プロローグ 世界を滅ぼす者
最初はシリアスです。
でも途中から「魔法ぶっぱ女子」「罠ハメ女子」「筋肉で解決男子」が出てきます。
――だから安心してください。たぶん世界は終わります。
王都レオグラン。
その中心にそびえる城は――帝国最後の遺産。
そこには、世界の均衡を保つ秘宝が封じられていた。
《世界律の鍵》。
それは死者を封じる“最後の蓋”。
もし奪われれば、死界から死者が溢れ出し、
世界は瞬く間にゾンビ地獄と化す。
だが今、その鍵を狙う者が現れた。
かつて“英雄”と讃えられた男――
グレイデス・デュラン。
幾千の敵を斬り伏せ、民を守り抜いた名将。
……しかし、それはもう過去の話だ。
すべては、あの日。
燃え落ちた村で、妻を失った瞬間から始まった。
◇
グレイデスは王都に常駐し、レオグラン城の防衛を担っていた。
そのさなか、一報が届く。
「村が襲撃された――至急、帰還せよ」
愛する者と暮らす、あの穏やかな村。
任務の合間に帰る、心の拠り所。
その故郷が、盗賊団の襲撃を受けたという。
彼はためらうことなく馬を駆り、帰路を急いだ。
だが――
迎えたのは。
ゴウッ!
赤々と燃え盛る炎。
無残に崩れ果てた村の姿。
「盗賊は撃退された」――そんな報告など、どうでもよかった。
彼がただひたすら目指したのは、ひとつだけ。
最愛の妻リリィナと暮らす、自分たちの家。
だがそこにあったのは――
黒く炭化した柱。
崩れた梁。
ボロボロと崩れ落ちる残骸。
くすぶる炎の残り香。
瓦礫の下。
彼女は――かすかに。
まだ、息をしていた。
「リリィナ……!」
土と血に塗れた身体。
それでも、彼女は最後の力を振り絞り、彼を見上げる。
そして――微笑んだ。
「……いつまでも……あなたを……愛しています……」
それが、彼女の最期の言葉だった。
次の瞬間。
リリィナの身体から力が抜け、
静かに――腕の中で崩れ落ちた。
何百、何千という敵を切り捨ててきたこの手が。
――守れなかった。
たったひとつの、最も大切なものを。
世界の音が遠のく。
凍てついた心は、悲鳴を上げることさえ許されなかった。
喪失の重さが、感情すら奪い去っていた。
◇
妻を喪い、希望すら霧散した。
心は軋み、理性は崩れる。
常軌を逸したまま、彼は――
絶望の果てに。
悪魔ナグ=ソリダとの契約を交わした。
ナグ=ソリダ。
この世界において、
“絶望の淵に立つ者”の前にのみ現れる異形。
神に見放された魂が最後に辿り着く、
“終焉の声”。
だが、その正体は――実体を持たぬ霊的災厄。
己の魂を定着させる“器”を求め、
幾百年も――世界を彷徨い続けていた。
数多の人間に宿ろうとしたが、
そのすべては即座に崩壊し、灰と化した。
しかし。
グレイデスだけは――常識を超えていた。
彼が、ナグ=ソリダの願いを叶える代償として、
与えられたのは――“四重の加護”だった。
◆魔法攻撃・状態異常を無力化する……【魔法無効】
◆あらゆる物理を通さぬ不壊の肉体……【物理無効】
◆一撃必殺のダメージ補正………………【即死効果】
◆巨神の如き威容と質量増加……………【体巨大化】
通常の人間であれば、ひとつの加護でも魂が砕けた。
だが、彼の狂気だけが――そのすべてを受け入れた。
そして、耐え抜いた。
(……ようやく現れたか。我が定めし“終焉の器”よ)
――ズガァァァァァァンッ!!
四つの魔紋が、両腕と両脚に焼き刻まれる。
ジュウウウウウッ!!
灼熱の苦痛が全身を貫いた。
膝が砕けるように折れ、血を吐く。
「ぐああああああああッ!!」
地を掻きむしり、咆哮。
指先から背骨まで、火柱のような痛みが走る。
だが、それでも――
グレイデスは立ち上がった。
その身を蝕む激痛に、抗いながら。
だが、まだ終わらない。
さらに、彼が自ら望んだ――
最も恐ろしい呪いの刻印が残される。
――《生死逆転の呪い》。
ナグ=ソリダの指が、グレイデスの胸に触れる。
ジュゥゥゥ……。
世界の音が遠のいた。
「お前を倒した者は――その瞬間に生と死が逆転する。
すなわち死。
貴様と共に、そこで運命が終わるのだ」
世界律の鍵で、妻を現界に呼び戻し、
その彼女に自らを討たせる。
――その瞬間、死者は“生者”へと戻る。
それが、グレイデスのただひとつの願いだった。
「リリィナを……必ず、生き返らせる……」
その瞳には、かつての英雄の面影はない。
ただ――
妻を取り戻すためなら、
この世界すら焼き払うという、
“狂気の光”だけが残っていた。
◇
グレイデスが去った後――
ナグ=ソリダは、かつて王都に名を馳せた“三大将軍”の魂を呼び戻した。
――ゴゴゴゴゴ……ッ!!
魔導で編み直された鎧が、軋みを上げて組み上がる。
“霊鎧兵”。
蘇生ではない――鎧に魂を無理やり縫い付けられた従者たち。
その命は――わずか五日間。
ズシィィィン……!
鉄靴が大地を踏み抜く音とともに、三体の巨影が立ち上がる。
その姿を見下ろし、ナグ=ソリダは薄く笑った。
(グレイデス――お前こそが、“終焉の器”。
我がこの世に肉体を顕現させるために……
いずれ、いただくとしよう)
だがグレイデスはまだ知らない。
この契約のすべてが、悪魔の“実体化計画”に仕組まれた罠であることを。
そして今――。
グレイデスと三体の霊鎧兵は王都へと進軍を開始する。
目的はただひとつ。
世界律の鍵を奪い、妻を蘇らせるために。
――ドォォォォン……!!
その足音は、やがて世界全土に鳴り響く。
世界の終末は、静かに――その音を刻み始めた。
……と、ここまで壮大に盛り上げておいて。
次に登場するのは――
剣で山を割る少年と、
アップルパイで死闘を繰り広げる少女たち。
――きっと、あなたは、こう思うはず。
『あぁ、もう、世界終わったな!』




