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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん


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第24話:宴の後の大騒動と、廊下の「眼鏡」

「……おい、小娘。火力が足りん。……もっとだ。……肉の表面が、キャラメル色に輝き、脂が弾ける旋律メロディを奏でるまで、その杖を休ませるな」

初心者ダンジョン攻略から数時間後。

本来であれば静寂に包まれているはずの女子寮二階、アルマの部屋は、今や「禁断の香煙」に支配されていた。

アルマの魔法で熱せられた鉄板の上で、黄金イノシシの霜降り肉がジューシーに踊っている。

「ノア……これ、本当に大丈夫かな? 自炊はいいけど、こんなに煙が出たら――」

「(案ずるな。……アリス、バフだ。……『煙を窓の外へ押し出すバフ』をかけるのだ)」

「はいっ、ノア先生! ――響け、換気の残響エンドレス・ファン!」

アリスのバフにより、煙は不思議なほどスムーズに窓の外へと吸い込まれていく。

その横では、ジャムが肉を柔らかくするための「酵素(という名の治癒魔法)」を振りかけ、キャスカが修行で鍛えた剣技で、肉を一口サイズに鮮やかに切り分けていた。

「(……ふむ。……良い連携だ。……初心者ダンジョンで培った絆が、今、この一枚の皿の上で結実している。……さあ、小娘。……我の口へ、運べ。……王の試食である)」

「はいはい。……あーん」

ノアが幸せそうに肉を頬張った、その時。

コンコン、とドアを叩く音がした。

「(――っ!? この、冷静かつ粘着質なノックの音は……!)」

ノアの毛が逆立ち、アルマは慌てて鉄板をベッドの下へ隠した。

扉の向こうから、聞き覚えのある「理屈っぽい声」が響く。

「……ベルンさん。中にいるのは分かっているよ。……このドアの隙間から漏れ出る、推定0.05パーセントの脂質の粒子を、私の鼻は見逃さない」

「エ、エドワード先輩!? ……ここ、女子寮ですよ!? 入ってきちゃダメなんですってば!」

「……わかっている。だから私は今、廊下の『白線』から一歩も入っていない。……ただ、この匂いがあまりに学術的に興味深くてね。……その肉、百年に一度の変異種『ゴールデン・ボア』だろう? サンプルとして、一口……いや、一欠片でいい。ドアの隙間からスライドさせてくれないか?」

廊下で怪しく匂いを嗅ぐ眼鏡の先輩。

もはや通報レベルの不審者である。

「(……おのれ眼鏡! 我の肉を『サンプル』と称して掠め取る気か! ――アルマ、やるなよ! 一片たりとも、あの光るレンズの男には……)」

「……もし分けてくれるなら、女子寮の抜き打ち検査を回避するための『消臭魔法の増幅器』を貸し出してもいい」

「(…………。……アルマ。……話を聞こう。……眼鏡の分際で、なかなか『生存戦略』に長けた提案をしてきたな)」

「(結局、自分の食べ物のためでしょ!)」

アルマが困惑しながら、一切れの肉を皿に乗せてドアを少しだけ開けようとした、その時。

「――そこまでですわ、皆様」

氷のように冷たい声が、廊下に響き渡った。

アルマが顔を出すと、廊下の突き当たりに、腕を組んだエレーヌ先輩が立っていた。

その背後には、不法侵入(?)を現行犯で押さえられたエドワードが、気まずそうに眼鏡を直している姿がある。

「エ、エレーヌ先輩……!」

「エドワード、あなたは男子寮へ戻りなさい。反省文十枚よ。……そしてアルマさん。……あなたの部屋から漂う、この『あまりにも美味しそうな……いえ、目に余る騒音と異臭』は何事かしら?」

エレーヌ先輩はスッと部屋に足を踏み入れ、ベッドの下から漂う香りに、一瞬だけ鼻をピクつかせた。

「……寮内での大規模な魔力使用。……風紀委員として、没収も辞さない構えですわ。……特に、そこの黒猫。……あなた、以前よりさらに『球体』に近づいていませんこと?」

「(……っ!? ――小娘、逃げろ! ――この女、我を『没収』という名の断食部屋へ監禁するつもりだ!)」

「……エレーヌ、彼女たちは貴重な素材の味覚解析を……」

「黙りなさい、エドワード。……さあ、皆様。……今夜は、この『証拠物件』を囲んで、じっくりとお話を聞かせてもらいますわ。……ジャムさん、予備のフォークはあるかしら?」

「あ、はいっ! ありますわっ!」

「(……えっ、食べるの!?)」

結局、エレーヌ先輩の「尋問(という名の試食会)」が始まり、アルマたちの宴は、風紀委員公認(?)の深夜の秘密会合へと変貌を遂げた。

絶叫するノア(取り分が減ったため)、必死にメモを取るエドワード(廊下から)、そして意外と健啖家なエレーヌ先輩。

最弱パーティの栄光は、一晩にして「風紀委員への献上」という形で幕を閉じたのであった。

だが、エレーヌ先輩が「……あら、これ、悪くないですわね」と呟いたのを、ノアだけは恨めしそうな目で見つめていた。

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