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復讐するは我にあり


 子爵家にカチューシャを納品した次の日。

 早速クソメイドに『おつかい』を指示して罠を張ってくれるらしく、手筈通りにいけば屋敷からクソメイドが飛び出してくるはずなのでそこを叩く。

 そのために子爵邸の近くで待機することになった。



「済まねぇな店長、余計な時間とらせちまって」


「まったくだ。帰ったらみっちり魔法の実験に付き合ってもらうよ」


「へーい」


「……にしても、そんなに上手くいくもんかね? あのメディアって新人メイドが釣り銭をネコババすること前提の計画なんだろう? もしも真面目に仕事をこなそうとしていたのなら……」


「多分それはない。十中八九アイツはまた着服するさ」


「自信満々だね。根拠は?」


「まず基本的に給料ってのは月締めだから、まだ一か月未満しか働いていないのなら子爵家からアイツの初任給はまだ支払われていない」


「だろうね」


「公爵家を追い出された時も横領がバレたのが原因だとしたら退職金もないし、ヘソクリは俺が持ってったから緊急用に残しておいた金しかなかったはずだ。つまりアイツの懐には余裕がない。そんな時、目の前に小遣いを手に入れられるようなチャンスをぶら下げられたら、アイツは必ず食いつく。そこだけは信用してやるさ」


