光陰矢の如し
第二の人生が始まってからだいたい10年くらいが経った。
本当にこの世界に転生して良かったと思う。
前世の僕は、まあ色々あって天涯孤独だったから後ろ楯(家族)がいることは不自由ではあるが大変助かっている。
それに魔力というのは素晴らしい!とても奥深くて、まだまだ探求の余地はあると思うが 、10年間磨き続けてきた魔力のコントロールは我ながら良い線を言ってると思う。
最近ではメラニン色素を操って髪や目、肌の色も変えられるようになってきた。さすがに骨格から操って大柄な男になることは厳しいが多少の微調整なら出来るようになった。
(これで変装がしやすくなって助かるな〜)
そして訓練と同時に続けていた情報収集により、この世界のことも分かってきた。
どうやら僕の産まれたマルセル家はエルヴァンス王国っていうところにあるらしい。
しかも『お貴族様』であり、他の国との境目である国境を守っている辺境伯とかいうものだ。
どうりで父も兄も貴族なのに強いわけだ。武家みたいなものなのだろう。異世界の貴族とは皆ここまで強いのかと焦っていたのもいい思い出だ。
そして今現在!僕は10年間磨いてきたこの華麗な手腕を振るうために良い感じの獲物を探しているところだ。
(家族にばれないように夜間でいける範囲で良いの無いかな~)
マルセル領地で起こった出来事が細かく書かれている資料に目を通していると、突然勢いよく扉が開かれる。
「レオンお兄様ーっ!!」
バタン!という音とともに、栗色の髪をふわりと揺らしながら、小柄な少女が部屋に飛び込んできた。
「わっ、ソフィア――ちょっ、ノックぐらいしろ!」
嘘です気づいてました。
「えへへ、ごめんなさいですわ! だってお兄様、ずーーっと、お部屋にこもっているんですもん! また気持ち悪い顔して何を企んでいらしゃるの?」
ソフィア・マルセル――僕と2歳離れている実の妹だ。 まだ8歳そこそこのはずなのに、とにかく元気で、じっとしていることがない。そしてたまに毒舌だ。
無邪気な笑顔を浮かべながら、僕の机に置いてあった資料をパラパラとめくる。
「これはなんですの?」
「マルセル領の――」
「へー …よくわかりませんわ!そんなことより、早くお見送りにいきましょう?今日はすっごくいい天気ですのよ!きっと、ガブリエルお兄様が学園に行くのを天も祝福しているんだわ!」
貴族の子は生まれて16から18の年になると王都にあるエルヴァンス王立学園に入学することが決まっているのだ。
兄ガブリエルは今年から入学なので、今から家族でお見送りをするというわけだ。
速くついてこいと言わんばかりに僕の腕をぐいぐいと引っ張るソフィア。
まったく、この妹は自由すぎる。だが……まぁ、自由に生きるその姿勢、悪くない。
「……わかったから、そんなに引っ張るな」
「はーい!」
こうして、僕はソフィアにぐいぐい引っ張られながら、部屋を出ることになった。