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5-1

5-1.似合ってる



 八月二十四日木曜日。花火大会まであと三日と迫ったこの日。俺はケータイのブーブーという唸り声に起こされて目を覚ました。重たい瞼を持ち上げると、眩しい光が目に入ってくる。既に月はタイムカードを切ってしまったようで、今日も太陽が元気に出勤してきていた。


 彼はいつになったら有給を消化してくれるのだろう。できれば暑い夏場に使ってくれた方がこちらとしてはありがたいのだが。


 起き抜けにそんなバカなことを考えていた俺は、うるさいケータイよりも先に部屋の暑さへと気が向いた。昨夜は暑すぎたのでさすがにエアコンをつけて寝たのだが、朝の四時には切れるようにタイマーをセットしておいたので、寝る前の涼しかった空気は外気の暑さに追いやられて、どこかへと旅立っていた。


 少し上半身が汗ばんでいるのを感じる。仕方なく近くにあった扇風機の電源ボタンを押して、生ぬるい風を浴びる。不快指数はいくらか下がり、気分も少し良くなった。


 そこでやっとケータイへと意識が向く。俺が起きてからずっと震え続けているが、俺は何が原因でバイブが起動しているのか分からなかった。


 別に今日もまだ夏休みなので、寝られるだけ寝るつもりだった俺は昨夜、アラームをセットせずに寝床についた。アラームでないとすればこれは何を知らせるバイブなのか。思いつくのは一つくらいしかない。


 俺はなんとなく嫌な予感がしながらも、裏返っていたケータイの画面を表へと向けた。


 そこに表示されていたのは「あやの」という三文字とイチゴのショートケーキのアイコン。


 ケータイがうるさかった原因は、隣人からの着信だった。気持ちの良い睡眠を阻害してきたのがあいつだと分かった瞬間に、腹の下辺りがぐつぐつと沸き立ってくる。


 無視しても良かったが、俺が部屋にいることはバレているだろうし、あいつの場合普通にこの部屋まで乗り込んでくることも考えられるので、仕方なく素直に応答することにした。


電話のマークをスワイプして、耳元へとケータイを持っていく。


「もしもし? 律希? 寝てた?」


 昨日も聞いた元気な声が爆音で聞こえてくる。彼女の声は普段セットしている目覚ましよりも、俺の聴覚に刺激を与えた。反射的にケータイを少し遠ざけた後、再び耳に当てる。


「寝てるから切って良いか?」

「ダメダメ! っていうか電話に出てるんだから起きてるじゃん」


 意味のない掛け合いを経て、頭を覚醒させる。なんとなく意識が晴れてきたところで、俺は体を起こし、唸りながら気持ち良く伸びをした。


「……何だよ、綾乃。速やかに用件を伝えろ」

「あ、そうそう。思い出したの! 昨日言ってた、この前の日曜日に律希に電話した理由!」


 俺の頭脳がゆっくりと時間をかけて、綾乃が言ったことを噛み砕いていく。だいたい五秒ほどを要して、俺は昨日の調査で、綾乃が、危うく犯人と誤認してしまうようなタイミングで電話をかけてきていたことが判明したのを思い出した。


「ああ、あれか。結局何だったんだ?」

「今日買い物行こうって誘おうとしてたの」

「買い物? 何の買い物だよ」

「それは……まあ、これって決めてない。いろいろぶらぶらしながら見て回る感じ。ウィンドウショッピング的な?」


 綾乃は少し考え込むような間を挟んだ後、めちゃくちゃ漠然とした目的をペラペラとしゃべりだした。彼女の態度に少し違和感を抱きながらも、俺は取りあえず面倒くさいので、お断りの方向で話を進める。


「そんなの迅と行けよ。俺である必要ないだろ」

「迅は部活でいないもん」

「じゃあ別日にして二人で行け。迅に浮気だと思われても嫌だからな」

「今日じゃないとダメなの! 律希も一緒じゃないとダメなの!」

「なんでだよ。男手が必要なのか?」

「そうそう! 今日しか売ってない限定品でしかもめちゃくちゃ重いやつがあって、もし買えたら持ってほしくてさー」

「ウィンドウショッピングの話はどこ行ったんだ?」

「あ……。そ、それも兼ねてるの。いろいろ見て回りつつ、それも買いたいって思ってて」


 めちゃくちゃ怪しい匂いを感じる。いくら鈍感と称される俺でもさすがに気付く違和感。素の「あ……」が出てたし。


「何を企んでいるか知らないけど、俺は行かないぞ」

「なんでよ! お願い! 一生のお願いだから一緒に行こ?」

「たかが十七年しか生きてない人間の一生のお願いなんて、聞いてたまるか」

「お母さんもお願いしてた! お母さん四十八歳!」

「百パー嘘だろ」

「嘘じゃないよ。本当に四十八歳だよ?」

「お母さんには申し訳ないが、そこは別に疑ってない」


 疑いはしませんでしたが、とても若々しいとは思っていますよ、お母さん。


 綾乃のお母さんは綾乃と同等かそれ以上に明るい人で、顔を合わせればいつも優しい笑顔で挨拶をくれる。活動的なところがあり、たまにランニングしているところを見かけたりする。そういった意味でも冗談抜きで若々しい人だ。


 閑話休題。話を戻す。


「本当にお願い! 絶対悪くはしないから。スイカもあげたんだし、ね?」


 声の必死な感じから、ケータイの向こうで手を出して拝んでいる綾乃の姿が目に浮かぶ。見返りを求めるならお裾分けなんてするなとツッコみたかったが、また話が逸れていきそうだったので自重しておいた。


 正直面倒な気持ちは変わらないが、こうして断り続けるのも面倒だったので、仕方なく折れてやることにした。くわっと一発大あくびをかましてから、綾乃のお願いに応じる。


「分かったよ。しゃーねーな。でも起きたばかりだからもうちょっと待ってくれ」

「無理だよ。もう十時半に御幣島駅集合って言っちゃったもん」

「言っちゃったもんって誰に?」

「あっ……」


 さっき聞いたばかりの間抜けな声が、耳元から情けなく聞こえてくる。絶対に他人のことは言えないのだが、こんなにも隠し事が下手ななのは心配になってくる。もしかしたらこいつと一緒に育ってきたから、俺もこんな風になってしまったのかもしれない。


「と・に・か・く! 十時半に御幣島集合だから! これは決定事項だから!」

「おい。勢いで誤魔化せると思うなよ。一体誰に連絡したのか教えろ」

「あた。あいたたたた。突然お腹が、いたたたた」

「便利な腹だな」


 露骨な演技とともに腹痛を訴えてくる。誰からどう見ても嘘と見破れてしまうその大根ぶりに、俺は自分もこんな風に周りから見られているかもしれないと思うと、頭を抱えたくなった。


