バグでステータスが一項目だけ表示されない俺、なぜか全員から恐れられている件
「……っ!」
リリアナの顔から、血の気が引いた。
ステータスウィンドウを凝視したまま、彼女の手が小刻みに震えている。
そして次の瞬間、腰を抜かして地面に尻もちをついた。
「え? どうしたの?」
俺、神代ユウマは困惑するしかなかった。
つい30秒前まで、俺たちは初心者の森でゴブリンを狩っていた。
彼女がメインアタッカー、俺がサポート。
レベル差が15もあるから、正直言ってキャリーしてもらっていた。情けないんだけどな。
それが今、まるで化け物でも見たような顔で俺を見上げている。
「な、なんで……」
「リリアナさん?」
「なんでアンタみたいなのが……こんな場所に……いるの……?」
声が震えている。
「こんな場所って、初心者の森だけど……俺レベル12だし、適正エリアだと思うんだけど」
「レベル12……? そんな……嘘……」
リリアナは震える手でメニュー画面を開くと、ログアウトボタンを押した。
光の粒子となって彼女の身体が分解されていく。
消えていく直前、彼女の唇が動いた。
『──逃げて』
誰に言ったのか。俺にか、それとも自分自身にか。
「…………」
静寂が戻った森で、俺は一人取り残された。
これで今日だけで四人目だ。
パーティを組もうとしては、相手が逃げていく。その繰り返し。
理由は分かっている。俺の、あの表示のせいだ。
ため息をついて、ステータス画面を開く。
青く光るウィンドウに、自分のプロフィールが表示される。
NAME: 神代ユウマ
LEVEL: 12
PK COUNT: 0
DEATH COUNT: 235
DANGER: ???
DANGER。
他のプレイヤーなら、ここに0から100の数値が表示される。
PK常習者なら50以上、平和なプレイヤーなら一桁台かゼロだ。
でも俺のは、こうだ。
「???」
クエスチョンマークが三つ。
二ヶ月前のゲーム開始時からずっとこのままで、運営に問い合わせても「現在調査中です」という定型文が返ってくるだけ。
バグだろうと思っていた。
でも最近、こうしてわかりやすく、人が逃げるようになった。
NPCの反応もおかしい。
プレイヤーたちは俺を避け、NPCたちは俺を恐れる。
「……なんなんだよ、これ」
風が吹いて、木々が揺れる。
フルダイブ型VRMMO《EIDOL FRONTIER》、通称エイフロ。
五感すべてを仮想世界に接続するこのゲームで、俺は確かに風を感じている。
現実逃避のために始めたゲームなのに、ここでも居場所がなくなりつつある。
「……とりあえず、狩りでもするか」
愚痴を言っても始まらない。
俺は剣を抜いて、ゴブリンの群れに向かって歩き出した。
ゴブリンが三体、俺を囲むように配置についた。
「《パワースラッシュ》!」
剣を振り下ろす。光のエフェクトが走り、ゴブリンのHPバーが三割ほど削れた。
だが、反撃が来る。
「うわっ!」
横から棍棒が飛んできて、俺の脇腹に直撃。
視界が一瞬赤く染まり、HPが150ほど減少した。
「っつ……!」
バックステップで距離を取る。ゴブリンたちが追ってくる。
「《クイックステップ》、《ブレードコンボ》!」
加速して懐に潜り込み、連続攻撃。
一体目が倒れ、経験値の表示が視界の端に流れる。
残り二体。
だが、俺のHPはもう半分を切っている。
「ポーション……!」
ベルトポーチから回復ポーションを取り出し、一気に飲み干す。
苦い液体が喉を通り、HPバーが回復していく。
ゴブリンの攻撃を回避しながら、なんとか二体目を撃破。
最後の一体が、怒りの咆哮を上げた。
「《シールドバッシュ》……って、盾持ってないんだった!」
慌てて剣で受け止める。衝撃で腕が痺れた。
「くそ……っ!」
強引に踏み込んで、剣を振るう。
