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第五章

古びた鉱山の坑道の最奥部。漆黒の装甲を纏い、青白い光を宿す鉱山トロールの影兵士が、蓮の傍らに静かに立つ。その異様な光景を前に、C級ハンターのチームメンバーたちは、恐怖と困惑に包まれていた。彼らのリーダーは、震える声で蓮に問いかけた。


「た、高橋……一体、何をしたんだ、お前は…!?」


蓮は、自身の足元から伸び、影兵士となったトロールの影を見つめた。脳裏に響くシステムの声が、この能力の詳細を伝えている。


『影の支配者:死んだ魔物の影を抽出し、影兵士として使役する能力。使役できる影兵士の数と強さは、プレイヤーのレベルと知力に比例します。』


蓮は、驚きながらも冷静に状況を把握した。これは、彼が持つ「レベルアップ能力」の一部なのだ。そして、この力は、彼が想像していた以上に、途方もない可能性を秘めている。


「これは……俺の、能力です」


蓮は、できるだけ平静を装って答えた。しかし、彼の言葉は、彼らの混乱を増幅させるだけだった。E級ハンターが、死んだ魔物を操るなど、前代未聞だ。


「馬鹿な! そんな能力、聞いたこともないぞ!」


「ああ、もしかしたら…以前の二重ダンジョンで、何か恐ろしいものに取り憑かれたのかも…!」


チームメンバーたちは、蓮から距離を取り、警戒の目を向けた。彼らの視線には、畏怖だけでなく、得体の知れないものへの忌避感が混じっていた。蓮はそれを肌で感じた。自分の力を、迂闊に他人に明かすべきではなかった。


「もうすぐ、ゲートが閉じます。早く脱出しましょう」


蓮はそう言い、影兵士となったトロールに「待機」の意思を伝える。すると、影兵士はぴくりとも動かず、その場に留まった。蓮は、この能力をまだ完全に制御できていないことを悟った。今は、彼らに余計な疑念を抱かせないことが先決だ。


チームメンバーたちは、まだ納得していない表情だったが、ダンジョンが閉じ始める光景を見て、慌てて出口へと向かった。蓮も彼らに続き、古びた鉱山の坑道を後にした。


高まる疑惑と影の力

ダンジョンから脱出すると、ハンター協会の職員が待機していた。メンバーたちは興奮した様子で、ボス部屋で起こった出来事をまくし立てた。しかし、具体的な「影」の現象を目撃したのは彼らだけだったため、職員は彼らの話に半信半疑の表情を浮かべるばかりだった。


蓮は、その喧騒を横目に、静かに協会のビルへと向かった。彼の頭の中は、先ほど覚醒した「影の抽出」のことでいっぱいだった。どうすれば、この能力を完全に理解し、制御できるようになるのか。


帰宅後、蓮は自室の隅で、再び「影の抽出」を試みた。心の中で、以前倒したゴブリンの影を呼び出すイメージをする。すると、足元からわずかな影が蠢き、小さなゴブリンの形を成した。


『影兵士:ゴブリンの影が抽出されました。』


それは、先ほどのトロールとは比べ物にならないほど小さく、頼りない影だったが、確かに存在していた。蓮は影ゴブリンに「歩け」と命じると、ぎこちないながらも、その影は部屋の中を歩き始めた。彼は興奮を抑えきれなかった。


「これで……俺は一人じゃない」


彼は、この影兵士たちが、今後のダンジョン攻略において、どれほどの助けになるかを即座に理解した。これまで最弱として孤独に戦ってきた蓮にとって、これは何よりも心強い味方だった。


だが、同時に、彼はこの能力の危険性も感じ取っていた。もし、この力が世間に知られれば、自分は単なるハンターとしてではなく、恐ろしい存在として見られるかもしれない。あるいは、その能力を狙う者たちが現れるかもしれない。蓮は、この力を決して表沙汰にしないと心に誓った。


しかし、彼の急激な成長は、すでに周囲の注目を集め始めていた。

ハンター協会のデータベースでは、高橋蓮というE級ハンターの身体能力が、常識外れの速度で向上しているというデータが蓄積され始めていた。担当官の斎藤は、蓮の提出するダンジョンクリア報告書と、自身の目で見た彼の変化に、日に日に困惑を深めていた。


「このデータは一体…? まるで、ゲームのパラメータでも成長しているかのようだ…」


斎藤は、蓮の報告書を何度も読み返しながら、深く考え込んでいた。彼の脳裏には、ある疑問が浮かび上がっていた。「高橋蓮という男は、本当にただのE級ハンターなのだろうか?」


一方、日本のハンター界のトップに君臨するS級ハンターたちの中には、蓮の奇妙な噂を耳にする者も現れ始めていた。彼らは、E級ハンターの急成長という、取るに足らないはずの報告の裏に、何か異常なものを感じ取っていた。


蓮は、トレーニングを欠かさず、影兵士の制御も試み続けた。彼は、まだ知らなかった。彼の「レベルアップ能力」と「影の支配者」という異質な力は、ハンター協会の、そして世界の根幹を揺るがす、巨大な陰謀の一端に触れることになるとは。彼の孤独な戦いは、始まったばかりだった。

第六章もお楽しみに!!!!

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