「ごめん。トイレ行きたいから切るね」

「でっかいの出してきたらかけ直してこいよ」

「それじゃあ遅れないようにね!」


 俺のおよそ女性に対して使うには品がなさ過ぎる表現にもツッコむことなく、綾乃は一方的に電話を切った。


 俺は耳元からケータイを離し、再びベッドに体を預ける。これから待ち受けている面倒くさそうなことを想像すると、そのまま目を瞑ってしまいたくなった。


「何を考えてるんだ、あいつは」


 溜息交じりに呟いた俺の声が、扇風機から送られてくる風にかき消される。結局誰に連絡したのかを知らされないまま電話を切られてしまった。誰なのかも何人なのかも分からないが、俺と綾乃以外にも人が来るのは確か。


 綾乃だけなら堂々と遅刻することができたが、その人、もしくはその人たちには何も罪はないので、何分も待たせるのはさすがに気が引ける。俺は渋々準備を始めるために、そもそも今何時なのかを確認しようとして、ケータイの画面に目を向けた。


 電源ボタンを押すと、表示されたのは9と4と0の数字。俺に九時四十分を知らせてくれていた。


「もう一時間切ってるじゃねーか」


 恨み言を言いながら俺は起き上がり、顔を洗うために自室を出た。


 綾乃が指定した時間は十時半。急いで用意しなければ間に合わない。


 爆発した頭を直したり、普段着ない外行きの服を引っ張り出したりしながら、キビキビと準備を進めていく。結局綾乃からの折り返しの電話はかかってこなかった。


 でかいのが出たかどうかだけでも教えてほしかったのだが。



 てっきり綾乃と一緒に集合場所へと向かうのだとばかり思っていたのだが、「もう少し私は時間かかるから、先に行ってて。走って追いかけるから」という連絡が十時十分くらいに届いた。


 というわけで、俺は一人で寂しく集合場所へと向かっている。未だに彼女が何を企んでいるのかは判明していない。


 俺はいつも学校へと向かう方向とは逆方向に歩いていた。最終的な目的地の方向としては学校とほぼ変わらないのだが、こっちの方がいくらか近道なのである。今は車通りの多い国道二号線を進んでいた。


 綾乃が指定した御幣島駅というのは、家の近くにある千船駅とは路線が違う。阪神電車の駅である千船駅に対して、御幣島駅はJR東西線の駅の一つ。俺の家からは少し離れたところにある。千船駅ではなくわざわざそっちを集合場所にしたのには何か理由があるのだろうか。


 そんなことを考えながら神崎大橋という名の通り大きな橋を渡りきり、交差点で赤信号を待った。ここから先の地域は本格的に都会っぽくなってくる。飲食店や自動車ディーラー、銀行などが建ち並び、建物の背も高くなる。その先にある淀川を渡れば、高層ビルが林立するまさに大都会ゾーンだ。


 信号が青になったのを確認して、俺は再び足を進める。このときの俺の思考は別の方向に向いていた。


 それは例の事件、というか主に紗月についてである。


 昨日の調査によって綾乃に対する疑いは晴れたと言っても良いだろう。元々彼女への疑いは他の二人に比べて薄いものではあったが、それがより薄まったわけだ。


 これで三人の容疑者のうち二人に対する取り調べが終わった。結果としては二人とも白、俺に電話をかけてきた相手ではないという考察。


 逆を言えば残る一人への疑いが強くなったということだ。


 残る一人というのはもちろん一花紗月。俺が一年の頃から思いを寄せる相手。


 そんな紗月が犯人である可能性が高いというのは、つまり彼女が俺のことを好きだという可能性が高いということ。結局俺はこの事実に辿り着いてしまったわけだが、相変わらず妄想や勘違いにしか思えず、信じきることができなかった。


 実際、紗月に好かれている自覚なんて毛ほどもない。普通に仲良くしてくれているとは思うが、それは俺に限った話ではなく、迅や豪とも談笑しているところはよく目にする。別にその二人以外に対してもそうだ。彼女は根っからのコミュ力お化けなので、面識のない相手でも躊躇なく声をかける。そういう人なのだ。


 そういう部分からしても、俺だけを特別視してくれているのはイメージできない。そうなるに至るきっかけに関しても、心当たりなんてまるでない。彼女との間で劇的な出来事があったなんて記憶はない。


 だから紗月が犯人である可能性が高いという事実は、本当は鵜呑みにして有頂天になりたいところではあったが、逆に俺のことを冷静にさせてくれていた。


 とはいえ、今すぐ紗月と顔を合わせたらまともに顔を見ることができないだろう。どうしても「もしかしたら俺のことを……」なんていう思いがちらついてしまい、羞恥心がはち切れること請け合い。まともに会話すらできる気がしない。


 だからと言って俺にゆっくりしている時間はない。花火大会までにという期限がある以上、俺は早く犯人を突き止めなければならない。そのためにもなるべく早く行動を起こさなければいけない。


 どうすれば気まずくならずに紗月と会える、もしくは話せるだろうか。それについて頭を抱えながらも、ずっと進んできた国道二号線を、銀行を目印にして左へと曲がり、府道十号線へと足を進めた。


 この先に集合場所であるJR東西線の御幣島駅が見えてくる。駅のホーム自体は地下にあるので、そのホームへと続く階段が左手に出てくる。その階段がこぢんまりとしていて主張が弱いのと、手前に大きめの建物が建っていることもあって、いつも気付かずに通り過ぎてしまいそうになる。


 見逃してしまわないように、気を付けなければ。そう思っていたのだが、その心配は今日に限っては杞憂に終わった。


 なぜなら本日八月二十日、午前十時二十五分の御幣島駅へと続く階段はとても目立っていたからである。


 いや、この表現は正しくない。別に階段が派手に飾り付けられていたわけでも、最近流行りの邦楽が流れてきていたわけでもない。


 正しく言い直すと、そこに人の目を惹く目立つ人がいたからだ。


「え……」


 俺は階段まで近付いていき、その人の顔を認識すると、思わず衝撃の声が口からこぼれ落ちた。


 夏休み中とはいえ平日の中途半端な時間。車は通っていても人通りは少ない。そんな開けた道で、俺の情けない声はよく通ってしまった。


 入り口の柱に背中を預けて、ケータイをいじっていたその人は、声を聞いて顔を上げて俺の方を見る。そしてそのまま数秒間固まった後、ぎこちなく顔を歪ませた。


「な、なんで律希がここにいるのよ」

「こっちの台詞だよ、紗月」


 目立つ人というのは、何を隠そう紗月だった。


 何とか言葉を返したが、すぐに俺の心臓が暴れ始める。先程からかいていた汗が一気に冷えたような気がした。顔も当然のように引きつっている。自分のどの部分もいつも通りではなかった。


