表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/35

子爵邸入場



 子爵の養子となることが決まった数日後、荷造りを済ませて引っ越しの準備を整えた。

 あとはこの空飛ぶカボチャハウスをどう処分するもんかと尋ねると、店長が得意げに答えた。



「この店は収納できるから心配いらねぇよ。ほれ」


「収納? ……うわぁお!?」



 店長がカボチャハウスの鼻部分を押した直後、カボチャの筋に沿って店が折りたたまれていく。

 ドッタンバッタンと派手な音を立てながら徐々に面積を減らしていき、最終的に拳大サイズのカボチャのタネになってしまった。


 ……いやいや、いやいやいや、待てや。

 あのデカい店がこんなコンパクトなタネに収まるわけねぇだろ。質量保存の法則はどこいった。



「この店自体が『植物』属性の魔道具でね。今回みたいに引っ越したりする時にはこうやってタネの状態に戻して持ち歩くことができるんだよ。必要になった時に発芽させれば元の建物に戻る機構が組み込まれてるのさ」


「アンタ、こんなもんまで作れるのかよ……」


「作ったのはアタシじゃないがね。植物魔法はアタシにゃ使えねぇし」


「使える属性の魔道具しか作れねぇってことか?」


「基本的にはな。一応、他人に協力してもらったり魔物から採れる特殊な素材を使ったりすれば、自分の属性以外の魔道具も作れねぇこともねぇが……詳しく説明すると長くなるからここらで止めとくぞ。ほれ、さっさと荷物を積んでいきな」


「へーい」



 子爵領へ向かうのは俺一人ではなく、店長も一緒だ。

 保護者同伴というわけではなく、店長は店長でユーリタニア子爵にとっては確保しておきたい人材だかららしい。


 当然だわな。複数の属性魔法を達人レベルまで鍛え上げてるうえに、魔道具や魔法薬まで作れるヤツなんかそうそういるもんじゃない。

 むしろなんで今までこんな寂れた場所で珍妙な店なんか構えていたのか分からん。どこへ行っても引く手数多だろうに。



「色々あってな。あんまり大手を振って派手に稼ぐような真似をすると、利権狂いのうるせぇ連中に目ぇ付けられて面倒なことになるかもしれねぇんだ」


「でも今回は子爵のトコに行くのかよ?」


「ああ。アイツならアタシの事情もよく知ってるし、下手に魔術協会を刺激するようなことはしねぇはずさ。いい機会だ、ユーリのところでしばらくのんびりするのも悪くねぇ。ホントに協会のクソどもときたら……」



 荷物を馬車へ積み上げながら、愚痴をこぼすように言う店長の顔は苦虫を噛み潰したように歪んでいた。

 社畜時代に中間管理職の先輩が上司の愚痴をこぼす時に何度も何度も見た、心底うんざりしているといった表情だ。


 『利権狂い』、か。

 例の魔術協会関係の連中になにかちょっかいかけられたことでもあるのかね?