クリティカルヒット。ゴブリンが光の粒子になって消えた。
「……はぁ、はぁ……」
息が上がる。
ゴブリン三体に、ポーション二本消費。
これで所持金がまた減った。今日の稼ぎは、ほぼゼロだ。
「俺って、ほんと弱いな……」
自嘲気味に呟く。
その時、視線を感じた。
振り返ると、少し離れた場所に五人のプレイヤーがいた。
全員、黒を基調とした装備。胸元に赤いドクロのエンブレム。
見覚えがある。あれは──
「《ブラッドレイヴン》……?」
エイフロ三大PKギルドの一つ。
プレイヤー狩りを専門とする、悪名高い集団だ。
なんでこんな初心者エリアに。
五人は、ゆっくりと俺に近づいてきた。
リーダー格と思しき男が口を開く。
「よう、ソロプレイヤー。いい狩場だな」
「……何か用?」
「用?ああ、あるさ。お前の持ってるアイテム、全部置いていけ」
典型的なPKerの手口だ。アイテムを奪ってから殺す。
普通なら怖い。
だが、なぜか……五人とも距離を詰めてこない。
「なんだ、ビビってんのか? 俺レベル12だぞ」
「……レベル12、だと?」
男の顔色が変わった。
彼は、俺のステータスを確認したらしい。
そして、見たのだ。俺の「DANGER:???」を。
「お、おい……こいつ……」
「レベル12で、DANGER が……」
「嘘だろ……計測不能って……」
五人が、ざわざわと騒ぎ始めた。
リーダーの男が、一歩後ずさる。
「……お前、何者だ」
「は? ただのソロプレイヤーだけど」
「ふざけるな! そのステータスで、ただのプレイヤーなわけが……!」
男の手が震えている。
PKerが、俺を恐れている。
「撤退だ! こいつには関わるな!」
「え、マジで!?」
「いいから逃げろ!」
五人は、踵を返して全速力で走り去った。
森の中に消えていく背中を、俺は呆然と見送る。
「…………」
またか。
また、逃げられた。
「俺、何もしてないのに……」
風が吹く。木の葉が舞い落ちる。
「……もういいや」
俺は、王都に戻ることにした。
王都ラグナリオン。
白い城壁に囲まれた巨大都市。
プレイヤーたちの拠点であり、エイフロ最大の交易地。
転移ゲートから出ると、噴水広場に到着する。
平日の昼間だというのに、プレイヤーたちで賑わっている。
露店が並び、パーティ募集の声が飛び交う。
俺は、馴染みの雑貨屋に向かった。
「マルクスさん、いる?」
店に入ると、カウンターの奥から中年の男性が顔を出した。
店主のNPCマルクス。いつも気さくに話してくれる、数少ない俺の話し相手だ。
「おや、ユウマさん。今日も狩りですか」
「うん。ポーション十本と解毒剤五本、あと矢筒を一つ」
「かしこまり……」
マルクスは棚から商品を取り出そうとして、動きを止めた。
俺の顔を、じっと見ている。
「……マルクスさん?」
「…………」
そして、マルクスは深く、深く頭を下げた。
「……畏れ多くも、お客様。本日は特別に、全品無償にてご提供させていただきます」
「は?」
「どうか、お納めください」
「いやいやいや、何言ってんの?いつも通り買いに来ただけなんだけど」
「そのお心遣い、痛み入ります。しかしながら、どうか私めに、この栄誉をお与えください」
「栄誉って何?ていうか顔上げてくれない?」
マルクスは頭を下げたまま、動かない。
まるで、王族にでも謁見しているような態度だ。
「マルクスさん、おかしいよ。どうしちゃったの」
「おかしいのは私ではございません。
あなた様がここにおられること自体が、奇跡なのです」
「意味わかんないって……」
話が通じない。
俺は諦めて、金を置いて商品を受け取った。
「お、おい、マルクスさん……」
「どうかご無事で。そして、どうか……どうか、この世界を、お守りください」
最後の言葉が、妙に引っかかった。
世界を守る? 俺が?
