読書で国を救い姉を差し置いて王子の婚約者候補になる令嬢の話
『クレアよ。本を読まずに書評を書けるようにならなければならないよ』
『え、何それ・・・本は読むものでしょう』
私のお祖父様は有名な本の蒐集家だった。
さぞかし本を読んでいると思いきや・・・
『その時代を代表する本は読んでいるがな。ワシよりも本を読んでいる奴はごまんといる・・』
しかるに、何故、ワシは名をはせ。ワインのソムリエのように本を紹介出来るのか?
それはな。普通の人とは少し違うからだ。
普通の人に感想を書かせれば。
『面白い。つまらない。分からない』
の三つになる。個人で楽しむ分では充分だ。
しかるに本のソムリエになるにはそれでは不十分だ。
自分の好きな本ばかりを読み続け。知識は偏り偏屈になり。本を読まない方がマシになる。
『じゃあ、お祖父様、どうすれば良いの?』
『うむ。それは・・・・』
・・・・・・・・・・・・
「これより、文芸部の予算の考査を行います」
お祖父様の思い出に浸っていたら、文芸部の番に来た。ここは生徒会室。
私はクレア・ゾーン。
そして、対峙するのは姉のララアだ。生徒会の役員についている。
「クレア、同人誌の内容を説明しなさい」
「はい、お姉様・・・異世界恋愛物です。内容は・・・」
魔法のない世界に転生して、前世の記憶を頼りに魔道革命を起して素敵な殿方と出会います。
また、前世の記憶を思い出してここは小説の世界と気がついて危機を脱します。
同人誌に載せる話は・・・このように異世界に生まれ変わって、自己実現をする一連の小説です。
夢小説のような形式が学園で流行っています。支持を得られた小説を同人誌に載せて私撰小説集として図書室に寄贈します。
「くだらないわね」
「はい、くだらないです」
「似たような話ばかりだと聞くわ」
「その通りです」
「区別つかないわ」
「そうですね。区別つきにくいですね」
バン!とお姉様は机を叩いた。
学園の予算を少なく抑えるのが仕事だから仕方ないが、私は敵視されている。
何故ならば、お祖父様の生前は私がゾーン家の跡取りとされていたからだ。
「ならば、予算は出せないわね!名作を揃える予算に使うべきよ」
「いえ、意味はあるのです・・・高尚な作品を書こうとして高尚な作品が誕生するとは限りません。ご存じですか?名作と云われるものに戯作が多いのを・・・」
知識は新しくなります。歴史も新事実が出てきます。
しかし、人の心の機微は刻を超えるのです。
ある有名な作家は、戯作者であると自ら云い。酒場や娼館に通っていましたが・・・
当時の魔道革命前の街並みの風景、助け合いの日常、男女の機微が描かれて名作となりました。
また、有名な劇作家は歴史事実を公然と歪曲して台本を作りましたが、登場人物に名言を言わせるためでした。
【もう、いいわ。また、お祖父様の教えね!】
「ええ、そうです。本は世相の鏡、世相が本の鏡でもあるのです」
・・・本が世界に与えた影響、世界が本に与えた影響があるのじゃ。
本の家系図が書ければ、おのずと分かってくるのじゃ。
予算切られるかな。
と思ったが、生徒会長のラインハルト殿下が裁定をしてくれた。
「うむ。たかが数冊だ。気晴らしにもなろう。許可してもいいのではないか?ララア主事」
「殿下がそう仰せになるのならば・・」
「熱い討論であった。さすがゾーン家の姉妹だ。期待しているよ」
「はい、殿下」
お姉様はパアと顔を輝かせて甘い声を出して手を胸の前で組み殿下を見つめている。
お姉様の瞳には花が咲いている状態だ。
お姉様は美人だ。サラサラとした金髪は肩甲骨までさげて、瞳はここからでも目立つ碧眼、垂れ目で優しそうな令嬢ではある。一方、私は銀髪だがボアとなっている。
少しも鋭利ではない。残念銀髪と陰口を叩かれている。
ゾーン伯爵家ではお姉様を推す一択だ。
伯爵家ならギリ王子妃になれるが・・・
本の蒐集家としての名声はお祖父様止まり。父は功績を立てていない。宮廷工作も散々だ。
姉の美貌なら王族との結婚もあり得る。
両親も姉に期待して家庭教師をつけ。成績をあげているが。学生のうちに功績を立てられる訳はない。
と思ったが、功績が向こうから立ててくれよとやってきた。
王国に留学生がやってきたのだ。
それは皆の前で自己紹介をしたときに起こった。
☆☆☆
「オ~ホホホ、皆様。よろしくお願い申し上げます。隣国ベルガ王国の第三王女、グレースでございます」
隣国の大国から留学生がやってきた。大勢の使用人、賢者か?魔道師まで連れている。
我国が子供なら向こうは大人ぐらいの国力差である。
グレース王女殿下はお姉様と対照的で漆黒の髪、切目で厳しそうだ。
「こじんまりとした学園ですが・・・素晴らしいですわ」
嫌みだな。ラインハルト殿下を狙っているのか?お姉様はハンカチをくわえていらっしゃる。
殿下は笑顔を崩さない。
「良く来てくれた。隣国同士仲良く交流したいものだな」
「ええ、そうですわ。仲良く交流するべきですわ」
しかし、次の言葉で学園生達の背筋が凍った。
「はい、ベルガ王国の国境からダキア王都までたった100キロですから、今まで交流しなかったのが不思議でしたわ」
「「「はっ」」」
と会場から声が漏れたが、殿下はニコニコして何も返さない。
ここは言質を取りに来たか。
