表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/28

第12話:眼鏡の追跡者と、禁断の「魔力飴」

「……おい、小娘。背後から、ひどく湿り気を帯びた嫌な魔力が這い寄ってきているぞ。……例えるなら、三日放置した雑巾に、魔力のカビが生えたような味だ」

放課後の渡り廊下。

アルマの肩の上で、ノアが不機嫌そうに耳を伏せた。

彼はここ数日、学園内の「特定の気配」に過敏になっていた。

「……また? 最近、視線を感じるなとは思ってたけど……」

アルマがさりげなく振り返ると、そこには噴水の陰に隠れるようにして、あの眼鏡の上級生が立っていた。

手帳にペンを走らせ、じっとアルマ――正確には、彼女の肩に乗る「黒い塊」を観察している。

「(……あ、あの人! 演習の時にいた……)」

「(フン、ストーカーか。あるいは我の美しさに魅了された信奉者か。……どちらにせよ、無礼極まりないな。……アルマ、あやつを『迷宮ラビリンス』に誘い込め。……教育してやる)」

「(迷宮って、ただの図書室の裏庭でしょ!? 行かないよ!)」

アルマは早足で立ち去ろうとしたが、眼鏡の男は音もなく距離を詰めてきた。

「……お待ちなさい、ベルンさん。……いえ、そこの『特級検体』と言うべきかな?」

男が声をかけた。

近くで見ると、その眼鏡の奥の瞳は、好奇心という名の狂気に濁っている。

「……え、エドワード先輩。……何か、御用ですか?」

「君のことはいい。……興味があるのは、その肩に乗っている……『それ』だ。……先日の演習で見せた、あの構造解析能力。……そして、今もなお私の魔力走査を無意識に弾いている、その不可視の領域……」

エドワードは、懐から一粒の「真っ赤な飴」を取り出した。

「(……っ!? 小娘、見ろ。……あれは……)」

ノアがゴクリと喉を鳴らした。

「(……ただの飴じゃない。……魔力の凝縮体が、極限まで精製されている。……あれ一粒で、我の魔力タンクが半分は回復するぞ……!)」

「これは、私が研究室で開発した『魔導増幅糖ブースト・キャンディ』だ。……もし、君の使い魔が、私の簡単な『テスト』に協力してくれるなら、これを差し上げよう」

「(……乗った! アルマ、今すぐ承諾しろ! 我は今、猛烈に腹が減っているのだ!)」

「(ノア、ダメだって! 怪しすぎるよ!)」

アルマの制止も聞かず、ノアはアルマの肩から地面に飛び降りた。

そして、これ以上ないほど「可愛い猫」を装い、首を傾げて「ニャ〜ン」と甘い声を出した。

「(……フン、チョロいものだ。……さあ、その甘露をこちらへ寄越せ、眼鏡の凡夫め)」

「……素晴らしい。知性があるだけでなく、演技力まで。……では、テストだ。……この魔方陣の中に入り、三秒以内に『解除』してみせたまえ」

エドワードが指を鳴らすと、地面に複雑な、幾何学模様の光が浮かび上がった。

それは、対象を物理的に固定しつつ、精神を揺さぶる『拘束と攪乱の混合魔法』だった。

「(……ふん。こんな子供騙しの術式……。……瞬きをする間に、内部から喰い破ってくれるわ!)」

ノアが意気揚々と魔方陣に足を踏み入れた、その瞬間。

ピカァァァッ!

「(……ヌオオオッ!?)」

魔方陣から、強烈な「またたびの香り」が噴出した。

それは、ノアがかつて経験したことのないほど、濃厚で、破壊的な香気だった。

「(……こ、これは……。……魔力の……暴力……。……思考が……溶ける……。……あ、ああ……柱が……柱が、美味しそうに見える……)」

ノアの瞳孔が限界まで開き、足元がフラフラと千鳥足になった。

伝説の魔導王(自称)は、地面に転がり、必死に自分の尻尾を追いかけて回転し始めた。

「……ほう。……やはり、精神構造はネコ科のそれに強く依存しているようだな。……非常に興味深い」

エドワードは冷徹に、その無様な姿を手帳に記録し始めた。

「ノ、ノア! しっかりして! 猫になっちゃダメだよ!」

アルマが駆け寄り、ノアを魔方陣から引き剥がした。

ノアはアルマの腕の中で、「(……おのれ……。……卑劣な……。……またたび……聖なる……またたび…………ぐう)」と、幸せそうな顔で寝落ちしてしまった。

「……ベルンさん。今日のデータは、非常に有意義だった。……これは約束の報酬だ」

エドワードは飴をアルマの手に握らせると、満足げに去っていった。

「……また、後日。……次は『動く紐』への反応を調べさせてもらうよ」

「……絶対、来ないでください!」

アルマは、腕の中でヨダレを垂らして眠る「魔導の王」を見つめ、深いため息をついた。

「……ねえ、ノア。……あなた、本当はただの猫なんじゃないの?」

「(……むにゃ……。……ササミ……。……またたびの……海で、泳いでる……)」

夕暮れの学園。

最強の使い魔(候補)の秘密は、眼鏡の先輩によって「またたびに弱い」という致命的な弱点として記録されてしまった。

アルマの苦労は、また一段とレベルアップしそうであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