「わ、私は今から綾乃と一緒に出かけるだけだけど?」


 紗月は髪を撫でつけながら、そっぽを向いてそう言った。彼女の口ぶりから察するに、どうやら綾乃が集合場所と時間を伝えてしまっていたのは紗月だったらしい。なぜ綾乃は紗月の存在を隠そうとしていたのだろうか。


 答えを探すのは後にして、紗月からの質問に答える。


「俺も今朝綾乃から誘われたんだよ」

「え? 私、何も聞いてないけど?」


 紗月はもう一度俺の方を振り返って、困惑の表情を見せる。俺も同じような表情で彼女のことを見返した。


 俺側だけでなく紗月にも今日のことは詳しく説明されていなかったらしい。確かに今考えると、先程紗月が俺を見て驚いていた時点で、お互いのことを知らされていなかったことは明らかだった。


「あいつ、何を考えてるんだ?」


 幼馴染みの顔を思い浮かべながら、眉間にしわを寄せてそうぼやく。どういう考えに基づいてのこの状況なのか。来たら徹底的に追及してやろう。そうじゃないと腹の虫がおさまらない。


 そんなことを考えていると、紗月がチラチラと俺の方を窺い見ていることに気がついた。


「どうしたんだ?」


 声をかけると、肩でビクッと反応して気まずそうに目を逸らす。彼女と最初に目が合ったときからずっと思っていたが、今日の紗月はどこか仕草の一つ一つにぎこちなさがあった。


 突然俺が来たからかと始めは思っていたが、一向にいつもの余裕のある感じに戻りそうにない。今も視線を虚空に彷徨わせている。


 俺の勘ぐるような視線を感じたのか、目だけで俺の方を見ると、すぐに不満そうな膨れっ面を作って俺の方に向き直った。


「律希だって、なんでそんな離れたところにいるのよ。しゃべりづらいんだけど」


 今度は俺が肩を震わせた。彼女の行動を追うようにして目を逸らす。


 紗月が言う通り、俺は彼女が立っている場所から、三メートルほど離れた、言葉を交わすには少し不自然なところに立っていた。周囲から見れば、ギリギリ俺たちが連れだと認識できるレベル。


 互いに互いのことを認識してしまった今、わざわざ距離をとる意味はない。それなのに俺の足は、樹木のごとく道路に根を生やし、その場から動けなくなっていた。


 その理由としては、確かに前述していたような彼女と顔を合わせることに対する恥ずかしさというのもある。実際今も紗月の気持ちが知りたいという考えが、頭の中を駆け巡っている。


 しかしそれとは別の部分で、俺は彼女に近付きづらくなっていた。


 俺はその理由を説明するために言葉を選ぶ。目を合わせることはできなかったが、なんとなく彼女全体を視界に入れながら、ぼそぼそと理由を口にした。


「なんか、いつもと雰囲気違うなあと思って……」


 俺のくぐもったような声を聞いて、紗月は頬をピクッと震わせた。そしてしばらく俺と彼女の間を静寂が支配する。車が数台行き交う音だけが虚しく響いている。


 やがて紗月は顔を下半分から徐々に赤くしていくと、全体が真っ赤になる直前にその場に蹲って俺に背を向けた。


「おい、大丈夫か?」


 何の脈絡もない彼女の行動に、俺は困惑して駆け寄る。体調が悪くなったのかと思い心配したが、すぐに俺に向かって掌を向けて制止した。俺はそれに従い立ち止まる。ただ、二歩ほど前に出てしまったので、彼女に手が届きそうなところまで近付いていた。


 紗月は体勢を変えずにそのまま大きく溜息を吐き、嘆くように言葉を漏らした。


「だよね。そうだよね……。こんな格好私らしくないし、似合わないよね……」


 なにやら紗月らしくないネガティブなニュアンスで言葉が並べられる。声も自信なさげに萎んでいて、こうして近付いた上で何とか聞き取れる声量だった。


 そこで俺は改めて彼女の全容を捉える。俺はいつもと雰囲気が違うと評したが、彼女が言うとおり、今日の紗月は紗月っぽくない格好をしていた。


 今まで休日など、紗月と遊ぶ機会は幾度となくあったし、私服姿の彼女を目にすることもしばしばあった。


 そのときの彼女と言えば、普段のイメージ通りの大人っぽい格好をしていた。モノトーンを基調としたパンツスタイルが通例。スカートは履いても足首まで隠れるような長いものがほとんどで、落ち着いたキレのあるカッコイイ系の、いつもサングラスが似合いそうだと思わせるようなファッションをしていた。


 しかし今日の紗月は、それとは対極の格好をしていた。


 今まで見たことがない、白地に紺色の草木柄があしらわれたワンピースを着用。足下を見るとヒールの付いたサンダルが履かれていた。彼女が靴以外を履いているところも初めて見た。


 それだけでもいつもと違うと思うには十分だったが、極めつけに今日の紗月は髪型が違った。普段はウェーブの効いた髪を下ろしているだけだが、今日は複雑に編み込まれていて、後ろのうなじ辺りで団子を作るようにまとめられている。


 それらの普段と違うところを踏まえて、素人目に今日の紗月の格好を評するとすれば、いつものクール系とは違い、全体的に可愛らしい感じでまとめられていた。今までみてきた紗月の姿からは考えられない格好。俺が最初距離を取っていたのは、そのギャップに困惑していたからだ。彼女のどこを見てしゃべれば良いか分からなかった。


 紗月は一向に顔を上げる気配がない。仕方ないので俺は自分が言ったことの真意を伝えることにした。


「俺は雰囲気が違うって言っただけだぞ。似合わないなんて言ってない」

「はいはい。心の中では変だって思ってるんでしょ?」

「思ってねーよ。むしろ新鮮で良いと思ってる。新しい紗月が見られて俺は嬉しいよ」

「ものは言いようね。最大限私が傷つかないように気を遣ってくれてありがとう」

「なんで格好とは逆に性格はネガティブになってるんだよ……」


 とても清潔感のあるワンピースを着た女子高生の台詞とは思えない。服装の明るさとは反比例して、紗月自体が暗くなっていた。


「いつまでそうしてるつもりなんだよ」


 紗月が俺に背を向けて蹲った体勢になってからしばらく経つ。どこか俺が彼女のことをいじめているみたいで、周囲の人に勘違いされる前にできるだけ早く立ち上がってほしかった。


「律希の記憶が消えるまで」

「それは一生無理だろうな」


 既に今日の紗月の姿は強烈に俺の記憶へと刻まれてしまっている。新鮮で良いと言った俺の言葉は嘘偽りなく、可愛らしい格好をした紗月はちゃんと可愛らしかった。似合っていないなんてことはなく、ちゃんと服装も髪型も彼女はものにしていた。


 この記憶を消すためにはもう死ぬ以外ないと思う。今のところ今後死ぬ予定はないので、順当にいけば今から八十年ほど彼女はこの場で過ごすことになってしまう。夏休みが終われば学校にも行かなければいけないし、それは現実的な話ではない。