 いや、変に邪推するのは止めとこう。

 余計なこと考えてると作業効率が落ちて出発が遅れちまう。

 あんまり『義母上』を待たせて機嫌を損ねるのは避けたいからな。はよせな。




 ……。


 義母上、かぁ。





「はぁ~~~……」



 荷物を積み終わり、子爵領へ繋がる街道を進む馬車の中で思わず盛大に溜息を吐いてしまった。



「どうした、賭場で有り金全部溶かして後悔してるオッサンみてぇなツラしてんぞ」


「例えがいやに具体的だなオイ。別に後悔なんざしてねぇっての。……ただ、ちょっと気が重いんだよ」


「ユーリの養子なんかになりゃそうだろうな。せいぜい気張りなよ、マオルヴォル子爵令息殿」



 あの女子爵の養子になったのは決して成り行き任せではない。

 利害を考えて最善の判断を下した結果であると今でも信じている。


 それはそれとして、子爵邸へ着いたらあの義母上になにされるか分かんねぇんだわ。

 帰る時に子爵のこっちを見る目が光って見えたのは気のせいだと思いたい。怖すぎワロタ。


 御者さん、もうちょっとゆっくり走ってもろて。

 ああ、今日は『高速化』魔法を使っていないはずなのに、妙に馬車が速く感じるなー……。





 拝啓、前世のお袋殿。元気でお過ごしでしょうか。

 自分は義理の母親ができ、もうすぐお世話になる予定です。

 状況が状況ゆえに致し方がないとはいえ、貴女以外の女性を『母』と呼ばなければならないことに、なんとも言えない気持ちが沸き上がってきます。

 

 ……いい歳した俺でさえこんな心持ちだというのに、ラインハルトはどんな心境で今の状況を見ているんだろうか。



 ラインハルトにも、実の母親が居ただろうに―――





 ……っっ!!





「う゛っ……!」


「ん? どうした、そんな青い顔して」


「オロロロロロロ!!」


「うわぁ?! ば、馬車酔いか……? おい、大丈夫か?」


「め、面目ねぇ……! お、おえぇ……!」



 走っている馬車の窓から盛大に嘔吐した俺に対し、店長が心配そうに背中をさすってくれているが、本当は馬車酔いじゃない。

 原因はラインハルトからの抗議だ。



 ラインハルトにとって、母親のことはかなりデリケートな話題だったらしい。

 母親は父や兄姉たちのようにこの子を虐待していたわけではなく、むしろとても深く愛されていたようだ。


 だからこそ、その美しい思い出に気安く触れられたくなかったんだろう。

 記憶を想起している途中で猛烈に拒絶され、それが嘔吐感となって俺に襲いかかってきた。

 ……悪かったな、ラインハルト。



 しかし、微かに見えた記憶の中に、今後の復讐に役立ちそうな情報があったのもまた事実。

 悪いが利用させてもらうぞ。


 俺は使えそうなもんはなんでも使わせてもらう。

 恨みたきゃ恨め。お前の中から俺を追い出せるもんならば、さっさと追い出してくれていい。

 嫌だってんなら、ちゃんと自分の意思をはっきり伝えてくれ。

 自分の生き方をこんなオッサンに振り回されるのはごめんだって、言っていいんだぞ。




 そう語りかけても、なんの反応も示さないまま時間が過ぎていき、気が付いたら既に子爵領まで着いてしまっていた。

 道中の出来事がほとんど思い出せねぇ……我ながら、思った以上にラインハルトからの抗議がショックだったみたいだな。

 まるで思春期の我が子に罵られる父親みたいな……うん、我ながらキモい例えは止めておこう。


 夜分遅くになってしまったが、宿には寄らずに子爵邸へ直接赴いた。

 『これから家族として世話になるわけだし、昼間でも夜中でも早朝でもいつでも遠慮せず来てほしい。言っとくけどこれは社交辞令とかじゃなくてマジだからね! ホントに早く来てね!』とか言われたし、なるべく早めに訪れても問題ないはずだ。



「よう、こんな夜遅くまでご苦労さん。ユーリはまだ起きてるか?」


「! ……ゼリアーヌ様、そしてライン様。ようこそいらっしゃいました。子爵様へ伝えてまいりますので少々お待ちください」


「悪いね」



 門番へ店長が挨拶すると、少し焦ったように小走りで屋敷の中へと駆けて行った。

 子爵から『来たらすぐに教えて! すぐだよ!』とか指示されてんだろうか。ご苦労さん。




 門番が子爵へ報告に向かってからほんの一分足らずで、屋敷の奥のほうからドタドタと誰かが勢いよく駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。