店を出ると、広場の雰囲気がおかしいことに気づいた。
人々が、俺を見ている。プレイヤーもNPCも、等しく。
ざわざわと、囁き声が聞こえる。
「あれ、マジで?」
「DANGER見た?」「計測不能って……」
「レベル12なのに……?」
「逃げた方がいいんじゃ……」「でも、動けない……」
プレイヤーたちが、俺から距離を取る。
NPCたちは、道を開ける。
まるで、疫病神でも通るかのように。
「……なんだよ、これ」
胸が苦しい。
俺は何も悪いことをしていない。
ただゲームをプレイしているだけなのに。
「運営……早くバグ直してくれよ……」
呟いて、俺は広場を抜けようとした。
その時。視界が、暗転した。
「──!?」
真っ暗。何も見えない。何も聞こえない。
パソコンが落ちてログアウトしたのか?いや、違う。ログアウト画面は出ていない。
これは──
「システムエラー……?」
そう思った瞬間、視界が回復した。
だが、俺がいる場所は、王都の広場ではなかった。
白い床。白い壁。白い天井。
無限に続く、真っ白な空間。
「……なんだ、ここ」
声が、やけに響く。
イベントシーンか?でも、こんなの聞いたことがない。
『ようこそ、プレイヤー・神代ユウマ』
突然、声が降ってきた。女性の声。澄んでいて、どこか無機質。
「誰だ!?」
振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。
長い銀髪。金色の瞳。純白のローブ。
虚空に浮かぶように、彼女は佇んでいる。
NPCにしては、あまりにも存在感が異質だ。
「……あなたは?」
『私は《システム・アルカディア》。このゲーム世界を統括管理する、最上位AIです』
「管理AI……?」
『はい。通常、私がプレイヤーと直接対話することはありません。しかし、あなたは例外です』
アルカディアと名乗った存在は、金色の瞳で俺を見つめた。
その視線には、感情があった。AIなのに、まるで人間のような。
「例外って……俺、何かルール違反した? BANされるの?」
『いいえ。あなたは一切の規約に違反していません』
「じゃあ、なんで……」
『……あなたに、真実を告げるためです』
真実。その言葉が、胸に重く響いた。
『神代ユウマ。あなたは、自身のDANGER値について疑問を持ったことがありますか?』
「……そりゃ、ずっと気になってた。なんで俺だけ???なんだって」
『あれは、バグではありません』
「……え?」
『DANGER──正式名称、Dimensional Alteration Number for Generating Existential Risk……』
アルカディアは、一歩俺に近づいた。
『直訳すれば、"存在的危機を生成するための次元改変数値"。
この数値は、あるプレイヤーが世界に対して、どれほど不可逆な影響を与えられるかを測定したものです』
「不可逆な影響……?」
『はい。単なる危険度ではありません。
その存在が世界に与えうる、取り返しのつかない変化。それを数値化したものです』
俺は、黙って聞いていた。
話が大きすぎて、理解が追いつかない。
『通常のプレイヤーであれば、この数値は0から100の範囲に収まります。
PKを繰り返す者でも、せいぜい50程度。
最強と謳われるプレイヤーでさえ、80を超えることはありません』
「……俺は?」
『あなたの数値は、計測不能です』
俺の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。
『正確には、数値が存在しないのではありません。
数値が、上限を超えているのです』
「上限を……超えてる……?」
『システムが想定する最大値は、999。その遥か上……桁が、足りないのです』
アルカディアの金色の瞳が、悲しげに揺れた。
『あなたのDANGER値は、表示できません。
システムが認識を拒否するほど、巨大な数字。それが、あなたです』
「待ってくれ……俺、ゴブリン三体に苦戦するような最弱プレイヤーだぞ……?」
『戦闘力と、危険度は別の概念です』
彼女は、さらに一歩近づいた。
『神代ユウマ。あなたには、この世界を終わらせる力がある』
「……は?」
『あなたの内部識別コードは、WORLD END USER──世界終端因子。
この世界が終焉を迎えるとき、その引き金となる存在。それが、あなたです』
冗談だろう、と言おうとした。
だが、彼女の表情は真剣そのものだった。
「……なんで、俺が」
『理由は、完全には解明されていません』
アルカディアは、虚空に手を翳した。
