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押しかけ縁談




「似合っているわぁ……! 立派よライン!」


「……どーも」



 どうもおはようございます、ラインハルトです。

 現在、マオルヴォル子爵邸のドレッサールームにて、コテコテの貴族服を着せられながらユーリタニア子爵より感嘆の声を聞かされています。

 この服、ジュストコールだかなんだか言ってたが、着いて早々なんでこんなもん着せられてんだ俺は……。



「次! 次はこのパンクゴシック!」


「アッハイ」


「ああいいわぁ! ちょっと地味ながら可愛さを損なっていない清楚なイメージがもうホントにいいわぁ! 次はクラシックミリタリーよ!」


「あ、これは結構悪くないかも」


「ボーイッシュなのにとってもキュートで素敵よ! 次はこのノーブルドレスとフリルリボンを―――」


「店長ヘルプ! さすがにこれは無理!!」


「いいじゃないか。似合うよきっと」


「よくねぇよ!」



 しばらく着せ替え人形にされていたが、子爵が女物の服を持ち出し始めたところでギブアップ。

 いくらなんでもそこまで尊厳を貶められるのは了承できねぇ! なにが嫌かって普通に似合いそうなのが死ぬほどヤダ!

 心なしかラインハルト君も心の奥底でドン引きしてるような気がするし。

 お前もそんなさりげないアピールしてないでちゃんと表に出てきて文句言えや!


