相談係宝船リリカ
天真爛漫、軽挙妄動。
そんな姿勢が彼の人気ポイントであり、「教師」としての責任感の低さを表していた。
日向七尾。
身長176センチ。体重61キロ。茶髪に黒縁眼鏡でまさしく「イマドキ」なスタイルをした、ごくごく普通の新米の高校教師。
生徒からの信頼も厚く、女子男子性別問わず、彼の下へ相談しに来る子が多い。(主に恋愛に関して)
しかしそんな彼を鬱陶しく思い、煩わしいと野暮ったい視線を送る輩も少なくはない。
まさしく、今目の前で愚痴を零す教師もそうだった。
「私、この学校の相談係なんですよ?進路、家庭環境、学校生活、クラブ活動、恋愛…あらゆる生徒の問題に向き合うのは、この学校では私の仕事なんです…」
ハンカチで目元を拭いながらボソボソと少し聞き取りにくい声色で話を続ける教師。
下マスカラをハンカチで拭ってしまったため、目の下がクマみたいになっていて面白い…というのは今は言わないであげよう。
「だのに…!まだ新任の日向先生に生徒人気…全部取られちゃって…!ひどいと思わない!?」
うんうん、ととりあえず首を縦に振る。首を動かしながら茶を啜った。
それにつられてか、女教師も少し茶を啜った。
「…っ、熱…!…ねえ、この現状…宝船さんの力でどうにか出来ないかしら…?」
火傷した舌を少しはみ出させ、視線をこちらにゆっくり向ける女教師。
女教師からはこちらは逆光の様で、少し眩しそうに目を細めた。
「…それは、お願い、ってことで良いのかな?」
腰まで伸びた黒髪が、少女の体の動きと共に波の様にさざめいた。
均等に配置された顔のパーツの全体が少し、上に持ちあがる。女教師はそれが「少女が笑ったのだ」という風に思考が動くまでに時間が掛かったことに気が付いた。
まるで自分を、獲物を見つけたハイエナの様に見つめる少女に、日向七尾への訝しさなど何処かへ消え去って仕舞ったようにも感じた。
…が、ここまで来て怖気づくことなど出来ない。
「…そう、そうよ…。どうにかして、これ以上日向七尾人気が上がるのを防いで欲しいの」
少女が何か言おうとした瞬間、女教師は「報酬は払うわ!」と即答した。
その答えがまさしく今言おうとしていた言葉だったらしく、少女は先ほどとは違った笑顔を見せた。
「行動を移す前に、まず500円頂こう。これは私が貴方の為に行動を起こす為の報酬。成功報酬は成功したら頂くのでそれも覚えておいて?」
少女は手をヒラヒラを靡かせ、女教師へ催促した。
女教師は無言で500円を差し出し、早々と部屋を出ようとした。
だが、扉の前で一度立ち止まり、再びこちらへ顔を向けた。
「…ごめんなさいね…こんな話…貴方にしか、出来なくて…。でも、「裏・学校相談係宝船リリカ」が実在してただなんて、正直少しびっくりしたわ…」
そうポツリと呟くと、女教師は方向転換し、ドアの向こうへと行ってしまった。
特に何も思わずに、「リリカ」は少し冷めてしまった茶を一気に口に流し込み、少し錆びた500円玉を見下す様に見つめた。