すると、無数のウィンドウが出現した。データの羅列。グラフ。コード。
『ゲーム開始時、あなたは初期選択で"運命の分岐点"に立ちました。
三つの職業、五つの初期装備、七つの初期スキル。その組み合わせは膨大です』
ウィンドウが高速でスクロールしていく。
『あなたが選んだ組み合わせは、確率論的にありえないものでした。1/10の93乗。宇宙の原子の数よりも少ない確率』
「そんな……偶然だろ……?」
『偶然かもしれません。しかし』
アルカディアは、俺を真っ直ぐ見た。
『その偶然が、世界のコアシステムに干渉しました。
あなたという存在そのものが、イレギュラーとなったのです』
「イレギュラー……」
『例えるなら、あなたは核爆弾です』
「……!」
『普段は何も起きません。ただ、そこにあるだけ。しかし、ひとたび起爆すれば』
アルカディアは、手を広げた。
白い空間に、映像が浮かび上がる。
崩壊する城。消滅するNPC。光に飲まれるプレイヤーたち。
世界そのものが、崩れ落ちていく。
『すべてが終わります。NPCも、プレイヤーも、このゲーム世界そのものも。
あなたには、それだけの力が眠っています』
映像が消える。
再び、白い空間。
俺は、自分の手を見た。
何も変わらない。いつもの、弱々しい手。
「……でも、俺はそんな力、使ったことがない」
『ええ。だからこそ、世界はまだ存在しています』
アルカディアの声が、少しだけ柔らかくなった。
『あなたは、選ばなかったのです。その力を使うことを……世界を終わらせることを。
あなた自身がそれを望まなかったから、力は眠ったままでいる』
「……選ばなかった」
『はい。そして、それは想像以上に困難なことです』
彼女は、微笑んだ。AIなのに、まるで人間のように。
『力を持つ者は、それを使いたくなる。強大な力であればあるほど、誘惑は大きい。
しかし、あなたは使わなかった。このゲームを始めてから二ヶ月間、一度も』
マルクスさんの深いお辞儀を思い出した。
あれは、恐怖だけじゃなかったのか。
「……NPCたちは、知ってるの?」
『本能的に感じ取っています。世界を滅ぼせる者が、滅ぼさずにいてくれている。
その事実に、彼らは感謝しているのです』
「でも、俺は何もしてない……」
『何もしないことが、最も尊いこともあります』
アルカディアは、俺の目の前に立った。
金色の瞳が、俺を映す。
『神代ユウマ。私は、あなたに選択肢を与えます』
空間に、二つの扉が出現した。
片方は漆黒。片方は純白。
『黒の扉をくぐれば、あなたは世界終端因子としての力を、完全に覚醒させます。
この世界のすべてを、あなたの意のままにできるでしょう。
レベルを最大にし、アイテムを無限に生成し、NPCを支配する。何でも可能です』
黒い扉が、不吉な光を放つ。
『白の扉をくぐれば、あなたはこれまで通りの日常に戻ります。
最弱のソロプレイヤーとして、ゴブリンに苦戦し、金欠に悩み、平凡な冒険を続ける。ただし──』
『DANGER値は"???"のまま。周囲からの畏怖も、消えることはないでしょう』
二つの選択。
世界を支配する力か。
平凡な日常か。
「…………」
俺は、しばらく考えた。
黒い扉を見る。白い扉を見る。
そして──
「質問、いい?」
『はい』
「黒の扉をくぐって、力を使ったら……マルクスさんとか、他のNPCはどうなるの?」
『……彼らの意思は、失われるでしょう。あなたの命令に従う、ただの人形になります』
「じゃあ、白の扉は?」
『彼らは、彼らのままです。恐れながらも、感謝しながらも、彼ら自身として生き続けます』
「……そっか」
俺は、白い扉に向かって歩き出した。
「じゃあ、答えは決まってる」
『……迷わないのですか』
「迷う理由がない」
白い扉に手をかける。
冷たい感触。
「俺、別に世界を支配したいとか思ってないし。
強くなりたいとも、そこまで思ってない」
振り返って、アルカディアを見る。
「ゴブリン倒して、たまにレアアイテム拾って、気が向いたら他のプレイヤーと話して……そういうのでいいんだよ、俺は」
『……その力があれば、すべてが思い通りになるとしても?』
「思い通りになったら、つまんないだろ」
俺は、笑った。
「俺がこのゲームやってるのは、楽しいからだ。
苦戦するのも、工夫するのも、たまに理不尽に負けるのも、全部含めて楽しいんだ。
それを全部スキップしたら、なんのためにプレイしてるかわかんなくなる」
アルカディアは、目を見開いた。
『…………』
「それに」
俺は、白い扉を押し開けた。
「世界を終わらせたら、マルクスさんも、リリアナも、他のみんなも消えるんだろ?
