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女子爵のささやかな欲望

 ※今回は女子爵ユーリ視点



「メディアの経過は良好だよ。傷痕が残ってるけど左腕はくっついたしちゃんと動かせるらしい。なにより完膚なきまでに心が折れていい具合に仕上がってる。あれならちゃんと使いものになるはずさ」


「それはなにより」



 ラインちゃんの報復を手伝ってから1か月が経った。

 あれから毎日、あの子のことが頭から離れない。



「んふふ、んんふふふふふ」


「……旦那様、失礼ながらはしたないかと」


「おっとごめんよー、つい変な笑いが漏れちゃってねぇ。んふふ」


「止まっていませんよ。いったいどうなされたのです?」


「んふーふ。……欲しいなぁ、って思ってねぇ」


「はあ?」



 思い出すだけで笑いが止まらない。

 あの子のことを考えると、愛しさが胸から溢れそうになる。



「ゼリアが連れて来たあの子……ラインちゃんだけどさぁ、とっっても可愛かったよねぇ」


「は、はぁ……確かに少女と見紛うほど華奢ではありましたが」


「うん。外見はもちろん、その中身も目を惹いたよねぇ」


「中身?」



 この部屋の窓からその時の流れを、私は見ていた。

 屋敷の外まで追い立てられたメディアを容赦なく仕留めて、ゴミでも見るかのような目で見下してから去っていった。

 遠眼鏡越しでも分かるあの怒りに満ちた貌。思い出しただけでゾクゾクする。



「まだ6歳であんな顔ができるなんてねぇ。メディアをハメる時にも金額の提示をあえて甘めに設定したけど、それもちゃんと訂正してきたし」


「それほど報復心が強かったと見るべきでしょうか」


「んーん、それだけでどうにかなるような問題じゃないさ。その執念に加えて確実に相手を陥れようとする頭脳と覚悟と悪意がなければ、あそこまで綺麗な流れで報復なんかできやしないさ」



 メディアへ復讐するために、『もしかしたら』程度のわずかな可能性のために準備を進めて計画を練り、ゼリアの伝手でこの子爵家すら動かして見事にメディアを打ちのめしてみせた。

 目的のために計画を練るっていうのは案外難しい。それも他者への復讐となればなおさらだ。


 欲しい。

 あの若さであれほどの執念と知能、そして行動力を持つ子供なんてそういるもんじゃない。


 もしもあの子が私の息子だったならば、この家の将来は盤石そのものだろう。

 欲しい、是非欲しい、心底欲しい!



「欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい……!」


「旦那様、冷気が漏れています」


「っ……ごめんねルキナ、また私……」


「いえ、お嬢様……旦那様が気を病まれることではありませんので」



 ……感情が昂ると、つい無意識に氷魔法を使ってしまう悪癖は我ながらどうかと思う。

 こんな魔法なくなってしまえば、いや最初からなければよかったのに。

 もしも氷魔法の素質なんかなければ、私も……。


 ……やめやめ、意味のないIfの妄想はここまでにしよう。

 今はこれからの、現実の話をしようじゃないか。



「決めたよルキナ。あの子はウチの子にする」


「は……?」


「あれほどの才覚と知能と執念、跡取りに欲しがらないヤツなんてあの子を捨てた馬鹿な公爵家くらいだろうさ。まだ誰の目にも留まっていないうちに私が引き取る」


「ほ、本気ですか……!? し、しかし、まだライン様ご自身の意思を確認していないうえに、公爵家がなんと言うか……」


「公爵家はあの子を捨てたんだ、ならもうラインちゃんはなんの関係もないし、とやかく言われる筋合いはないさ。それに……ライン君にとってこの提案は渡りに船のはずだ。きっと快く受け入れてくれるよ」


「それは、なぜ?」


「んふふ、ひーみーつ。そうと決まれば、色々と準備をしておかないとねぇ」


「は、はぁ……」




 あの子は自分を虐げた者たちへの報復を望んでいる。

 剣術道場で滅多打ちにしていた門下生や虐待をしていたメディア、それを黙認していた親兄弟たちも対象だろう。

 つまり、あの子の姉や兄にもいずれ報復しようと考えているはずだ。


 そのために、今はゼリアの下で体と魔法を鍛えているんだろうね。

 でもね、公爵家に平民が一泡吹かせようと考えるのならそれにふさわしい場が必要になってくるんだよ。


 私なら、この子爵家ならその場まで連れて行ってあげられるはずだ。

 それを伝えれば、あの子は話に乗ってくる。


 そうだ、この際ゼリアも一緒に子爵家で囲い込んでしまおうか。

 ラインちゃんに相当執着していたみたいだしねぇ。

 今のところあの子を手放そうとは考えていないようだし、強引にこちらへ連れてきてしまおう。




 ああ、あの子が私の子になってくれるのなら、どれほど素敵な日々が送れることだろう。

 ふふふ、今から楽しみで仕方がないよ。


 なにが楽しみかって?




「貴族の子供服を仕立てられる職人をピックアップしておいて」


「畏まりました」


「近日中にあらゆる服を用意できるように準備を進めて。スーツもダブルブレストもショートパンツもスラックスもジャケットもキュロットもチュニックもドレスも」


「気が早いですね……ところでなぜ女性用のものまで……?」




 あの子は磨けば光る。

 栄養失調の後遺症で痩せ細っている今でさえあんなに可愛らしく整っていたんだ。

 体質改善したうえで一級品の衣装に身を包めば、どれほどの美貌を発揮できることか……!



「んんんんふふふふふふ……! タキシード、いやゴスロリ、いやいやあえてのクラシックミリタリーも捨てがたい……ああ、悩ましいぃい!!」


「旦那様、興奮しすぎて部屋の中に霜が降りていますのでどうか落ち着いてください……」



 正直、あの子の頭脳とか才覚よりも豪奢な衣食に目を輝かせているところを見たい、という気持ちのほうが大きい。

 そのためなら、いくらでも力になってあげよう。

 たとえ仄暗い衝動からくる報復が目的であろうとも、助けになってあげよう。

 だから今はあの子に相応しい素敵なモノを用意できるように考えておかなくちゃねぇ。楽しみだなぁふふふんーふふふ。


 お読みいただきありがとうございます。

 第1章はひとまず今回で完了となります。

 あとは閑話とちょっとしたキャラ紹介。それ以降の投稿は書き溜まってからになりますのでしばらくお休みです。

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