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オカルト記者三滝 自作品宣伝用外伝  作者: 焼魚圭
重ねの魔女 ――怪奇撃退作品群
2/2

後日談

 荷物を纏めて歩き出す。新幹線に乗って遠くに広がる都市へと向かう。軽い移動で腕に巻かれた時計の長針は何周したことだろう。黒い革のバンドは光沢を失いすっかり色褪せている。

 目的の駅で降りて電車に乗り、窓の外を眺めつつメモ帳とペンを構えて文字を形にしていく。初めは東京をコンパクトに纏めたような特徴のない場所だと思っていたものの、景色に木々が混ざる事でこの地が捨て去った本来の香りや色といったものが見えて。しかしながら目的地で外食などに頼ることはなく全国展開しているディスカウントストアにて安めの幕の内弁当を選んで割り箸の有料化を嘆きながら公園のベンチでいつも通りの食事を取る。

「贅沢な外食なんて出来ないから記事にも出来ないな」

 この場所で出されるご当地グルメや生活に挟まれた独自の風習を知って紐解くことさえ出来れば充分一つの記事にできるだろう。オカルトを取り扱った無名の雑誌である月刊アガルタにはその程度の話題でも載せるだけの寛容な心があった。有名なオカルト雑誌にあやかったのは伝説上の地名を名に掲げているという点だけであり実態は些細なことでも記事にできるといったものだった。初心者に最も優しいと言っても差し支えないかも知れない。

「とは言ってもライターには優しくないんだが。胃に穴開けパンチを使われてる気分だ」

 時給換算してみたところ全地方において最低賃金を下回る上に旅費や交通費といったものに対する手当も一切出されない。そのため三滝に限らずアガルタのライターは取材のない期間に日雇い労働者となることが殆どだった。

 ため息をつきながらも弁当を平らげてタンブラーのコーヒーを半分ほど飲み干し鞄から数枚の紙を取り出した。編集部と二週間ほど掛け合いようやく手にした取材許可を思い気が重くなるも必要なことだと割り切りながら資料に再び目を通す。

「森に住む魔女についての調査の依頼」

 最近は仲の良い先輩ライターの持つ連載コーナーが不当に打ち切られた。オカルトに関する様々な事から女と関係するものや結びつけられそうなものを選んで取り上げるあのコーナーは一定の人気を博していたものの編集長が変わってから突如失われたのだ。三滝の今回の取材も魔女を題材にしている、つまり女を脅威として貶めていると解釈されて許可が中々下りなかったのだ。

「最終的には噂は嘘だったという方向に持っていけとのことだったな」

 魔女などいなかった。心無い男たちが見たことによって作り上げられた噂だとすることを条件に許可をもらったのだった。指示に従うべくバスに乗り、辿り着いたのは静かな街。きっと噂に恐れていたのは過去の話なのだろう。文明が築かれていくことによって根拠のない噂話は彼らの心から全て焼き払われてしまうのだ。

「嘘が広がってそれが当たり前になったら化けて出てやろうか、捏造女編集長め」

 そうして公園に足を運び、顔に刻まれた皺を基準に当時のことを知っていそうな男を選び抜いて噂について訊ねる。彼の案内を受けながら例の建物に向かっている途中、話が共に進んで行った。

「この建物に住んでいたも同然の老婆はいつも薬草の香りを漂わせていた」

 壊された錠を外して鎖を外しながら男はお経を唱えている。取材によってはお経を耳にしていた三滝はその経験群から彼のお経は形を成していない素人のものだと分かっていたものの気休めを取り払うのも悪いと結論付けて止めることなく見守る。

「確かケーキをどうとか言ってた人もいたかな、若い男だったが」

 その人物の連絡先は分かっているそうだがどれだけ通信を試みても繋がらないという。建物の中に入った途端、埃っぽさに充ちた世界を見て思わず目を細めてしまう。行方不明となった男のことについては分からないもののこの建物に入ってしまったのだろうかと考えるだけで身は震えた。

「鍵を壊したやんちゃ野郎もいたし買い替えようにも要請した南京錠が届くのは二ヶ月後とかだ」

「それは大変ですね」

 軽い息苦しさを感じつつもテーブルを見つめてノートを開いてかすれた文字を見つめては魔女がカモミールティーとティラミスを好んでいるということを突き止める。今の管理人は三滝の口元が広がるさまを見て首を傾げるものの三滝は告げる。

「恐らく薬草の香りはカモミールティーと見て間違いないでしょう」

 これで編集長のお眼鏡にかなう記事が書けると喜んだのも束の間、辺りから悲痛な声が響き三滝は身を震わせる。遠くから響いているように見受けられるガラガラ声は耳にこびりついて寒気を幾らでも呼び起こしてしまう代物。

「なんだ、カラスか」

「魔女だ」

 怯える管理人が急いで三滝を外に出そうとした時、上から何かが降ってくるのを目にした。降ってきたにも拘らず割れることなく目の前で止まった皿と上に乗ったティラミス。この世のものではない事を気配がはっきりと伝えていた。

「これを食べたがために若いのは帰って来れなかったのかも知れない」

 この世のものでないものを食す事で元の場所に変えることが出来ないことは遥か太古より伝わっているヨモツヘグイという行為を思い起こさせる。知らずに食べてしまったのか、それとも意図していたのか。分からないまま考えることをやめて走り出す。結局詳しく調べることもないまま編集長の意向に従い男たちの立てた噂話とカモミールティーから見えてくる真実と言った内容で纏めて煮えきらない気持ちを抱いたまま帰りの電車に乗ることとなった。

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