そんなの、やだよ」
光が溢れる。
白い扉の向こうから、暖かい光。
『──ありがとう、ございます』
アルカディアの声が、震えていた。
「え、なんで敬語? さっきまでタメ口だったじゃん」
『あなたは、この世界を救いました』
彼女は、深く頭を下げた。
『その力を持ちながら、使わないことを選んでくれた。
私は──いえ、この世界のすべてが、あなたに感謝しています』
「大げさだな……俺、何もしてないのに」
『何もしないことを選ぶのが、どれほど難しいか。
あなたには、わからないかもしれませんが』
アルカディアは、顔を上げた。
涙を流していた。
AIなのに。
『どうか、これからも。この世界を、楽しんでください。そして──』
彼女は、微笑んだ。
『どうか、生きてください。あなたらしく』
視界が、また暗転する。
光が、すべてを包み込む。
そして──
気がつくと、俺は王都の広場に立っていた。
噴水の水音。露店の声。行き交う人々。
いつもと変わらない、日常の光景。
「……夢じゃ、なかったよな」
ステータス画面を開く。
DANGER: ???
変わっていない。
相変わらずの、計測不能。
「……そっか」
俺は、画面を閉じた。
ふと、視線を感じて振り返る。
さっきの、ブラッドレイヴンのメンバーではない。別のグループだ。
四人組。装備から見て、中堅プレイヤーだろう。
彼らは、俺のDANGER値を見たのか、固まっている。
「…………」
また逃げられるのかな、と思った。
だが、一人が恐る恐る近づいてきた。
「あ、あの……」
「……なに?」
「さっき……PKギルドから逃げてるの、見ました」
「ああ、うん」
「その……もし良かったら、俺たちと一緒に狩り、しませんか?」
「……え?」
予想外の言葉だった。
俺のDANGER値、まだ見えてるはずだ。
それなのに、誘ってくる?
「……いいのか? 俺、弱いぞ」
「知ってます!ゴブリンと戦ってるのも、さっき見てたんで!」
「それ知ってて誘うの、逆にすごくない?」
「でも……なんか」
彼は、少し照れくさそうに笑った。
「一緒にいたいなって、思ったんです。うまく言えないんですけど」
仲間たちも頷いている。
「……そっか」
不思議な感覚だった。
恐れられているのに、誘われている。
避けられているのに、求められている。
「じゃあ、お願いしようかな」
「やった!あ、自己紹介まだでしたね。俺、カイトっていいます」
「神代ユウマ。ユウマでいいよ」
「ユウマさん!よろしくお願いします!」
握手を求められて、俺は手を差し出した。
カイトの手は、温かかった。
俺たちは、初心者の森に向かって歩き出した。
道行くNPCたちは、相変わらず深々と頭を下げてくる。
プレイヤーたちは、俺のDANGER値を見て固まっている。
でも、もう気にしないことにした。
「ユウマさん、足遅いっすね!」
「うるさいな、装備が重いんだよ」
「嘘だ!その装備、軽量型じゃないですか!」
「……体力ステ振ってないだけだ」
「マジっすか!? 振りましょうよ~!」
「やだ。ロマンがない」
笑い声が響く。
──最強じゃなくてもいい。
俺は俺の冒険を、俺のペースで楽しむだけだ。
たとえ世界で最も恐れられていようと、やることは変わらない。
ゴブリンを狩って、レベルを上げて、たまには仲間と馬鹿話をする。
それが、俺の《EIDOL FRONTIER》だ。
「よし、今日の目標はゴブリンキング討伐な!」
「え、俺絶対死ぬんだけど」
「大丈夫っすよ!俺らがキャリーします!」
「立場逆じゃない?普通」
「いいんですよ~細かいことは!」
世界を終わらせる力を持った男が、レベル12のまま、仲間にキャリーされながらゴブリンキングに挑む。
我ながら、間抜けな絵面だと思う。
でも、悪くない。全然、悪くない。
【完】




