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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第19話:祭りの後と、秘密の約束

「……おい、小娘。何を黄昏たそがれている。……そんな顔をしても、我の胃袋に収まった『真理』は、一滴たりとも返してやらんぞ」

学園祭の翌日。

後片付けに追われる生徒たちの喧騒を遠くに聞きながら、アルマは旧校舎の屋上で、心地よい秋の風に吹かれていた。

マントの中から顔を出したノアは、昨日あんなにツナ缶を平らげたというのに、もう「お腹が空いた」と言いたげな顔で髭を揺らしている。

「……黄昏れてないよ。ただ、あんなに大騒ぎしたのに、結局最後は猫同士でピクニックみたいになっちゃったな、と思って」

アルマは苦笑しながら、空っぽになった黄金の缶詰を見つめた。

伝説の魔導具『星の涙』。

かつて世界を揺るがしたかもしれない秘宝は、今やただの「猫の食器」として、ノアの足元に転がっている。

「(……フン。あれは、我とあの白猫との間で結ばれた、不可侵条約の証だ。……貴様には分からんのか。……食卓を囲むことこそ、真の対等な関係の始まりなのだ)」

「(……ただ一緒にツナを食べただけでしょ?)」

「(……うるさい! ――あ、あやつが来たぞ)」

ノアが急に居住まいを正した。

視線の先には、屋上の入り口から音もなく現れた、エレーヌ先輩の飼い猫・ブランシュがいた。

彼女は昨夜の騒動が嘘のように、また優雅な令嬢猫に戻っている。

「フニャ(……昨日の礼よ。受け取りなさい)」

ブランシュは、口に咥えていた一輪の「光る花」を、ノアの前にポトリと落とした。

「(……ほう。これは……『月光草』か。……魔力回復の効能がある貴重な植物だな。……フン、礼など不要だと言ったはずだが……)」

ノアはそう言いながらも、尻尾をパタパタと振り、嬉しそうにその花を前脚で手元に引き寄せた。

「(……ノア、顔がニヤけてるよ)」

「(……黙れ! これは、魔導の素材としての評価だ!)」

二匹が猫語で(?)何やら約束を交わしているのを、アルマは微笑ましく見守っていた。

結局、ブランシュが従えていた魔導ネズミたちも、彼女の指示で元の配管へと戻り、学園の食糧庫から盗まれた食材も、ほとんどが「少し齧られた状態」で返却されたという。

「……やあ、ベルンさん。……ここにいたのか」

背後から、いつものように足音もなくエドワード先輩が現れた。

彼の手には、何やら「虹色に光る液体」が入った小瓶が握られている。

「……昨夜の『星の涙』の成分分析結果が出たよ。……やはりあれは、ただの保存食ではなかった。……摂取した者の、最も純粋な『願い』を魔力に変換する、究極の触媒だったんだ」

「(……願いを……魔力に?)」

「……そう。……ノア君が、あのアカデミーを猫の楽園に変えることもなく、ただ美味しくツナを堪能したということは……。……彼の本質的な願いが、平和な食卓にあるという証明だね」

エドワードは眼鏡をクイッと上げ、珍しく柔らかな笑みを浮かべた。

「……ベルンさん。……君の使い魔……いや、相棒は、私たちが思っているよりもずっと、この学園に馴染んでいるようだ。……今回のレポートのタイトルは、『猫の平和主義におけるカロリーの相関関係』に決定したよ」

「……エドワード先輩。……最後まで、変な研究ばっかりですね」

アルマが笑うと、ノアも「(……フン、当然だ)」と誇らしげに胸を張った。

彼の「ダイエット」は昨夜のツナ缶で完全に白紙に戻ったが、そのお腹の丸みこそが、今のこの学園の平和の象徴のように見えた。

夕暮れ時。

アルマはノアを肩に乗せ、オレンジ色に染まる廊下を歩いていた。

図書室からの罰掃除も、アガサ先生が「祭りの片付けに免じて」と、半分に減らしてくれた。

「ねえ、ノア。……結局、あなたは自分の正体を思い出せなかったけど……。……それで良かったのかな?」

アルマがふと、独り言のように問いかけた。

ノアはしばらく沈黙した後、窓の外に広がる、準備を終えた穏やかな学園の景色を見つめた。

「(……フン。……記憶など、単なる過去の残滓に過ぎん。……今、この瞬間の空腹。……そして、貴様という世話の焼ける弟子の存在。……それさえあれば、王の退屈は十分に紛れるというものだ)」

ノアはそう言うと、アルマの頬をザリザリとした舌で一度だけ舐めた。

「(……感謝しろ、小娘。……我が、明日も貴様の横で昼寝をしてやる光栄をな)」

「……はいはい。……じゃあ、寮に戻ったら、ブランシュにもらった月光草で、美味しいお茶でも淹れようか」

「(……フン。……茶菓子も忘れるなよ。……できれば、ササミ味のクッキーが良い)」

「(そんなのないよ!)」

学園祭という嵐が過ぎ去り、また新しい日常が始まる。

才能ゼロの魔法使い見習いと、生意気な(元?)魔導王。

一人と一匹の物語は、まだ第一章の折り返し地点。

けれど、その絆は、黄金のツナ缶よりもずっと強く、そして温かく、学園の空に刻まれていた。

「最弱パーティ、今日もちょっとだけ成長中」ならぬ。

「魔法使い見習い、今日もちょっとだけ猫に振り回され中」。

アルマの明るい笑い声が、秋の終わりの夕闇に、優しく溶けていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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