「いい加減にもう諦めろって」


 俺が溜息交じりにそう言うと、観念したのか紗月は無言でゆっくりと立ち上がった。その場で回れ右をして俺の方を向く。頬にまだ赤みを残し、不機嫌そうに顔をしかめていた。


「律希が来るって知ってたら、こんな格好してこなかったのに」

「俺が来ないと思ってたから、そんな格好なのか?」

「うん。私だってこういう風に可愛くなりたい日だってあるのよ」

「別に俺がいるいないは関係なくないか? 好きなときに好きな服着て好きな髪型にすれば良いだろ」


 率直にそう思ったのでそう言った。めちゃくちゃ変な格好とか周りに迷惑をかける格好じゃなければ、自分の好きにすれば良い。ファッションだって自己表現の一つだし、それを自分で縛ったり躊躇ったりする必要はない。


 ましてや俺の存在など考慮する意味はない。


 しかし俺の考えを聞いた紗月は、拗ねたように唇を尖らせる。


「だって、律希に変だって思われたくない……」


 困ったように下がり眉になりながらそう言った。あくまでこの格好は似合っていないという自己評価らしい。


「だから変だなんて思ってないって」

「でもこんなの私のイメージと違うでしょ? なんか近付きたくなさそうにしてたし」

「イメージと違うっていうのはそうだけど、こっちはこっちで良いって。最初に距離を置いてたのは、今まで見たことない全然違う雰囲気で戸惑ったのと、いきなりすぎてどう反応すれば分からなかったからだ。今日のお前を見て一度も変だなんて思ったことはない」


 機嫌を直してもらうために言葉を尽くして弁解する。とは言っても本当のことを口にするだけだったので、何も苦労はしなかったが。


 紗月は俺からの言葉を受けて、下から覗き込むようにしてじろじろと俺の顔を観察する。まだ俺が気を遣ってお世辞を言っていると疑っているようだった。


 好きな人に顔を見つめられるのは緊張するし何より恥ずかしい。しかもいつもと違う、可愛らしい紗月だ。そんな彼女を近くに感じると、目を逸らすしか心拍数を抑える方法が思いつかなかった。


 しばらくして、紗月は俺から目を離すと、大きな溜息を吐いた。そして再び上目遣いで俺を視界に捉える。


「その言葉、信じるわよ」

「あ、ああ。嘘は言ってない。神に誓う」


 慌てて俺は大仰に応える。やっと俺の素直な評価が紗月の胸に届いたようだ。そのままいつも通りの余裕ある感じに戻ってもらえると助かる。こっちとしてもこの姿の紗月は慣れないので、態度だけでも戻ってもらわないと余計に精神をすり減らすのだ。


 紗月は俺からの返事を聞くと、ケータイを緑のポーチから取り出した。


「綾乃が来たら、たっぷりお灸を据えてやらないと」


 眉間にしわを寄せながら口元を吊り上げてそう呟いた。


 この状況を招いた張本人がまだ来ていない。既に集合時間の十時半は過ぎており、この集まりの主催のはずなのに堂々と遅刻だ。そのことも合わせてこっぴどく紗月に叱られることだろう。あいつを擁護する点はどこにもないので、紗月が激昂しても止めないでおこう。


 そんなことを考えていると、紗月のケータイから通知音が鳴った。この音は聞いたことがある。例の無料通話アプリでメッセージが届いたことを知らせる音だ。


 紗月はケータイのホームボタンに親指をかざして、画面ロックを解除すると、緑色のアイコンをタップして、メッセージを確認した。


「え……」

「何だよ。どした?」


 紗月がメッセージを見るやいなや単音を吐き出し、面食らった表情で固まってしまったので、思わず俺は声をかけた。そんな衝撃を受けるような文章が届いたのだろうか。メリーさんからのメールとかか?


 紗月はゆっくりとケータイを持ち直し、俺に見えるように画面を向けてくれる。表示されていたのは綾乃とのトークルームだった。


 遅刻に対する謝罪文だろうと思いながら、メッセージに目を通す。しかし俺の予測は外れていた。


(ごめーん。なんか風邪引いちゃったみたいで今日行けないや。言ってなかったと思うけど律希も来てると思うから、二人で行ってきて!)


 謝罪文だという予測は合っていた。ただ、それは遅刻に対してではなく、欠席に対する謝罪文だった。


「いや、おか――」


 読み終わった瞬間に反射的に否定の言葉を口にしようとしていた。


 なぜなら俺は一時間前に綾乃の元気な声を聞いているからである。俺が起きる羽目になったあの通話において、綾乃が咳き込んでいる様子はなかったし、声も平常運転で、鼻をかんでいる音も聞こえなかった。微塵も怠そうにしている感じや熱で辛そうにしている感じは伝わってこなかったし、むしろいつも以上に声量があった気がする。


 風邪を引いたというのは、どう考えても嘘だった。だからおかしいと言おうとしたのだが、俺の口は言い終える前に途中で止まる。


 それは俺のケータイからも、メッセージが届いたことを知らせる通知音が鳴ったからである。


 もしかしてと思いながらも、ポケットからケータイを取り出して、画面ロックを解除してホーム画面を表示する。流れるように緑のアイコンをタッチすると、一番上に綾乃からのメッセージが表示されていた。


(今日で告白するギリギリまで仲良くなってきて! 何なら告白してくれても良いよ! 勇気出してファイト!)


「あいつ……」


 このメッセージを読んで、やっと綾乃が企んでいたことを理解した。どうやら俺が紗月とより親密になれるように、余計なお節介を焼いて、デート的なものをセッティングしてくれたらしい。わざわざ紗月の存在を隠したり、自分も行くと装っていたのは、俺が最初から紗月と二人と言われていたら行くのを躊躇うと思っていたからだろう。多分その予想通りになると俺も思う。急に好きな人と二人で出かけてこいと言われても絶対に無理だ。心臓と精神が持たない。


 紗月側に俺の存在が伝えられていなかったのも同じ理由だろうか。もしそうならやはり紗月も俺のことを意識してくれているということなのか。自分で勝手に考えて、また心臓の鼓動が早くなり始める。


「律希も綾乃から?」


 紗月から問われて意識を目の前に引き戻す。引き戻しても可愛らしい紗月を認識してしまって、心臓が落ち着くことはなかった。


「ま、まあそんな感じ。紗月のとこに届いたのと同じような内容だよ」


 さすがに内容を正直には話せなかった。正直に話したときの反応で、紗月が俺のことをどう思ってくれているかは分かる気がしたが、生憎こんな恥ずかしい文章を音読する勇気を俺は持ち合わせていなかった。


