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第二章

蓮の目の前に現れた半透明のウィンドウは、彼の混乱を深めた。しかし、それ以上に、全身に満ちる得体の知れない力が、彼の心を奮い立たせた。痛みに呻いていた体は嘘のように軽く、まるで全身の細胞が活性化したかのように熱を帯びている。




魔物は、地面に倒れ伏した仲間たちにその巨大な爪を振り下ろそうとしていた。その瞬間、蓮の脳裏に再び無機質な声が響く。




『クエスト:緊急事態が発生しました。すべての敵を殲滅してください。失敗時、即死します。』 『残り時間:9分58秒』




「殲滅……?」




この化け物を、たった一人で? 蓮は震える手で、地面に落ちていた仲間の剣を拾い上げた。柄は手のひらに収まらないほど太く、重い。だが、今の蓮には、それがまるで羽のように軽く感じられた。




『スキル:「ダッシュ」を発動できます。』




再び、目の前のウィンドウに新しいメッセージが表示される。蓮は戸惑いながらも、なぜか直感的にその「ダッシュ」というスキルを理解した。次の瞬間、彼の体が風を切り裂くように加速する。それは、E級ハンターの蓮には決して不可能だった、常識外れの速度だった。




「な、なんだ!?」




魔物が驚いたように声を上げる。その隙を突き、蓮は魔物の懐に飛び込んだ。剣を振り上げる。これまでろくに訓練もしてこなかった彼の剣術は、お粗末そのものだったはずだ。しかし、彼の体はまるで誰かに操られているかのように、流れるような動作で剣を振るう。魔物の硬質な皮膚に、剣が深く食い込んだ。




「グアァアアアア!」




魔物が苦痛の叫びを上げる。蓮は驚きながらも、その手応えに確かな変化を感じていた。 『経験値を獲得しました!』 『レベルが1上がりました!』 『レベルが2に上がりました!』




連続して響く無機質な声。そして、体の内側から湧き上がる力が、さらに増幅していくのを感じた。




「これだ……この感覚……!」




蓮は気づいた。この「レベルアップ能力」は、彼をただ強くするだけではない。戦いの中で経験値を獲得し、レベルが上がるたびに、彼はより速く、より強く、そしてより正確に動けるようになっていく。まるで、彼自身がゲームのキャラクターになったかのようだった。




魔物は激昂し、蓮に向かって猛攻を仕掛けてくる。しかし、蓮はもはや恐れていなかった。スキル「ダッシュ」で攻撃を回避し、魔物のわずかな隙を狙って剣を突き立てる。




『経験値を獲得しました!』 『レベルが3に上がりました!』




意識が研ぎ澄まされていく。周囲の音、空気の動き、魔物の筋肉の動きまでが、スローモーションのように認識できる。そして、彼自身の体の動きも、思考に寸分違わず反応するようになっていた。




「これで……終わりだ!」




蓮は力を込めて跳躍し、魔物の頭部目掛けて剣を振り下ろした。その一撃は、魔物の分厚い頭蓋を容易く貫いた。




轟音と共に、巨大な魔物が地面に倒れ伏す。その体は瞬く間に光の粒子となって消滅し、後に残ったのは、魔石といくつかの素材、そして、無機質なシステムのメッセージだけだった。




『クエスト「すべての敵を殲滅してください」をクリアしました!』 『報酬を獲得しました。』 『おめでとうございます!あなたは初めてのダンジョンをクリアしました!』




蓮は剣を杖代わりにして、その場に膝をついた。体中の力は使い果たしたが、満身創痍だったはずの体には、傷一つない。




「俺は……生き残った」




仲間たちに目をやる。彼らは皆、気を失っているが、致命傷は負っていないようだった。蓮は安堵の息を吐き、改めて目の前の半透明なウィンドウに視線を向けた。




高橋 蓮 レベル:4 職業:なし 体力:XX 筋力:XX 敏捷:XX 知力:XX 感覚:XX




スキル: 「ダッシュ」 「直感」(新規取得)




「直感?」




新しく獲得したスキルに目を凝らすと、その詳細がポップアップした。 『直感:危険を察知し、適切な行動を瞬時に判断する能力。レベルに応じて精度が上昇します。』




蓮は呆然と立ち尽くした。これは夢ではない。現実に、彼はこの世界でただ一人、無限に強くなれる力を手に入れたのだ。




ダンジョンの出口は、光のゲートとなって輝いていた。蓮は仲間たちを担ぎ、そのゲートをくぐった。外の世界に出ると、ゲート前にはハンター協会の職員が不安そうな顔で待っていた。




「た、高橋ハンター! 無事だったんですか!?」




職員は、E級ダンジョンで起こった異変に気づき、最悪の事態を想定していたのだろう。だが、蓮の顔には、死の淵をさまよった者特有の絶望の色はなかった。むしろ、その瞳には、今までにない確かな光が宿っていた。




「はい、無事です。…全部、倒しました」




蓮の言葉に、職員は目を丸くした。このE級の、それも最弱と名高いハンターが、二重ダンジョンを単独でクリアしただと?




蓮の人生は、この日、完全に一変した。彼が手に入れた「レベルアップ能力」は、彼を絶望の淵から引き上げ、彼が知らなかった「強さ」への道を切り開いていく。そして、この能力の真の秘密が、やがて世界の運命を大きく揺るがすことになるのを、この時の蓮はまだ知る由もなかった。

第三章もお楽しみに!!!!


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