 なぜ子爵邸でこんな格好するハメになっているかというと、今日からここでお世話になるからだ。

 それも、この女子爵の義理の息子として。


 はたから見てると訳が分からん状況だろうが、こうなった理由は俺と子爵との間でギブアンドテイクが成立したからだ。

 ちなみに店長も無関係じゃない。一緒に子爵邸に住み込みでお世話になることになった。









 一か月ほど前にクソメイドことメディアに報復をした後。

 今も日々魔法の練習をしながら体質改善に努め続けている。


 毎日栄養満点の食事(虫)を食い続けた甲斐あって、少しは肉がついてきたな。

 まだ大分痩せてはいるが、健康的な体型と言えるレベルに片足くらいは踏み込んでいる……と思う。


 この調子で1年も経てば標準体型くらいには回復できているだろう。でなきゃ困る。

 あのクソ公爵家の連中に一泡吹かせるためにはまず体作りからだ。


 こんなヒョロヒョロの有様でクソメイドに復讐できたのは、運がよかったのと子爵の協力が得られたこと、そしてメディアが雑魚だったからに過ぎない。

 メインの標的はあくまで公爵家。即ちラインハルトの姉と兄そしてクソ親父だ。


 ……それを認めることすら業腹だが、奴らはメディアとは格が違う。

 アイツらとやり合うためには下準備をしっかりして地力を身に着けておかなきゃ勝負にならん。



 俺自身の能力強化については、まあ時間の問題だ。

 日に日に力が増して、魔法制御も上達していってるのが自覚できている。


 ……問題は、それを奴らへの復讐に活かす場を整える準備がまるで進んでいないことだ。

 普通に考えたら平民の、それもまだ6歳のガキが貴族最上位の公爵家に対してできることなんか皆無に等しい。

 一応プランは考えてはいるんだが、それも経済的な問題やら出自のことやらの関係で店長にも協力してもらう必要があるしな。


 公爵家への復讐を再開するにあたって、次のターゲットは姉の『メリーナリス』にするべきだと考えている。

 メディアほどじゃないがちょくちょく魔法で痛めつけられていたし、精神面への虐めはメディアよりも酷かった。


 特に飢えて死にそうなラインハルトをハメて、サンドイッチを盗み食いしたとチクった一件が許せない。

 アレ以降、ラインハルトはまともなメシを食うことに忌避感すら抱いている節がある。

 ラインハルトが自分に自信が持てなかったのは、執拗にその存在意義を否定し続けたのも大きな要因だと思う。


 そのメリーナリスに接触するには公爵家に訪れるか、あいつが通う魔法学園へ入学する必要がある。

 前者は論外。さっきも言ったが今の俺はタダの平民どころか公爵家を追い出された身だ。

 よくて門前払い。最悪、不審者として排除という名目で殺されるかもしれない。



 なら後者、魔法学園への入学という選択肢に懸けるしかない。

 魔法学園で重視されるのは魔法の才とそれを扱う技量だ。それらを磨いて国の発展や国防に活かすのを学ぶ場として建てられた学園で、メリーナリスもそこに通っている。


 魔法の才能があれば平民の身で入学する子供も少なくないし、きちんと鍛えていけば入学の条件を満たすこともできるだろう。


 だが決して身分の差が軽視されているわけではないし、仮に平民として入学できたとしても公爵家のメリーナリスと接触する機会を作るのは難しいかもしれない。

 それどころか再び現れた出来損ないの元弟を陥れようと手を回してくるかもしれない。そしてそれに抗う術は、今の俺にはない。どうしたもんか。


 さらに身分証明や学費なんかの都合をどうするか考えなきゃならんが、これはもう店長に頼むしかないかなぁ。

 ……考えれば考えるほど問題は山積みだ。


 ムシャクシャする。クソムカつく。公爵家の連中にもそれに報復する力のない自分にも、腹が立って仕方がない。





 日課の魔法訓練の時も、ずっとそんなゴチャゴチャした考えが頭の中でグルグルと回り続けている。

 怒りを籠めて、的に向かって魔法を籠めた石を思いっきりぶん投げてやった。



「ぬおりゃぁああっ!! ……おおっ!?」


「お、今のは上手くいったんじゃないかい?」


「っっしゃぁああ!! 高速化と加速の並行同時発動成功じゃー!!」


「……嬉しいのは分かったからもう少し静かにしな」



 左手は高速化、右手は加速の魔法を発動して左右同時に小石を投げた結果、左の小石は素早くしかし力なく的の前に落下し、右の小石は6歳児の膂力で投げたとは思えないほどの勢いで的にぶち当たった。

 この1か月間、ずっと複数の対象へ異なる属性魔法を発動させる訓練をしていたが、ここにきてようやく初成功。


 高速化を『使っていて当たり前の状態』のレベルまで慣らしたうえで、もう片方の手で加速魔法を使えば同時に発動できるんじゃないかって試してみたが、予想通り上手くいった。

 ふふふ……『高速化』を四六時中ずっと発動しっぱなしにする訓練は地獄だったぜ……。



「んなことできるのはアンタくらいだよ。普通なら魔法回路を励起しっぱなしにしてりゃすぐに魔力が尽きちまうからな」


「ふーん。店長ならどんくらい魔法を使いっぱなしにできるんだ?」


「弱めの魔法でも1~2時間くらいかねぇ。並の魔法使いなら数分間保たせるのもしんどいだろうさ」



 俺、起きてる間なら何時間でも余裕で発動しっぱなしにできるんですけど。

 高速化がチート過ぎて怖い。



「あれ、つーことは他の高速化魔法使いたちも魔力を消費せずに一日中使いっぱなしにできるってことか?」


「一応な。ただ、自分自身にしか使えないから当然その分体感時間も増えるし老化もする。倍速で一日中発動しっぱなしにすりゃそれだけ歳もメシも体への負担も多くくっちまうし、あまり現実的な話じゃないだろうね」


「鍛錬すればするほど体内時計が狂ううえに、老けやすくなって食費も多くかかるってことか」


「そ。そのデメリットを自分以外に押し付けて踏み倒してるのがアンタの魔法回路ってわけさ」


「言い方酷くね?」


「さらに魔法ってのは使えば使うほど扱える出力が上がっていくし、制御のキレも自然と冴えてくる。魔力切れを気にせずに一日中魔法を使えるってのは、魔法使いにとって本来あり得ないほどのアドバンテージなんだよ」