「嫌な信用だなオイ」



 ちなみに今回の作戦は子爵と俺が魔導通信機で連絡を取り合って計画したモノだったりする。

 というか八割くらいは子爵が流れを作ってくれて、俺はちょっと微調整というか多少口出しする程度のことしかしなかった。クソメイドに持たせる代金の金額とか。


 細かいことだが、最初12000ゼニーの本を買わせるために20000ゼニー持たせた釣り銭をどうするかという話だったが、それを50000ゼニーに変更させた。

 何倍も余剰の金を持たせられたら『子爵はこの本の大体の値段すら把握していないから、釣り銭を着服しやすい』と思わせることができるからな。 


 ネコババや横領、さりげなく過払いをさせるための故意の決算間違いなんてのは目に見えない、あるいは見えづらいところでやるもんだ。

 店長の材料費とかその典型。過払いだらけで笑ったわ。

 後は前世での経験とかな。……あの着服だらけのクソ外注先は今思い出しても腹立つわ死ねカス。



 クソメイドがお使いに出かけてから数十分経過。そろそろ戻ってくるころかな。

 身を隠しながら見張っていると、正門にメイド服を着た人影が近付いてくるのが見えた。アイツだ。



「おっ、クソメイドが帰ってきたみたいだぞ」


「いよいよだね」


「後は子爵からの連絡待ちか。さて、どうかな?」



 クソメイドが横領していたのなら、子爵が身に着けている店長謹製の『イヤリング型通信機』からなんらかの形で連絡が入るはずだ。

 もしも我慢して真面目にお使いをこなしていたのなら、今回は見送ることになるが……。

 若干緊張しながら待機していると、魔導受信機がONになり音声を発した。



『お釣り、33000ゼニーだけ残ったんだ。へー』



 受信機が子爵の呆れたような声を出力した。

 ででーん。クソメイド、アウトー。



「よぉぉおっし! 後は正門前で待機して、クソメイドが出ようとしたところにこの分銅をぶち当てて確保だコラァ!!」


「これまで見たことないくらい活き活きしてんなぁ……」



 そりゃそうだ。これまでお腹タプタプになるまで煮え湯を飲まされてきた相手にようやく報復できる機会がやってきたんだ。復讐するは我にあり。

 ……なお、実際に虐待されてきたのはラインハルト君な模様。



 ラインハルト。

 これは余計なおせっかいかもしれないし、もしかしたらお前はこんな報復なんか望んでないかもしれない。


 嫌なら止めろ。

 お前の気持ちに逆らってまでまで復讐なんかする気はない。


 そうでないのなら黙って見ているんだ。




 特等席で見る復讐は、案外きっと楽しいぞ。





「あぁぁああぁぁぁあああっ!!!」




 屋敷の中から、女の叫び声が聞こえた。

 横領のバレたクソメイドが逃げ出し始めたようだ。


 絶叫がだんだんと近付いてきている。

 もうすぐ外に出てくるはずだ。



「あはははははははははははははははははは!!!」



 上手く逃げられたとでも思ったのか単にテンションがおかしくなっているのか、高笑いしながら屋敷のドアを蹴破って出てきた。

 正門から外へ出るまで、残り数秒。


 右手に括り付けた鎖分銅に加速魔法の効果を付与。

 貧弱な俺の腕力でも、5倍速くらいでぶん投げれば相当な威力になるはずだ。




「これでお前は終わりだ、クソメイド」




 正門から一歩踏み出そうとした瞬間、そう宣言してメディアの足に分銅を投げつけた。

 いくら小さな分銅とはいえ、5倍に加速されれば骨をへし折るには充分な威力がある。




「……は?…… あっっぅぐぅううっ!!?」




 分銅が着弾すると ベキョッ と変な音を立ててメディアの足が怪しい方向へ曲がり、倒れた。

 悲痛な声を上げて痛々しい表情で足を押さえているが、不思議と罪悪感はまったく感じない。ざまぁみろ。


 ってあれ……? よく見たら片腕がないんだけど。え、俺のせいじゃないぞ? なんで?

 子爵か? 子爵の仕業か? コイツをシメるのは俺がやるって言ったのに……てか当たり前のように腕一本持ってくの怖すぎだろ。なにがあった。


 ……落ち着け、今は手足の1本や2本大きな問題じゃない。

 俺だって1本へし折ったし誤差だ誤差。切り替えていこう。うん。



「ありがとな、メディア。改心していないでくれて本当によかったよ」


「お、お前、は……!?」



 メディアがこんなナリになっても、俺が罪悪感を感じていないのはひとえにこいつがクズのままでいてくれたからだ。

 


「おかげでなんのためらいもなく、お前を地獄へ叩き落せるぜ」


「あ、あああああ!! お前!! お前の仕業かぁぁああ!!! お前がぁあぁあああ!!! お前のせいでぇぇぇぇぇええええっっ!!!!」



 もしもコイツが本気で更生してやり直そうと考えていたら、本当に反省して謝ってきていたとしたら、報復する時に迷いが生じていたかもしれない。

 だがこうして俺を見下し続けてくれた、反省も公開もせずに俺に敵意を向け続けてくれた。

 クズのままでいてくれたんだ。



「う゛ぁぁぁぁああああぁぁぁあああ゛っっ!!! 死ねぇぇええぇぇえええぇえっっ!!!」



 懐から小さなナイフを取り出して、俺に向かって突進してきた。

 片足が折れているとは思えない俊敏さだ。

 痛みなんてどうでもいいかのように曲がった足を踏ん張らせて距離を詰めてくる。


 ああ、お前は最高だよメディア。

 最後まで俺を憎んで蔑んで見下して、挙句に殺そうとまでしてきてくれてありがとう。




「おせぇよ、カス」




 だからこそ、躊躇なくコレを叩き込めるぜ。




 魔力を『加速』属性化

 出力調整回路1番『2倍速』×出力調整回路2番『3倍速』=6倍速

 加速する対象『俺の持っている鎖分銅』

 直接接触したままマニュアルにて使用


 並行して魔力を『高速化』属性化

 出力調整回路2番最大出力『5倍速』

 高速化する対象『俺の持っている鎖分銅』

 直接接触したままマニュアルにて使用



 複合魔法『加速高速化・30倍速』




 『発動』




 俺の手から放たれたのは『加速』魔法に『高速化』魔法を加えた分銅。

 威力こそ加速魔法の影響しか受けておらず、実際は通常の6倍ほどの威力で飛ぶことになる。


 これだけでも充分だが、それをさらに高速化魔法で素早くしたうえで投げるとどうなるのか。

 野球ボールでも投げるかのように、分銅をメディアに向かって放り投げた。




「ぎゃぁぁぁあぁぁぁがぁあぁぁぁああっっ!!!!」




 見えなかった。

 投げた分銅が着弾するまで、まるで見えなかった。

 気が付いたら、メディアが後ろに吹っ飛んで転がっていた。


 ………。

 えーと。

 実際に人の胴体に向かってブチ当てたのは初めてだが、まさかあんな勢いで吹っ飛ぶとは。

 『死ななきゃポーションで大抵の傷は治せる』と店長が言ってたから大丈夫だとは思うが、まさか今のでショック死してたりしないよな……? 大丈夫か?