早急に王宮で会議が開かれたそうだ。
☆☆☆王宮
「グレース王女がそんなこと・・・」
「学生の戯言とは言えない・・・」
「ここから200キロあるが・・・」
何故、グレース王女がそんなことを言い始めたかは探るまでもない分かっている。
ダキア王国とベルガ王国の間には無人の平野が挟んでいた。
瘴気が湧き。魔獣が出没する地域であるが・・・・
「無人平野には多量の魔石が眠っていることが分かった・・・今になって領有権を主張するつもりだ・・・」
「陛下・・・」
「ラインハルトよ。学園から既成事実を作るつもりだ。用心せよ」
「はい、陛下」
「それとゾーン伯爵家に依頼を出す。我が王国の領地である根拠を探してもらう。解決したらラインハルトよ。ゾーン家の令嬢と結婚せよ」
「御意にございます」
・・・・・・・・・・
我家に王命が来た。
無人平野の領有権を明らかにする書類を提出せよとの事だ。
「確かに承りました。何、簡単でございます」
「うむ。心強い。陛下に伝えておく」
「その際は、ララアと殿下の婚約を・・・」
「たやすいであろう」
使者が帰ったらお父様はご機嫌だ。
「父の残した書籍、書類がこんな時に役に立つとは・・・」
私は忠告した。
「お父様、無駄ですわ・・・ここには解決する文章はございません」
「ララアよ。頼むぞ」
「はい、お父様」
お父様は私を無視して書類を漁った。
「いい?無人平野に関連することを集めるのよ!」
「「「畏まりました」」
我家が雇っている学者が整理して・・・お姉様は書類や本を山と抱えて単独でグレース王女に会いにいった。
学園のテラスで豪華にお茶をしているグレース王女殿下にお姉様が直々に物を申した。
「グレース王女殿下にご挨拶を申し上げますわ」
「挨拶は結構よ。同じ学園生だわ。気軽に声をかけてくれたら嬉しいですわ」
「歓迎のスピーチで間違っている箇所がございましたの」
「まあ、過ちを直さないのはとても恥ずかしい事よ・・・それでは教えて下さいませ」
「はい、無人平野は我が王国の領地でございますわ」
お姉様は得得と説明をしたが・・・
「あら、その資料は・・・貴国の資料ですわね。爺どう思うかしら・・」
明らかに賢者である従者に話題を振り・・・
「基本、自国の資料だけでは証拠になりません。国際社会では第三者の証拠が必要なのは平民の裁判も同じです。私が私の無実を知っていると言っているようなもの・・・
それよりも、そちらのご令嬢はダキア王国とベルガ王国の間に領地問題があるとの認識ですね・・・グレース王女殿下、これは報告案件ですぞ」
「まあ、領地問題?そしたら・・・・お父様に報告しなければ・・・」
この報告を聞いたラインハルト殿下は茫然自失となった。
「馬鹿な・・・そもそも領地問題などないぞ・・・」
例えば、それじゃ両者痛み分けで、半分こにしましょう。となれば権利がないのに半分もらえるのだ。
王宮でも大問題になった。
「ララア嬢が単独で物を申したのか・・・」
「ゾーン家を男爵家に落としましょう」
「いや、待て、男爵家に落としたら、まるで失策をしたようではないか・・・しばし待て」
「御意!」
我家の処分は保留になった。
「殿下、私はそんなつもりはなかったのですわ」
「ああ、もちろんだ」
殿下は優しいな。
私は、ここでやっと殿下に意見をした。
「あの、私に策があります」
「君はクレア嬢・・・残念だが、文芸部に出来る事はない」
「いえ、王家の助けがあればもしかして程度の策です」
「うむ。話してみたまえ・・・」
いいですか?殿下、本には流れがあります。
丁度、魔道革命が起きる前は、魔道具の開発も遅れ。魔獣が多く。上流階級でも容易に旅行できなかったのです。
「およそ150年まえから、200年前です。本の発行がブームになるぐらいに・・・地理に対する欲求が爆発的にあがり。小説がほとんど珍しい国の地理になっているものもありました・・・」
「それが・・・」
「はい、その間の本に、我国の領地に書かれた本があるかもしれません。おそらく、ベルガ王国では処分されているでしょう。
我国、第三国で探して下さいません」
「分かった。第三者が書いた物があれば良いのだな」
殿下は探してくれた。
そしたらあった。丁度、150年前に書かれた『地理要覧』
これはベルガ王国賢者会が発行した本だ。
その中に・・・
『ダキア王国と我が国境側に無人平野があり。魔物の被害が甚大なのでダキア王国に抗議した』
と書かれていた。
今度は私がラインハルト殿下と共にグレース殿下に物申した。
私が本を持ち。グレース殿下にこれを読んで欲しいと懇願したが。
書籍の題名を見て、顔が青くなった。
「貴女・・・何故、それを持っているの?」
読まなくても文献上の不利を悟ったようだ。
ベルガ王国はごり押しすることも出来るが・・・
「フウ、一時帰国しますわ。対策を考えますの」
悪びれもせずに帰国をした。
一方、私は・・・・
「クレア嬢、読書について教えてもらいたい」
「はい、殿下、初めては楽しむことです」
「なら、初心者でも楽しめる作品を紹介してもらいたい」
「はい、喜んで!」
殿下に本をソムリエしているところだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