 つまり、俺が短期間で上級相当の魔法制御ができるようになったのも高速化とラインハルトの特殊な制御回路のおかげってわけか。

 ……うーん、他人の才能の上前をはねているようで複雑な気分。




「これで一応魔法の上級編もクリアってことでいいのか?」


「辛うじてだがね。このままさらに訓練を続けさせてやりたいところだが、今日はもうお開きだ」


「え、なんで?」


「昼から客が来るって言ってただろ。忘れたのかい?」



 あー、そういや朝食にそんなこと言ってたな。

 毎日同じ味にちょっと飽きてきた芋虫を試しに焼いてみたら死ぬほど不味くてそれどころじゃなかったわ。

 ……表面をちょっと炙っただけであそこまでクソ不味く臭い物体になるとは思わんかった。店長が止めるのも無理ないわ。



「来るのは例のマオルヴォル子爵だっけ? 俺も一応挨拶しといたほうがいいかな」


「ああ。というか、アンタの件で話があるって言ってたな」


「俺の?」



 こないだ協力したことへの対価でも要求してくるつもりだろうか。

 でも『今回はタダでいいよー』と子爵本人が言ってたし、それをあっさり反故にするとは考えたくないが、はて?


 ……なんだか、面倒事の予感がしてきたぞ。






 内心ちょっと戦々恐々としながら窓の外を眺めていると、馬車が店の前へ止まったのが見えた。

 貴族用の馬車……じゃないな。


 乗っている客の恰好も庶民的なドレスコートで地味だし、子爵じゃないか………いや、子爵だわアレ。

 窓越しの俺に向かってめっちゃいい笑顔で手ぇ振ってる。美人さんに笑顔を向けられるのは悪い気はしないがはしゃぎすぎだろ。


 目立たないよう庶民に変装して、お忍びでここまできたのか?

 ここへ来たことを外部に勘付かれないようにするための処置だろうが……そこまで内密にする話とはいったいなんだ。


 まあいい、どんな話にせよまずは案内からだ。

 子爵様ーようこそおいでくださいましたーこちらですよー(営業スマイル)







「まずは本題から単刀直入に言おうか。ラインちゃん、君、私の息子になりなよ」


「……はい?」



 思わず茶を注ぐ手を滑らせるところだった。


 客室に通された子爵が放った突拍子もない一言。

 言っていることの内容は分かってもその意図が理解できない。



「……ユーリ、まるで意味が分からんぞ」


「だろうねー。ま、順を追って説明していこうか」


「え、ええと……」


「ラインちゃん、君はレオポルド公爵家の次男『ラインハルト・レオポルド』でいいんだよね?」


「元、次男です。今は勘当されて、店長の下でお世話になっています」


「うん、それで君を虐げていたメディアへの報復に、私と手を組んでなんやかんやしていたわけで」



 ……なんか思ったより口調が軽いなこの人。

 親しみやすい反面、それすらも計算のうちかと思うと空恐ろしい。



「その結果、メディアに仕返しできてメデタシメデタシ、で終わりじゃないんでしょ?」


「……」


「君を虐げていたのはメディアだけじゃない。今は少し治ってきているみたいだけど、あんなに痩せこけた状態の君をなんの疑問も抱かず放置していたってことは、家族も他の使用人もあの家の全員が君を虐げていたんじゃないの?」


「……だとすれば?」


「私なら……私のところへ来るなら、その全てに復讐するチャンスを提供してあげよう」


「! ……お話を伺いましょう」



 

 ……ここにきて新たな選択肢が増えた。

 頭の片隅で『この子爵の権力が使えればなぁ』くらいには考えていたが、まさか向こうから声をかけてくれるとはな。



 面白くなってきやがった。

 上手くいけば、権力やら経済面やらの問題に加え、学園での戦いの準備も含めて一気に有利な方向へ状況を持っていけるかもしれない。

 取らぬ狸のなんとやらで終わらなきゃいいが、さて。


 お読みいただきありがとうございます。

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