「あ……ぅう~~……!!」



 お、生きてた。セーフセーフ。

 どてっ腹を分銅で叩きつけられた痛みとショックで泣きじゃくるくらいの元気はあるようだ、よかった。



「お前がチョロまかした分の金で作った鎖分銅の味はどうだ? 今の痛みがそのままお前の罪の重みと思うんだな」



 おかげさまで、こうやって気兼ねなく言葉の追い打ちをかますことができるってもんだ。



「ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい、あやまりますから、ゆるしてください、いたい、いたい、いたいぃ……!」



 酷い、と思うか?



「知るか。とっ捕まるまでせいぜいそうやって謝り続けてろ」


「そんな……」



 そんな、そこまで言わなくてもいいだろう、とでも言いたいのか?



「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



 今更なに謝ってんだ?

 許されるとでも思ってんのか?

 


「もっとも、今更謝っても誰もテメェを許しゃしねぇがな。ゴミが」


「ひど、い、ひどい、ひどい、わたし、あやまってる、のに、あやまって、るのに、なんで、なんで……」


「……ああ゛?」



 その言葉ぁ、全部、ぜんっっっぶそのままテメェにお返しするわこのクソメイドがぁっ!!!



 テメェはいくらあの子が謝っても口汚く罵りながら背中を鞭で打ちまくってただろうが!!

 ラインハルトに一生頭下げて詫び続けろカス! 死ねっ!!










「後はこちらで処分いたします。……お疲れ様でした」


「いえ、とんでもない。こちらこそご協力感謝いたします」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」



 少し経って、屋敷の中からメイドさんたちが駆けつけてきた。

 地面に寝っ転がりながらいまだにうわ言のように謝り続けているメディアを担架で屋敷の中へと運んでいく。


 ……処分って言ってたけど、いったいどうなるんだろうか。

 密かにバラされて下水道にでも流されるか、あるいは奴隷落ちとか?

 どのみちロクでもないことになるだろうが、もう俺の手が及ぶ問題じゃない。気にするのはやめてしまおう。



「帰ろう、店長」


「おう」



 ことの顛末を物陰からずっと見ていた店長のところへ戻り、宿屋への帰路へ着いた。 

 わざわざこんなことに付き合わせちまって悪かったな店長。帰ったら実験でもなんでも付き合うよ。



「……なあ、ライン」


「ん」


「気分は、どうだ?」



 そんなの、どう答えろと言うのか。

 たとえどんな大金を積まれようとも、この高揚感には替え難い。

 しかしあえて例えるならば―――



「百万ドル、……もとい百万ゼニーの気分さ」


「はっ、なんだそりゃ」



 ……あのクソメイドも、金を汚く稼ぐ以外になにか生き甲斐を持ってれば、あんなことにはならなかったかもしれないのにな。

 『報復』なんてロクでもないことを他人の体を使って勝手にやってる俺が言えた義理じゃないが。


 それでも、それでも。

 あのクソメイドをぶちのめしてから、胸の奥にある暗く黒く冷たいつかえが確かに少し軽くなったのを感じた。


 それで確信した。

 ラインハルトは消えてなんかいない。今も確かに俺の傍に居る。

 だから、この報復には俺の憂さ晴らし以外にも意味があったはずなんだ。

 ……多分、な。


 お読みいただきありがとうございます。



 メディアの末路に関しては、また後のお話にて。

 死にはしません。死には。


 12時ごろにもうちょっとだけ投稿します。

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