「もう……。今風邪なんか引いてたら花火大会大丈夫なのかしら」

「まあ大丈夫だろ。あいつバカだし。すぐ治るって」

「バカは風邪を引かないってこと? もう引いちゃってるっぽいけど」

「バカだから風邪を引いてると勘違いしてるのかもな」

「ふふっ。酷い言われよう」


 俺の容赦ない物言いに紗月が笑う。ここで一旦会話が途切れて、二人の間に沈黙が訪れた。

 少し気まずい空気が流れる。相変わらず聞こえるのは車が通過する音だけ。そんな生活音が聞こえるだけでもいくらか気まずさを紛らわせてくれていた。


 なんとなくお互い違う方向を見ながら、意味もなく息を吐いたりする時間が流れる。


「ど、どうする? これから」

「さて、どうするか」

「……」

「……」

「あ……」

「あ……」


 見事にしゃべり出しがバッティングしてしまった。気まずい空気の密度が何倍にも濃くなる。いつも学校では普通に話すのに、なぜかこのときばかりは初対面のとき以上に言葉が出てこなかった。


「どうしよっか。私たちだけみたいだけど、二人で行く?」


 なんとか膠着状態を切り抜けるために、紗月が第一声を発してくれた。一応笑顔ではあったが大部分を苦み成分が占めていた。


 勇気を出してくれた彼女に情けなくも感謝しながら、俺もボールを投げ返せるように言葉を用意する。


「そうだな。まあでも、元々俺は来る予定じゃなかったし、もし邪魔なんだったら俺は帰るけど――」

「別に邪魔じゃない」


 ここまでしてくれた綾乃には申し訳ないが、この気まずさを耐える自信がなく、思わず消極的な回答をしてしまった。電話の件もあるので今ここで別れるのは得策ではない。


 しゃべりながら心の中で間違えたと思っていたが、俺が言い切る前に食い気味で否定の言葉を被せてきた。


「邪魔じゃないっていうか、むしろついてきてほしいなあ……なんて」


 紗月は背中の方で手をいじりながら、車道に目線を逸らしてそう言った。表情にいつものような余裕は無く、甘い誘惑とはほど遠い、健気で初々しい雰囲気が彼女を包んでいた。


 心臓がうるさすぎて、俺は何も考えられなくなった。


「それって……」

「ほら、一人でショッピングなんて寂しいじゃない? いろいろおしゃべりしながら見て回りたいし」


 何を聞こうとしたのかも分からない、口をついて出た俺の言葉を遮って、紗月は笑顔を見せた。にへらと笑った口元。頬には若干朱色が差している。


 おそらくだが、炎天下による日差しが理由ではなかった。


 相変わらず俺は顔を引きつらせるだけで口は動かない。綾乃に会場を用意してもらって、紗月に舞台を整えてもらった。あとは俺がその舞台に上がるだけ。それなのに俺は舞台袖で幕に隠れて動けずにいた。


 反応がない俺を見て、紗月が気まずそうにふと目を逸らす。少し俯いてしまったせいで、笑顔にも影が差してしまった。


「ま、まあ律希が嫌なら別に――」

「嫌じゃない」


 無意識にもやっと動いた俺の口は、紗月を倣うようにして、彼女の言葉を遮って訂正するように動いた。


 顔を上げた彼女と目が合う。少しだけ濡れた瞳は日差しを受けて切なげ且つ煌びやかに輝いている。まるで写真家が撮影した写真を見ているかのような感覚にとらわれた。


 改めて紗月の美しさを認識した俺であった。


 そこでやっと体の制御を取り戻した俺は、全然足りていなかった言葉を付け足す。


「別に、というか全然嫌じゃない。紗月が良いって言うなら、ついて行かせてもらうけど」


 自分が言ったことに対する補足を終えると、紗月はポカンとした表情で固まっていた。しばらくすると急に噴き出して、腹を抱えて笑い出した。


「どこにそんなお笑い要素があったんだ?」


 紗月が笑い出した原因が分からず、俺は首を傾げることしかできない。困惑した表情の俺を見て、紗月は余計に笑いがこみ上げてきていた。


 今度は車の音をかき消すほどに、紗月の笑い声が響き渡る。今だけはここが世界で一番平和な気がした。


 結構な時間を要してやっと落ち着きを取り戻した紗月は、涙目になりながら肩で息をしていた。


「ごめんごめん。あー笑った」

「何をそんなに笑ってたんだよ」

「バカなことしてるなーと思って、私たち」

「バカなことって?」

「まあ、いいからいいから」


 紗月は俺の疑問に答えてくれずに、適当に誤魔化そうとする。そしてそのまま駅へと続く階段の一番上へと移動し、俺の方を振り返った。


 彼女の顔を見ると、爆笑していたときと同じような、満点の笑顔だった。


「じゃあ、せっかく集まったんだし、二人で行こっか」


 そう言い残して、紗月はひとりでに階段を下り始める。俺は彼女を追いかけるようにして、先程まで彼女がいた場所に立った。


 そして今に至るまでのいろんなことに対して大きな溜息を吐きながら、俺は機嫌が良さそうに弾んでいる紗月の背中を追った。



「はぁ……。今すぐにでも着替えて髪の毛解きたいんだけど……」

「いつまで言ってるんだ、お前」


 電車に乗ってからも紗月は自分の格好のことを気にしていた。彼女の深い溜息は車輪と線路がぶつかるガタンゴトンという音にかき消されていく。電車も気にするなと言ってくれているような気がした。


「似合ってるか似合ってないかなんて、周りの反応見れば分かるだろ」


 それとなく車内に目を向ける。半数くらいの乗客は紗月のことが気になるのか、チラチラと視線を送っている。何人かはガン見と表現しても良いほど見とれてしまっていた。


 もちろんそれは奇異なものを見る目ではない。彼女の醸し出す女の子らしい雰囲気に惹かれて、自然と目を向けてしまっているような感じだった。


 別にそれが男性だけというわけではない。女性の乗客も紗月に釘付けになっている。近くにいる大学生らしき女性の二人組は、何やらコソコソと小声で話しながら、紗月に憧れの視線を向けていた。


 これらの反応を見て、まだネガティブなことを言おうものなら、それは謙遜を超えて嫌味だ。全国の女性を敵に回すことになる。


 それでも紗月は少しだけ眉間にしわを寄せて、ふて腐れたような顔をした。


「別に周りに何て思われようがどうでもいいわよ。私は律希に変だって思われたくないの」

「……」


 俺は何も言葉が出てこずに、ぎこちなく表情を固める。


 周りはいいからあなたからの感想だけが気になる。そう解釈できる彼女の台詞とあどけないムスッとした表情は、俺の心臓を鷲掴みにするには十分すぎる破壊力を持っていた。


 本当に破壊されてしまいそうなほど、心臓の音はうるさく血液の流れは速い。涼しいはずの車内で顔に熱を持った俺を見て、紗月は先程までのふて腐れた表情を引っ込めた。


「どうだった? 今の台詞、ドキッとしたでしょ?」


 そう言いながら顔を近づけてきて、意地悪そうにニヤリと口角を上げる。


「……お前なあ……」

「ごめんごめん。ちょっとからかいたくなっただけじゃん」


 俺は若干の苛立ちを覚えながら溜息を吐いた。


 どうやら俺の反応を見て面白がるための演技だったらしい。俺の不満そうな顔を見て楽しそうに笑っていた。


 この反応を見る限り、既に紗月はいつもの自分を取り戻しているようだ。意地悪なお姉さんというか小悪魔みたいなそんな彼女。もう格好には吹っ切れたのか、表情にもいつもの余裕があった。


