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第三章

二重ダンジョンから生還した蓮は、その日から自らの人生が新たな局面を迎えたことを実感していた。ハンター協会での報告は、予想通りの混乱を招いた。「E級ハンターが高難度の二重ダンジョンを単独でクリアした」という話は、まるで荒唐無稽な夢物語のようだった。現場の職員は蓮の言葉に耳を疑い、上層部は調査のために何度も彼を呼び出した。しかし、彼らがどんなに能力を測っても、蓮のランクは依然としてE級のまま。ただ、以前の彼とは比べ物にならないほどの身体能力がデータとして現れるばかりだった。


「高橋ハンター、一体何があったのか、もう一度詳しく話してもらえませんか?」


担当官の斎藤は、疲れた顔で蓮を見つめた。蓮は二重ダンジョンのこと、そしてシステムからのメッセージを正直に話したが、誰も信じようとしなかった。当然だ。レベルアップという概念は、この世界に存在しない。


「すみません、これが全てです。システムが、俺だけに語りかけてきて……」


蓮の言葉に、斎藤は深くため息をついた。

「……まあ、いいでしょう。とにかく、あなたの命が無事だったことは何よりです。しばらくは静養して、無理はしないように。」


表面上は理解を示しながらも、斎藤の目は「このE級ハンターは頭がおかしくなったのかもしれない」と語っていた。蓮は何も言い返さず、協会のビルを出た。信じてもらえないことは分かっていた。だが、彼には、この能力を証明する方法があった。


「よし……行くか」


蓮は自宅に戻ると、すぐに一人用の簡易ダンジョンへの申請手続きを行った。最も安全で、最も弱いとされるD級以下のダンジョン。通常、E級ハンター単独での入場は許可されないが、今回の二重ダンジョンクリアという特例で、なんとか許可が下りたのだ。彼の目的は一つ。この「レベルアップ能力」が、あの時だけの幻ではなかったことを確認することだ。


レベルアップの実験

翌日、蓮は一人でダンジョンに入った。内部は簡素な石造りの通路が続き、E級のゴブリンが数体徘徊しているだけだ。以前の彼なら、これだけの数でも命がけだった。


「スキル:ダッシュ!」


蓮は囁くように唱えると、体が瞬間的に加速した。ゴブリンたちは彼が視界から消えたと思ったのか、きょろきょろと首を回している。その背後に回り込み、剣を振るう。


『経験値を獲得しました!』

『レベルが5に上がりました!』


確かに上がった。再び、体が軽くなる感覚。ステータスウィンドウを開くと、体力、筋力、敏捷の数値が僅かに上昇しているのが分かる。


「やはり、これは本物だ……!」


蓮は確信した。彼はその後もゴブリンを倒し続け、レベルを上げていった。彼は気づいた。このシステムは、戦闘で経験値を得る以外にも、様々な「クエスト」を提示してくるのだ。


『クエスト:一日一回、以下のトレーニングを完遂してください。』

『腕立て伏せ:100回』

『腹筋:100回』

『スクワット:100回』

『ランニング:10km』

『失敗時、ペナルティゾーンへ移動します。』


恐ろしい「失敗時」の条件に、蓮は思わずゴクリと唾を飲んだ。しかし、この機会を逃すわけにはいかない。彼はダンジョンから戻ると、疲労困憊の体でトレーニングを開始した。元々ガリガリで運動能力の低い蓮にとって、このメニューは拷問以外の何物でもなかった。途中で何度も挫けそうになったが、「ペナルティゾーン」の恐怖と、強くなれるという希望が彼を突き動かした。


夜遅く、ようやく全てのメニューを終えた蓮は、全身から汗を滴らせながら床に倒れ込んだ。


『クエスト「一日トレーニング」をクリアしました!』

『報酬を獲得しました。』

『レベルが1上がりました!』


まさか、こんな方法でもレベルが上がるのか。蓮は驚きと同時に、この能力の奥深さに畏怖すら感じた。彼のレベルは、たった数日で「8」に達していた。


変わりゆく日常と疑惑の目

蓮の変化は、彼の日常にも現れ始めた。

以前は階段を上るだけでも息切れしていたのが、今では息一つ乱さない。

食事の量も増え、ガリガリだった体にも少しずつ筋肉がつき始めた。


ハンター協会での再検査でも、彼の身体能力はさらに向上しており、担当官の斎藤は頭を抱えていた。

「高橋ハンター、正直に言ってください。何か特別な訓練でも受けましたか? それとも、最近見つかったという『能力覚醒薬』を…」


蓮は首を横に振るしかなかった。彼は自分の能力を隠し通すつもりだった。今の段階で「自分だけがレベルアップできる」などと公表すれば、何をされるか分からない。研究対象にされるかもしれないし、悪用される可能性もある。彼はただ、静かに強くなりたかった。そして、誰もが自分を馬鹿にし、蔑んだ過去を、この力で覆したかった。


しかし、彼の変化に気づく者は他にもいた。かつて彼と同じチームでダンジョンに入った仲間たちだ。彼らは蓮の身体能力の向上を目の当たりにし、困惑と猜疑の目を向け始めた。


「まさか、あの二重ダンジョンで、何か特別なものを手に入に入れたんじゃないか?」

「俺たちの前で、何か隠してるんじゃ…?」


蓮は、彼らの視線から逃れるように、足早に協会を後にした。彼はまだ、自分の能力を誰にも知られるわけにはいかない。


レベルアップするごとに、蓮は確信を深めていた。この力は、彼を「最弱」のE級ハンターから、誰もが届かない高みへと導くものだ。彼はもう、誰かの嘲笑の対象ではない。そして、いずれは、彼を蔑んだ者たちを、実力で黙らせることができるだろう。


蓮は、次のダンジョンへの挑戦を心に決めた。今度は、もっと強い敵と戦い、もっと速く、もっと圧倒的に強くなるために。

第四章もお楽しみに!!!!

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