男前すぎる幼馴染が、俺にだけ甘えてくるのは反則だろ
俺には、幼馴染がいる。
幼稚園の頃からずっと一緒で、気づけばそれが当たり前になっていた。
周りからはよく言われる。
「お前ら、もう付き合ってるだろ」
――違う。
少なくとも、俺はそう思っていた。
立花ミサキは、そういう対象じゃなかったからだ。
背が高くて、ショートカットで、男よりも男らしいなんて言われるやつ。
誰に対しても同じ距離で、特別なんて作らない。
……だから、俺だけが違うなんて思うわけなかった。
「コウ!!数学の答え!!」
教室のドアが勢いよく開く。
いつも通りのミサキ。
――のはずだった。
「立花さん、それ見ます?」
ピンク髪のクラスメイト、椎名アイリ。
その一言で、ミサキの動きがほんの一瞬止まった。
「……いい」
短い返事。
でも、明らかにいつもと違う。
その背中が、少しだけ固い。
(……なんだ、今の)
その違和感は小さかった。
でも――確実に残った。
放課後。
「これ、どうやるんだよ」
いつもの距離。
いつもの声。
でも、答案を渡した瞬間。
指が触れた。
「っ……」
ミサキが止まる。
ほんの一瞬。
すぐに顔を逸らす。
――耳だけが、赤い。
(……は?)
今まで、こんな反応一度もなかった。
昼休み。
「なあ、コウ」
「さっきの女、誰だよ」
「ただのクラスメイト」
「ふーん」
それだけ。
でも――
弁当をつつく手が、少しだけ遅い。
(……怒ってる?)
いや、違う。
もっと別の何かだ。
放課後、中庭。
「コウ」
息を切らして、ミサキが来る。
「……告白、されたんだろ」
「ああ」
「で?」
「断った」
間。
「なんで」
俺は、少しだけ迷ってから答えた。
「好きなやつがいるから」
「……誰」
視線がぶつかる。
逃げられない。
だから、言った。
「お前」
一歩。
ミサキが下がる。
それだけで距離が変わる。
「……バカ」
顔を逸らす。
耳が真っ赤だ。
「なんで今なんだよ」
小さく。
本当に小さく。
「……私も、ずっとそうだったのに」
心臓が、強く鳴る。
沈黙。
そして。
ミサキが息を吐く。
「じゃあさ」
「これから、どうすんの」
答えは簡単だった。
俺は、隣に立つ。
距離はもう、ほとんどない。
ミサキも何も言わない。
でも――そのまま歩き出す。
いつもの帰り道。
いつもと同じはずなのに。
少しだけ違う。
気づけば、ミサキは当たり前みたいに俺の隣にいた。
その日から――
俺たちはもう、“ただの幼馴染”には戻れなかった。




