表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/28

第18話:学園祭の夜、星の涙と黄金ツナ缶

学園祭の喧騒が遠ざかり、魔法の灯火がぽつぽつと消え始めた夜。

アルマは、図書室での罰掃除を抜け出したノアを追いかけて、月明かりに照らされた旧校舎の屋上へと辿り着いた。

「……おい、小娘。ようやく追いついたか。……見てみろ、この世界の頂から放たれる、神聖なる『ツナの波動』を」

屋上の縁に、一匹の黒いシルエットが立っていた。

ノアだ。彼は夜風に毛をなびかせ、眼下に広がる学園を見下ろしている。

その視線の先、時計塔の頂上には、昼間の騒動で紛失したはずの『黄金ツナ缶』が、月光を反射して神々しく輝いていた。

「(……ノア、見つけたんだね! ……でも、あんな高いところにどうやって……)」

「(フン、あやつだ。……我のライバルを自称する、あの白い高慢ちきな毛玉め)」

ノアが指し示す先。ツナ缶の隣には、赤いリボンを揺らす白猫・ブランシュが、優雅に前脚を舐めながら座っていた。

彼女の足元には、地下から引き連れてきた魔導ネズミたちが、整列して「警備」に当たっている。

「……やあ、ベルンさん。……ついに『星の涙』の正体が判明したよ」

背後から、影のようにエドワード先輩が現れた。

彼の手にあるレーダーは、時計塔の頂上を指して激しく点滅している。

「……初代学長が遺した究極の魔導触媒『星の涙』。……それは、実は魔力を極限まで濃縮して作られた、世界で唯一の『腐らない保存食』だったんだ。……それが巡り巡って、何故かツナ缶のラベルを貼られ、君のタンスの裏に紛れ込んでいたらしい」

「(――なっ!? ――我が備蓄していたのは、伝説の魔導具だったのか!?)」

ノアは衝撃の事実に耳をピンと立てた。

「(……道理で、あの缶から放たれるエーテルの香りが、我の魂を揺さぶるわけだ。……小娘! あれは単なるオヤツではない。我の魔力を全盛期に戻すための、失われた秘宝だ!)」

「(……結局、食べ物なのは変わらないんだね……)」

「……エレーヌの猫、ブランシュは、その魔力に当てられて、学園のネズミたちを従える『女王』として覚醒してしまったようだね。……このままでは、彼女が缶を開けた瞬間、溢れ出す魔力で学園が猫の楽園キャットパラダイスに書き換えられてしまう」

エドワードが淡々と恐ろしい予測を口にする。

見れば、時計塔の周囲には、どこから集まったのか数百匹の野良猫たちが集結し、怪しく目を光らせていた。

「(……許さん。……我のツナ缶で、勝手に楽園を作るなど! ……アルマ、準備しろ。……王の帰還を、あの白猫に知らしめてやる!)」

「(……わかったよ。……エドワード先輩、手伝ってください!)」

「……了解だ。……私の『全自動ネコジャラシ・ランッチャー』で、周囲の猫たちの注意を逸らそう」

エドワードが装置を起動すると、夜空に無数の「光る羽根」が打ち上げられた。

「ニャッ!?」「ニャアアアン!」

集まっていた猫たちが一斉に空を見上げ、混乱に陥る。

「(――今だ! 行け、アルマ!)」

アルマはノアを抱え、箒に跨って時計塔へと急上昇した。

風を切る音。月光の中、少女と猫が、白猫とネズミの軍団が待ち構える頂上へと突っ込む。

「(……ブランシュ! そのツナ缶を返せ! それは我の……我の、明日の朝ごはん……いや、魔導の根源だ!)」

「――フニャーッ!!(お黙り、デブ猫! これは今日から私の玉座よ!)」

ブランシュが鋭い爪を立てて威嚇する。

ネズミたちが一斉にパチンコを構えた。

「(……小娘! 『甘いスープ』だ! 空間を……空間を蜂蜜のように練り上げろ!)」

アルマはノアの指示通り、指先から温かい魔力を放った。

空中を舞うパチンコの豆が、アルマの魔力に触れた瞬間、ベタベタとしたキャンディに変わり、地面へと落下していく。

「(――食らえ! 我が真なる姿の……片鱗を!)」

ノアがアルマの肩から飛び出した。

彼の体から、一瞬だけ、巨大な黒い獣の影が膨れ上がる。

それは威圧感という名の、圧倒的な「猫の王」のオーラ。

「(……ひれ伏せ!)」

ドォォォォン……!

音のない衝撃波が時計塔を包んだ。

ネズミたちは腰を抜かして逃げ出し、ブランシュもその圧力に圧されて一歩後退する。

「(……今だ!)」

ノアは空中でツナ缶をがっしりと掴んだ。

だが、その瞬間。

ツナ缶のプルタブが、ノアの爪に引っかかり……。

プシュッ……。

という、軽快な音とともに、缶が少しだけ開いてしまった。

「(……あ)」

缶から溢れ出したのは、伝説の魔導触媒の輝き……ではなく。

あまりにも、あまりにも美味しそうな、芳醇な「ツナの脂の香り」だった。

「(…………。……ノア?)」

「(…………。……ブランシュ……。……半分こ、するか?)」

「(――フニャ(するわ))」

さっきまでの殺伐とした空気はどこへやら。

月明かりの下、二匹の猫は時計塔のてっぺんで仲良く座り込み、一つの缶詰を交互に舐め始めた。

「……ふむ。……魔力の暴走は回避されたようだね。……平和的な解決だ」

地上でそれを見ていたエドワードが、満足げに手帳を閉じた。

「……ねえ、ノア。……私の苦労は?」

アルマは箒にぶら下がったまま、遠い目をして夜空を見上げた。

伝説の秘宝『星の涙』は、一匹の食いしん坊な魔導王と、一匹のわがままな女王の胃袋の中に、幸せそうに消えていったのである。

学園祭の夜は、こうして静かに、そしてツナの香りと共に更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