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第一章

西暦2032年。東京の空に、突如として異界への門――通称**「ゲート」が出現して十年が経っていた。ゲートの向こうには、恐ろしいモンスターが跋扈するダンジョンが存在し、人類は生き残るために「覚醒者」と呼ばれる超人的な能力を持つ者たち、すなわちハンター**の力を必要としていた。


日本のハンター協会に所属する高橋たかはし れんは、その中でも最も弱いとされるE級ハンターだった。彼には、特別な能力も、生まれ持った才能もなかった。剣を握れば手が震え、魔法を使おうにも魔力の欠片も感じられない。ただ人並み外れた「運の悪さ」だけは、誰にも負けない自信があった。


今日もまた、蓮はE級ダンジョンでのレイドに参加していた。メンバーは、皆どこか疲れた表情を浮かべるE級ハンターばかり。彼らは、より上位のダンジョンに挑むための資金稼ぎや、引退前の小遣い稼ぎのために、命を危険に晒していた。


「よし、通路の安全は確認した。奥のボス部屋へ向かうぞ!」


リーダーの指示が飛ぶ。蓮は皆の後ろを、足を引きずるようにして歩いていた。彼の役割は、モンスターの攻撃を受けて、他のメンバーが反撃する時間稼ぎをする「盾役」だ。しかし、彼の体はあまりにも脆く、いつも満身創痍だった。今日もすでに何度か吹き飛ばされ、全身が悲鳴を上げていた。


「くそっ、また俺だけか……」


通路の突き当りにあるボス部屋の扉を開くと、そこには一般的なE級ダンジョンのボスとは似ても似つかない、おぞましい姿の魔物が鎮座していた。まるで異世界の悪魔が具現化したような、禍々しいオーラを放つそれは、どう見てもE級レベルではない。


「な……なんだ、これは!? まさか、二重ダンジョンか!?」


誰かが絶望的な声を上げた。二重ダンジョン。それは、ハンターの間で語られる悪夢のような現象だ。通常のダンジョンの奥に、さらに危険な上位ダンジョンが隠されている場合がある。そして、一度足を踏み入れたが最後、クリアするか、全滅するまで脱出できない。


蓮の全身を、恐怖が支配した。仲間たちが次々と蹂躙され、血しぶきが舞う。彼もまた、魔物の攻撃で吹き飛ばされ、意識が薄れていく。全身の骨が軋み、激痛が走る。視界が暗転し、死を覚悟したその時、彼の脳裏に、突如として無機質な声が響いた。


『未知のダンジョンに遭遇しました。生存を望みますか?』


その声は、蓮の心臓に直接語りかけるようだった。生存? 死を目前にした蓮の胸に、かつて家族を養うためにハンターになった時の記憶が蘇る。まだ、こんなところで終わるわけにはいかない。


「……生き、たい……!」


か細い声でそう呟くと、再び無機質な声が響いた。


『「生存」を確認しました。プレイヤーに与える能力を測定します……』

『システムを起動します。プレイヤー「高橋 蓮」は、唯一無二の「レベルアップ能力」を獲得しました。』

『クエスト:緊急事態が発生しました。すべての敵を殲滅してください。失敗時、即死します。』


蓮の目の前に、半透明のウィンドウが現れた。そこには、彼のステータス、そして「レベルアップ」という見慣れない文字が記されている。全身を突き抜けるような激痛は消え失せ、代わりに、今まで感じたことのない力が体中に満ちていく感覚があった。


これは、なんだ?

自分が、変わった……?


最弱のE級ハンター、高橋 蓮の物語は、深淵のダンジョンで、その幕を開けたのだった。

第二章

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