 走ってる走ってる。焦りすぎやろ。



「いらっしゃぁぁぁああい!! ライィィイインッ!!」


「ぶほぇっ!?」


「ライン様!?」


「あーあー……」



 盛大に出迎えてくれたのは、義母上ことユーリタニア・マオルヴォル子爵。

 凄まじい勢いで俺に突っ込んできて、受け止めた際の衝撃で思わず変な声が漏らしながら意識が飛んだ。

 薄れゆく意識の中、苦笑いしてる店長と口元を抑えてこちらに駆け寄ってくるメイドさん、そして目をハートにしながら極上の笑顔の子爵の顔だけが見えた。ガクッ。







「ごめんねー。ラインが来てくれたことが嬉しすぎてちょっとはしゃいじゃったよーはははー」


「ソウデスカ」


「ライン、目が死んでるよ」



 翌日。

 やたらフカフカして寝心地のいいベッドで目が覚めた俺に、ホントに謝る気あんのかと言いたくなるようなノリで謝ってきた。

 馬車でかなり体力を消耗していたのもあったとはいえ、いきなりフライングタックルかまされて気絶したんやぞ。もっと真摯に謝罪ヨロ。



「……でも、正直少し気が楽になりました。既に話はまとまっているとはいえ、どう挨拶したものかと思っていたところにアレでしたからね。変に気づかう必要がなくなってよかったです」


「うぐっ……ホントにごめんね!」



 おもっくそ嫌味に聞こえているようだが、半分は本音だ。

 あんまり打算的に繕いながら接すると萎えられるかもしれないし、かといって俺が素で接するのはちと礼を欠く気がする。


 って具合に態度の匙加減を見極めようとか悩んでいたところで、あのタックルですよ。

 最初に特大のやらかしを子爵がしてくれたおかげで、こっちも多少の無礼は許してもらえるだろう。

 ……この子爵のことだ。こうなることを見越して、あえてあんなことしたのかもしれんが。



「さて、挨拶が遅れたね。おはよう、そして子爵家へようこそ、ライン」


「おはようございます。不束者の身ですが、何卒宜しくお願いいたします」


「言い方かったいなぁー。もっと気楽に話してもいいんだよー?」


「本当の意味で息子と認められた暁には、そのようにさせて頂きます」


「あらら、まーだ私が君を試そうとしてると思ってたりする? もう親子なんだし、そんなに警戒しないでよー」



 口じゃこう言っちゃいるが、油断はできねぇ。

 養子に入る家の主人へ対し初日にタメ口を利くような生意気なガキなんざ、俺なら評価を下げる。

 その生意気さに目を瞑ってもらえるような光るもんでもあるなら話は別だが、今はまだだめだ。



御厚情(御口上)、重ねて感謝(警戒)いたします、義母上」


「……んふふ」



 ほれ見ろ、この『面白味はないが、減点は勘弁してやる』と言いたげな胡散臭い笑顔。

 上から目線でこっちを試してやろうって考えが透けて見えてるわ。



「それじゃあ、まずは着替えよっか。身嗜みは貴族の基本だよ、色々用意してあるから試してみてね! ホントにいっぱいあるから!」


「はぁ」



 好きなだけ値踏みしてればいいさ。

 それ相応にこちらも利用させてもらうとしよう。

 いつまでもやられっぱなしでいると思うな。








 そして一時間後、ドレッサールームにて。




「待ってぇぇぇええ!! ちょっとだけ! ホントちょっとだけだからこのドレス着てみてちょうだい! 特注品なの!!」


「なんで特注品のドレスがあるんですか!! 俺、男なんですけど!?」




 すんません。俺の負けでいいです。


 挨拶の後、しばらく着せ替え人形にされた挙句、しまいにゃ女物の服を着せようとしてくる始末。

 そのファッションピンクで男児に着せるにはあまりにもファンシーすぎる衣装をどうかしまってください。


 ホントにすんませんでしたマジですんませんなんも悪いことしてないけど謝りますから勘弁してください止めてマジで助けて! 店長ヘルプ! へループ!!



 お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