「嘘つきは泥棒の始まりだぞ」


 言われっぱなしなのは癪だったので、適当に反論しておく。紗月は子犬の甘噛み程度の俺の反抗を余裕の表情で受け止めると、何やら耳元まで顔を近づけてきた。


「私、嘘なんて言ってないけどね」


 小悪魔の囁きが俺の鼓膜をくすぐってくる。彼女が体勢を元に戻すと、頬が少し赤くなった彼女の顔が視界に入ってきた。俺は乾ききっているはずの口で唾を呑んだ。


 結局俺は何のツッコミも入れずに、両手を挙げて降参の意を示して、窓の外へと目を逸らした。


 今の俺には、ここで「本当に嘘じゃないんだろ?」と問いただす勇気はなかった。今日中に聞かなければいけないことと分かっていても、中々言葉にはならなかった。


 そこからは合間に他愛もない世間話を挟みながら、しばらく電車に揺られ続けた。


 俺たちが乗車しているのは、大阪方面へ向かう列車ではなく、西明石行きの普通電車。ショッピングと聞いていたので、勝手に梅田辺りに足を伸ばすと思っていたのだが、紗月が乗り込んだのはこの列車だった。


 まあ梅田に行くなら千船からの阪神電車でも行けるので、こっち向きを選んだのには納得がいく。別に千船からも兵庫には行けるが、JRと阪神電車では路線に距離がある。そこは目的地が関係しているのだろう。


 そんなことを一人で考えていると、真っ暗だった視界に眩しい光が差し込んだ。地下を潜っていた電車が地上へと顔を出したのだ。


 電車は御幣島の次の駅である加島を発車してすぐに地下生活に別れを告げて、大きな工場地帯に挟まれた線路を走りだした。今は神崎川の上に架かる橋を大きな音を立てて渡っている。橋の上から外を見ると、川が工場地帯とその先に続く街並みを隔てる境界線のように見えた。


 やがて橋を渡りきると、景色は次第に清潔感のあるものへと変わっていく。高層マンションや一軒家が建ち並ぶ住宅地が見え始め、人が生活する気配が大きくなっていく。


 移り変わっていく景色をボーッと眺めていると、電車内に車掌さんの渋い声が流れ始めた。


「尼崎、尼崎です」


 その声を合図に電車は減速を始める。慣性を最低限に抑えたスムーズな運転で尼崎駅へと到着した電車は、所定の位置で停止し、車内の冷気を一気に外へと解き放った。


「それじゃあ、降りよっか」


 そのタイミングで紗月は俺に声をかけて、冷気と一緒に駅へと降り立った。彼女の背中を追って俺も電車を降りる。その瞬間に彼女が目指している目的地がどこなのか、なんとなく察した。この駅で降りたということはあそこしかないだろう。


 階段を上って改札にICカードをかざすと、俺の予想通り紗月は北口の方へと歩き出した。渡り廊下のような通路を抜けると右手にはマンション、左手にはベージュ色の大きな建物が見えた。


「やっぱりキューズモールか?」


 俺はその建物の名前を出して紗月に問いかける。


「ショッピングといえばここでしょ」


 紗月は期待に目を輝かせながら、楽しそうに頷いて見せた。


 このキューズモールというのは、いろんなジャンルのお店が入っている複合型のショッピングセンターで、ここに来れば大抵のものは揃えられる、そんな場所だ。


 ここら辺一帯で買い物といえば真っ先にここが思い浮かぶ。だから俺は尼崎で紗月が下車したときに、十中八九キューズモールだろうなと思っていた。


 駅から続く歩道橋を渡って施設内へと足を踏み入れる。中はエアコンが効いていて、ひんやりとした空気が肌に気持ちいい。駅からここまで来るだけでも俺の額には汗が滲んでいた。


「今日は何がお目当てなんだ?」


 体の熱を冷ますように、シャツの裾を持ってパタパタと扇ぎながら紗月に問いかける。紗月は顎に手をやって、うーんと唸りながら施設内を見渡した。


「そうね。取りあえず服かなー。秋物見ておきたいし」


 漠然とした目的を答えると、スタスタと歩き始めてしまった。明確にこれが欲しいというものは無いらしく、綾乃が言っていたように今日はウィンドウショッピングに来たようだ。


 別に俺にも欲しいものがあるわけではないし、ここで別行動というのもおかしな話なので、ひとまず紗月の背中を追うことにした。


 俺たちが今いる二階はいろんなブランドがひしめき合っていて、ファッション特化ゾーンになっている。他の階にも服を売っているお店はあるが、この二階はほとんどがアパレル系のお店が占めていた。


 紗月はフラフラといろんなブランドに立ち寄っては、気になったアイテムを手に取って、自分の体に合わせて鏡で入念にチェックしている。ときどき試着室を借りて実際に身につけることもあった。


 選んでいる系統は別に一貫しているわけではなく、いつもの落ち着いたシックな感じのものから、今日みたいなかわいい女子っぽいものまで幅広かった。


「もう律希には隠してもしょうがないしね」


 チェックのワンピースを手に取っているときに、俺の視線に気付いた紗月が照れ笑いを浮かべながらそんなことを言った。


 別に俺とかは関係なく自分の好きなようにしてほしいという気持ちもあったが、なんだか俺にだけ秘密を打ち明けてくれたような感覚があって、特に何も言い返すことなく、密かに嬉しさを噛みしめていた。


 俺は基本的にファッションには興味がない。今日着てきた服も母親が適当に買ってきたのを引き出しから引っ張り出してきて、何も考えずに着てきた。紗月が来ると分かっていればもうちょっと考えてきたかもしれないが、別にセンスがあるわけではないので、劇的にオシャレになることはなかっただろう。何ならダサくなっていた可能性もある。


 そんな俺がすることといえば、ただ紗月について行くことだけ。ついて行くのが紗月でなければ、さぞかし退屈な時間を過ごしていたことだろう。おそらく途中で離脱して、ベンチでケータイをいじっていたと思う。


 ただ今回に関しては退屈とはほど遠い気分だった。目の前で好きな人がいろんな衣装を身に纏い、その度に雰囲気や印象がガラッと変わる。かわいい、カッコイイ、色っぽい、美しい。他にも一言では表すことのできない感想が、彼女の姿を目にする度に湧いてくる。


