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プロローグ 世界を滅ぼす者

最初はシリアスです。

でも途中から「魔法ぶっぱ女子」「罠ハメ女子」「筋肉で解決男子」が出てきます。

――だから安心してください。たぶん世界は終わります。

王都レオグラン。


その中心にそびえる城は――帝国最後の遺産。

そこには、世界の均衡を保つ秘宝が封じられていた。


《世界律の鍵》。


それは死者を封じる“最後の蓋”。

もし奪われれば、死界から死者が溢れ出し、

世界は瞬く間にゾンビ地獄と化す。


だが今、その鍵を狙う者が現れた。


かつて“英雄”と讃えられた男――


グレイデス・デュラン。


幾千の敵を斬り伏せ、民を守り抜いた名将。

……しかし、それはもう過去の話だ。


すべては、あの日。


燃え落ちた村で、妻を失った瞬間から始まった。



グレイデスは王都に常駐し、レオグラン城の防衛を担っていた。


そのさなか、一報が届く。


「村が襲撃された――至急、帰還せよ」


愛する者と暮らす、あの穏やかな村。

任務の合間に帰る、心の拠り所。


その故郷が、盗賊団の襲撃を受けたという。


彼はためらうことなく馬を()り、帰路を急いだ。


だが――


迎えたのは。


ゴウッ!


赤々と燃え盛る炎。

無残に崩れ果てた村の姿。


「盗賊は撃退された」――そんな報告など、どうでもよかった。


彼がただひたすら目指したのは、ひとつだけ。


最愛の妻リリィナと暮らす、自分たちの家。


だがそこにあったのは――


黒く炭化した柱。

崩れた梁。

ボロボロと崩れ落ちる残骸。

くすぶる炎の残り香。


瓦礫(がれき)の下。


彼女は――かすかに。

まだ、息をしていた。


「リリィナ……!」


土と血に塗れた身体。

それでも、彼女は最後の力を振り絞り、彼を見上げる。


そして――微笑んだ。


「……いつまでも……あなたを……愛しています……」


それが、彼女の最期の言葉だった。


次の瞬間。


リリィナの身体から力が抜け、

静かに――腕の中で崩れ落ちた。


何百、何千という敵を切り捨ててきたこの手が。


――守れなかった。


たったひとつの、最も大切なものを。


世界の音が遠のく。


凍てついた心は、悲鳴を上げることさえ許されなかった。

喪失(そうしつ)の重さが、感情すら奪い去っていた。



妻を(うしな)い、希望すら霧散した。


心は軋み、理性は崩れる。

常軌を逸したまま、彼は――


絶望の果てに。


悪魔ナグ=ソリダとの契約を交わした。


ナグ=ソリダ。


この世界において、

“絶望の淵に立つ者”の前にのみ現れる異形。


神に見放された魂が最後に辿り着く、

終焉(しゅうえん)の声”。


だが、その正体は――実体を持たぬ霊的災厄(れいてきさいやく)


己の魂を定着させる“器”を求め、

幾百年も――世界を彷徨い続けていた。


数多の人間に宿ろうとしたが、

そのすべては即座に崩壊し、灰と化した。


しかし。


グレイデスだけは――常識を超えていた。


彼が、ナグ=ソリダの願いを叶える代償として、

与えられたのは――“四重の加護”だった。


 ◆魔法攻撃・状態異常を無力化する……【魔法無効】

 ◆あらゆる物理を通さぬ不壊の肉体……【物理無効】

 ◆一撃必殺のダメージ補正………………【即死効果】

 ◆巨神の如き威容と質量増加……………【体巨大化】


通常の人間であれば、ひとつの加護でも魂が砕けた。


だが、彼の狂気だけが――そのすべてを受け入れた。


そして、耐え抜いた。


(……ようやく現れたか。我が定めし“終焉の器”よ)


――ズガァァァァァァンッ!!


四つの魔紋が、両腕と両脚に焼き刻まれる。


ジュウウウウウッ!!


灼熱(しゃくねつ)の苦痛が全身を貫いた。


膝が砕けるように折れ、血を吐く。


「ぐああああああああッ!!」


地を掻きむしり、咆哮(ほうこう)


指先から背骨まで、火柱のような痛みが走る。


だが、それでも――


グレイデスは立ち上がった。


その身を(むしば)む激痛に、抗いながら。


だが、まだ終わらない。


さらに、彼が自ら望んだ――

最も恐ろしい呪いの刻印が残される。


――《生死逆転の呪い》。


ナグ=ソリダの指が、グレイデスの胸に触れる。


ジュゥゥゥ……。


世界の音が遠のいた。


「お前を倒した者は――その瞬間に生と死が逆転する。


すなわち死。


貴様と共に、そこで運命が終わるのだ」


世界律の鍵で、妻を現界に呼び戻し、

その彼女に自らを討たせる。


――その瞬間、死者は“生者”へと戻る。


それが、グレイデスのただひとつの願いだった。


「リリィナを……必ず、生き返らせる……」


その瞳には、かつての英雄の面影はない。


ただ――


妻を取り戻すためなら、

この世界すら焼き払うという、


“狂気の光”だけが残っていた。



グレイデスが去った後――


ナグ=ソリダは、かつて王都に名を馳せた“三大将軍”の魂を呼び戻した。


――ゴゴゴゴゴ……ッ!!


魔導で編み直された鎧が、軋みを上げて組み上がる。


霊鎧兵れいがいへい”。


蘇生ではない――鎧に魂を無理やり縫い付けられた従者たち。

その命は――わずか五日間。


ズシィィィン……!


鉄靴が大地を踏み抜く音とともに、三体の巨影が立ち上がる。


その姿を見下ろし、ナグ=ソリダは薄く笑った。


(グレイデス――お前こそが、“終焉の器”。


 我がこの世に肉体を顕現(けんげん)させるために……


 いずれ、いただくとしよう)


だがグレイデスはまだ知らない。


この契約のすべてが、悪魔の“実体化計画”に仕組まれた罠であることを。


そして今――。


グレイデスと三体の霊鎧兵は王都へと進軍を開始する。


目的はただひとつ。


世界律の鍵を奪い、妻を蘇らせるために。


――ドォォォォン……!!


その足音は、やがて世界全土に鳴り響く。


世界の終末は、静かに――その音を刻み始めた。

……と、ここまで壮大に盛り上げておいて。


次に登場するのは――


剣で山を割る少年と、

アップルパイで死闘を繰り広げる少女たち。


――きっと、あなたは、こう思うはず。


『あぁ、もう、世界終わったな!』

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