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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん


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第11話:魔導王、はじめての「ほうき飛行」

「……おい、小娘。貴様はいつまで、その掃除道具にまたがって地面を這いずり回っているのだ。見苦しいにも程があるぞ」

雲一つない秋晴れの午後。

学園の広大な飛行訓練場では、初等クラスによる『基礎飛行実習』が行われていた。

アルマは支給された古びた箒に、必死にしがみついている。

「……言わないでよ、ノア! 浮くだけでも大変なんだから。……あわわ、また右に傾いてる!」

「フン、重心がぶれているのだ。魔力を推進力に変えるのではなく、大気そのものを貴様のしもべとして従わせろ。……ほら、そこだ。風の背中を叩け」

ノアはアルマの肩に、四本の爪をがっしりと立てて陣取っていた。

彼は風に吹かれる毛並みを優雅になびかせ、まるで戦車に乗った将軍のような態度だ。

「アルマさん、もっと腰を低くして! 魔力の供給を一定に!」

カレン先生の鋭い指導が飛ぶ。

周囲では、器用に空を舞うカイたちが、アルマを追い越しながら嘲笑を投げかけていた。

「おいおい、アルマ! お前の箒、おじいさんの散歩より遅いぜ! ……おっ、その肩に乗ってる黒い塊はなんだ? お守りか?」

「……(ピクッ)」

ノアの耳が、危険な角度で動いた。

「(……小娘。今、あの若造が我を『塊』と呼んだか? ……万物の真理を、ただの質量体と同列に扱ったのか?)」

「(落ち着いて、ノア! 喧嘩しちゃダメだよ、今は授業中なんだから!)」

「(……許さん。……アルマ、その箒を我に貸せ。……いや、貴様の魔力回路を一時的に我に直結させろ。……真の『飛翔』というものを、この愚民どもの網膜に焼き付けてくれる)」

「(えっ!? 直結って、どうやるの!?)」

「(案ずるな。……我の肉球を、貴様のうなじに当てるだけだ。……いくぞ!)」

ノアが「ポスッ」と肉球をアルマの首筋に押し当てた。

その瞬間、アルマの体内に、冷たくて鋭い、けれど圧倒的に純粋な魔力が流れ込んできた。

(――なっ、なにこれ!? 力が……溢れてくる!)

「(……いいか、アルマ。空を飛ぶのではない。……空が、我らを運ばざるを得ない状況を作るのだ。……全速前進!)」

ドォォォォン!!

音速を超えたわけではないが、アルマの箒から、見たこともないような「青い光の尾」が噴出した。

それはもはや掃除道具ではなく、彗星のようだった。

「ひ、ひええええええっ!?」

アルマの悲鳴とともに、彼女は一瞬にしてカイを抜き去り、演習場を一周してしまった。

風圧で顔が歪み、涙が止まらない。

「(ハハハ! 見ろ、アルマ! 景色が止まって見えるぞ! これこそが魔導の極致、極超音速巡航……)」

「止まって――っ! 止めてええええ!」

アルマはパニックになり、箒の柄を強く握りしめた。

その拍子に、ノアとの魔力同調が乱れ、推進力のベクトルが真上を向いた。

シュバッ!!

「……あ」

カレン先生とクラスメートたちが見上げる中、アルマとノアは垂直に上昇し、雲を突き抜けて空の彼方へと消えていった。

数分後。

高度数千メートル。そこは、静寂と冷気が支配する世界だった。

「……ねえ、ノア。……ここ、どこ?」

「(……ふむ。……計算上は、王都の真上、といったところか。……見ろ、アルマ。地上の人間が、まるでアリのようだ)」

ノアは薄い空気の中でも、平然と胸を張っていた。

だが、アルマは極寒に震えながら、真っ青な顔で下を見下ろした。

「……綺麗だけど……。……これ、どうやって降りるの?」

「(……降りる? ……フン、重力に身を任せれば済む話だ。……魔力による緩衝材を展開すれば、着地など容易い)」

「(……魔力、もう空っぽだよ! 今の加速で全部使い切っちゃったみたい!)」

「(……なに? ……貴様のタンクは、やはりザルか! ……やむを得ん。……我の残り少ない魔力を使って……)」

ノアが魔力を練ろうとした、その時。

空腹による「グゥ……」という情けない音が、雲の上で響いた。

「(……あっ。……朝の煮干し、燃費が悪かったか……)」

「(……ちょっと! 笑えないよ!)」

二人は、重力の法則に従い、自由落下を開始した。

「あああああああ!」

「(ヌオオオオオオ!)」

猛スピードで地上へ向かって落ちていく一人と一匹。

アルマは死を覚悟し、目を強く閉じた。

だが、落下中、彼女の手に「柔らかい感触」が触れた。

「(……小娘。……諦めるな。……我の尻尾を、プロペラのように回せ。……空気抵抗を最大にするのだ!)」

「(そんなの無理だよ!)」

結局、二人は墜落……の寸前で、演習場の池に「ボッチャーン!」と派手な音を立てて突っ込んだ。

巨大な水柱が上がり、訓練場にいた全員が駆け寄る。

「アルマさん! 大丈夫!?」

池の中から、びしょ濡れのアルマが、頭に水草を乗せた状態で這い出してきた。

そして、その腕の中には、もはや原型を留めていない「濡れ雑巾」のようなノアがいた。

「(……屈辱だ。……我は、またしても……水に敗北したのか……)」

「……ノア。……もう、絶対、無理なスピードは出さないからね……」

「アルマさん、今の飛行は何ですか!? 禁忌の加速魔法を使いましたね!? 放課後、反省文です!」

カレン先生の怒声が響く中、ノアは静かに目を閉じ、意識を失った(ふりをした)。

「(……ササミ……。……特盛りのササミがあれば、この屈辱を許してやらんこともない……)」

「(寝言言わないでよ!)」

アルマの飛行技術が上達したかどうかは怪しいが、彼女の名前が「学園最速の墜落王」として刻まれたことだけは確かだった。

空飛ぶ掃除道具の冒険は、まだまだ地面に近い場所で続きそうである。

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