 紗月の無料ファッションショーは、見ていて飽きるわけがなく、俺は彼女の隣という特等席でそれを鑑賞している。


「どう? これ」

「似合ってる」

「さっきからそればっかりじゃん」

「全部似合うお前が悪い」

「何それ」


 そんな適当な会話を繰り返しながら、次々と紗月は服を手に取っていく。少し恥ずかしがりながら服を自分に合わせて見せてくれる彼女は、とてつもなくかわいかった。


 紗月と付き合うことができれば、ほぼ毎日この表情を拝むことができるのだろうか。今日だけでもこんなに幸せなのに、これがずっと続くなんて想像がつかない。


 ただ、幸せな時間ほど体感速く時間が過ぎてしまう。あっという間にケータイの画面が示す時刻は十三時を過ぎ、俺の腹は空腹を知らせるようにグーと鳴いた。


「お昼にしよっか」


 その鳴き声を聞いたのかは分からないが、そのタイミングで紗月が昼飯を持ちかけてくれた。空腹を自覚した俺は素直に頷いておく。


 そうして紗月のファッションショーは閉幕し、俺たちは一階にあるハンバーガーのチェーン店を目指した。



「もう。律希が似合うしか言わないから買いすぎちゃったじゃない」


 対面に座った紗月がポテトを貪りながら、怒った風にそんなことを言った。


 隣のテーブルに目をやると紙袋が四つ並んでおいてある。全て紗月が今日購入したものだ。俺は紗月に視線を戻して、ハンバーガーを一かじりする。


「何回も言ってるだろ。似合うお前が悪い」

「絶対似合ってないのもあったって」

「そんなことはない。店員さんだって良いって言ってくれてただろ」


 服を選んでいるときに、何人か店員さんに声をかけられることがあった。その全員が服を合わせている紗月を見て、目を見開いて驚いて「お似合いです!」と口にしていた。普通に考えれば買ってもらうためのお世辞として用意してある台詞だと思うが、あの反応を見る限り、素で出た言葉だったと思う。売り手の素が出るほど、全ての服を着こなしていた。


 それでも紗月は不満そうな顔をして、口の中にポテトを放り込む。


「だから周りにどう思われようと関係ないんだって……」


 外の景色に目を向けながらボソリと呟く。その先に続く言葉は、行きの電車の中で聞いた。あのときは冗談っぽかったが、このときの紗月はニヤリと挑発的な笑顔を見せることはなかった。


「まあ、そのスカートはちょっとやめといた方が良いかもな」


 俺は誰に伝えるでもなくボソボソと呟いた。聞き逃さなかったようで、テーブルに肘をついて顎を支えていた紗月は、顔ごとこっちを向いて、眉間に力を込めた。


「ちょっと。そう思ってたならそう言ってよ。買っちゃったじゃない」

「いや、似合ってないわけじゃない。ちゃんと似合ってるとは思ってる」


 俺の煮え切らない回答を受けて、紗月は首を傾げる。当然こんな答え方で伝わるわけがない。仕方なく恥を忍んで俺は思っていたことを口にした。


「丈がちょっと……短すぎると思う……」


 正面を見ることができずに、意味もなく並んだ紙袋の取っ手あたりに視線を彷徨わせた。


 チラッと紗月の反応を確認する。すると彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっていた。


 もしかしてキモすぎる発言になってしまっただろうか。少し踏み込みすぎたかもしれない。そんな思考が頭の中を巡り始める。


「いや、まあ、なんていうか、そこら辺のガードは堅いに越したことはないだろ?」


 俺は急いで誤魔化しの言葉を並べる。紗月のことを思っての発言であることをアピールする。言い切った後もじっとしていられなくて、テーブルの上で手をこねくり回していた。


 そんな必死な俺を見て紗月は噴き出して、口元を覆いながら控えめに笑い出した。


「短すぎるって、一応膝くらいまではあったと思うけど?」

「……いや、俺が見た感じでは膝より上だったぞ」

「だとしてもミニまでは全然いってないよ」

「そうかもしれないけど、あの長さは十分露見する長さだろ」

「走り回ったりしなければ大丈夫だって」

「でもこの世の中、誰がどこから見てるか分からないぞ」

「そんなこと考えてたらスカートなんて履けないよ」


 心配する俺を余所に紗月は周りに迷惑にならないように、声を抑えて笑っている。とても心配されている側の態度とは思えなかった。


「心配しすぎだって。買ったの秋物だし、一緒にタイツ履いたりすると思うから、律希が気にかけてるようなことは起こらないと思うよ?」

「……そうなのか?」


 紗月が目に溜まった涙を拭いながら、俺に落ち着くように促してくる。俺もヒートアップしかけていた自分の精神を抑えて、深呼吸しながら椅子に座り直した。


 ただ、何度考え直してみても、やはりあの丈は短すぎるという結論に戻ってくる。ただでさえ目を惹く容姿の持ち主である紗月なので、そういう目線は一般的な女性に比べてどうしても多くなってしまうだろう。


