表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水に取られた ―零れる刻限―  作者: 大西さん
第十章:日常の侵食
33/56

第33話 警察の介入

その日の夜、ファミレスからの通報を受け、二人の警察官が田辺家を訪れた。


年配の地元出身の巡査部長と、赴任したての若い巡査。若い巡査はマニュアル通りに香織から事情を聞こうとする。


「本日、ファミレスでの騒動について、いくつかお話を伺いたいのですが」


しかし、玄関先で応対に出た祖母・和子の言葉に、彼の常識は崩壊した。


「ああ、水が少し、はしゃいだだけのこと。若い子は、時々こうして余計な力を持て余すものですから」


和子の声は静かだが、人間離れした静謐な威圧感に、若い巡査は気圧される。


年配の巡査部長は、田辺家にまつわる古い噂を知っており、「関わるな」という町の暗黙のルールを肌で感じていた。彼は若い巡査を制し、「ご迷惑をおかけしました」と早々に引き上げようとする。


帰り道、若い巡査が不安そうに問いかける。


「あれは、一体…?」


巡査部長は、田辺家の屋根を覆う重たい雲を見上げながら、意味深に呟いた。


「あの家は、この町の理屈が通じる場所じゃない。嵐が過ぎるのを待つしかないんだ」


この呪いという超常的な事象に対し、現代社会の秩序(警察)がいかに無力であるかを具体的に示す。また、外部の人間を冷静にあしらう田辺家の女たちの異様さと、町に根付くタブーの根深さを強調する。


■二人だけの世界


ファミレスを飛び出し、当てもなく歩いていると、後ろから声をかけられた。


「香織ちゃん」


振り返ると、翔太が立っていた。 彼の姿も、どこか歪んで見える。輪郭が滲み、時折二重に見える。


「翔太君...」 「大丈夫?……大丈夫なわけ、ないよな」 翔太は、香織の濡れた制服と、絶望に満ちた表情を見て、すべてを察していた。


「僕も、変わり始めてる」 翔太が自分の手を見せる。指の間に、薄い水かきのような膜が形成され始めていた。


「君に触れるたびに、僕の中に水が流れ込んでくる。でも、不思議と怖くないんだ」


翔太は香織の手を取った。 二人の手が触れ合うと、青い光が一瞬、脈打つように光る。


「一緒に行こう」 「どこへ?」 「運命の先へ」


翔太だけが、自分と同じ世界にいる。彼だけが、自分を化け物として見ない。その事実だけが、香織を繋ぎとめる唯一の錨だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