 俺はシンプルに、自分の好きな人がそういう対象になってしまうのが許容できなかった。


 まだ納得がいっていない表情をしていた俺を見て、紗月は困ったように笑った。


「じゃあ私はいつこのスカート履けるのよ」

「……」


 俺は言葉を詰まらせる。確かにせっかく買ったのに着ることができないのは勿体ない。


 しかも少なからず俺が後押ししたから、紗月はこのスカートを購入したのだ。俺に責任がないとは言い切れない状況に俺は汗をかいた。


「まあ、女子会とかあんまり人気のないところなら大丈夫なんじゃないか? とにかく他の男がいないところなら――」


 俺は焦りもあって、思いついた案をそのまま口に出して提示する。ちゃんと言葉を精査しなかったせいで、紗月は俺の失言を聞き逃さずに取り上げて突いてきた。


「他の男ってことは、律希の前なら良いんだ?」


 蠱惑的な笑みを浮かべた紗月が、強張った俺の顔を覗き込んでくる。しまったと思ったときにはもう遅く、既に俺は追い詰められていた。


「むしろ俺の前でだけって感じ?」


 余計な勘ぐりをみせて、紗月は俺の立場を更に追い込むように表現を変えた。表情は俺と正反対で楽しそうだ。


「……その、まあ、なんだ……」


 俺は頭をフル回転させて抜け道を探す。そのまま認めてしまう選択肢は自然と消えていて、どうやったら立場を悪くせずに済むかばかりを考えていた。


「別にそういう意味で言ったんじゃない。俺の前でも履きたくなかったら履かなくて良い」

「履きたかったら履いても良いの?」

「それはお前の自由だ。ただその場合、俺に下着を晒す覚悟はしておくことだ」

「まあね。女の子のパンツなんか見られるときに見とかないだしね」

「遊べるときに遊んどけみたいに言うな」


 社会人になってすぐの若者が大学生や高校生を見ながら言っているようだった。台詞自体は似ても似つかないものだったが。


 全く俺の思っていたところとは違う、よく分からない部分に納得を示した紗月は何度か頷いてみせる。


「じゃあ律希の前でも履いちゃおー」


 大きな独り言とともに、改めて紙袋を手に取って嬉しそうな笑顔を見せる紗月。俺はそんな彼女を見ながら椅子の背もたれにもたれかかり顔をしかめた。


「そんなに俺にパンツ見てほしいなら、言ってくれればいつでも見るぞ」

「そういうわけじゃないけど。っていうかこれくらいの長さだったら台風の中じゃない限り見えないって」

「そんなに最近のJKってスカートの扱い上手いのか?」

「伊達に毎日スカート短くして学校行ってないからね」


 確かに。言われるまで忘れていたが、紗月を含めて、俺は毎日短いスカート姿の女子高生を目にしていた。それなのに俺は彼女たちのスカートの向こう側を拝んだことはない。もちろん俺が自重している部分はある。しかし階段とかで不意に上を見上げたときに、見えそうになることはあっても、絶妙に見えなかったりするのだ。


 あれは短いスカートをはき続けることで、彼女たちのリスク管理能力が著しく伸びているということなのだろうか。この角度までは見えない。この風力なら大丈夫。俺たち男性陣には分かりっこない、女性独自の感覚が宿っているのかもしれない。


「なるほど。俺の知らないところでお前たちはパンツを見せない技術を培っていたということか」


 俺は特に反論を用意せずに、ジュースを飲みながらふむふむと頷いた。もしかしたらとんでもなく差し出がましいことを紗月に言ってしまっていたのかもしれない。スカートのことで俺が彼女に口出しできることなんて何一つないのだ。


 やっと理解してくれたのかといった感じで、にっこりと紗月は微笑む。笑顔はそのままに、ジュースを手に取って何気なく彼女は口を開いた。


「そういうこと。パンツなんか見せて良い相手にしか見せないからね」


 彼女の発言を聞いた俺は、呑んでいた炭酸の効いた液体を気管に詰まらせて、大きくむせた。涙目になりながらも、周りのお客さんに迷惑がかからないように、咳を抑える。


「大丈夫?」


 心配そうな顔で紗月が席を立ち、俺の背中をさすってくれる。むせている原因が自分であることなど、全く頭になさそうだった。


「JKはパンツを見せても良い人とかいうカテゴリーを作る生き物なのか?」

「え? 別にJKだけじゃないでしょ。どんな年齢でも同性には見せても良いと思うんじゃないの?」

「そういうことか」


 ちゃんと常識的な範囲の回答で安心した。世の中にJKのパンツを拝むことを許された男が存在するのかと思い焦った。もし存在したのなら立候補しようかと思っていたのだが。


 少しだけ残念に思いながら、俺は息を整える。


「あとは好きな人とかね」

「……好きな人ね」


 付け足された条件。それとなく口に出して俺は目線を少し左にずらした。


 そこに見えたのは中学生らしき男女二人組。お互いにチラチラと目線を送り合っては、誤魔化すようにポテトへと手を伸ばしたり、ジュースを口に含んで喉を潤わせたりしている。


 彼らを包む初々しい雰囲気。なんとなく互いに良く思っているのが分かる。多分それを彼ら自身も理解している。今日はどちらかが思い切って誘ったのだろうか。


「ちょっと律希」


 名前を呼ばれ、意識と目線を目の前に戻す。紗月は申し訳なさそうな顔で右手の人差し指をテーブルの下へと向けていた。


「ごめん。ちょっとペーパータオルを律希の方に落としちゃったみたいで、取ってくれない」

「あいよ」


 俺は承諾して体を横に傾けて、テーブルの下を覗き込んだ。ちょうど俺の足先辺りに薄い紙切れが着地しているのが見える。俺は目標を確認して、取り除くために上体を屈めてテーブルの下に潜り込もうとする。


 そのとき俺は小さな違和感を覚えた。なんだか視界に肌色が多い気がする。


 先にペーパータオルを掴んだ俺だったが、ぼんやりと映った肌色の意味を理解して、慌てて頭を上げようとした。


 ゴツンという低い音とともに俺の頭頂部に鈍痛が走る。テーブルの下に潜り込んでいたので当然頭を上げればテーブルにぶつかる。言葉にならない悲鳴を上げながら涙目で元の体勢に戻ると、紗月が心配半分笑い半分の表情で俺を迎えてくれた。


「何してんの? 大丈夫?」

「それはこっちの台詞だ……」


 俺は不満を訴えるように彼女を睨みつける。紗月は全く意に介した様子もなく、心当たりがないふりを決め込んだ。


「何の話?」

「お前の両手がテーブルの下でしていることについてだよ」

「ああ、これのこと」


 あくまで惚けたふりを続ける紗月。その白々しい演技からも意図的であることは明らかだった。


 テーブルの下に肌色が多かった理由。それは紗月がワンピースの裾を持って、太ももあたりまでたくし上げていたからだった。綺麗に整った細い彼女の御御足が露わになっていた。


「暑かったから涼んでたのよ」

「クーラーはしっかりと効いていると思うけどな」

「ワンピースの中って結構熱こもるからさ」

「だとしてもそんな大胆な涼み方があるか」


 今日が平日ということもあって、客数が少なかったから良いものの、こんなところを誰かに見られでもしたら、どう説明するつもりだったのだろうか。俺が屈んでいるタイミングなんか、いかがわしい動画の撮影と勘違いされてもおかしくない。とんでもない風評被害を受けることになっていただろう。


「そもそもお前が俺を下に誘導したんだから、気を付けられただろ」

「ごめんごめん。忘れてたー」


 反省の色が全く見えないヘラヘラした表情で、自分の後頭部を撫でている。その後わざとらしくハッとした表情になると、口元を押さえながら俺のことを横目で見てきた。


「もしかして私のパンツ見た?」


 恥じらいを伴うはずのその台詞。しかし彼女の表情は「楽しい」でいっぱいだった。


「見てねえよ」


 俺は正直に答える。ちゃんと本当である。俺は女子高生のパンツを拝む絶好のチャンスを逃していた。


 俺自身意識して見ないようにした部分もあるが、紗月は慎ましく足を閉じていたので、俺が目にしたのは太ももまでである。布地はワンピースの白色しか見えていない。


「本当に?」

「ガチで」

「なーんだ」


 俺に焦った様子がないのを見て、紗月はつまらなさそうに顔を背けた。


 好きな人にならパンツを見せられるという話から、俺にパンツを見させる誘導。からのこの落胆した表情。


 露骨すぎて逆に違うのではないかと思えてくる。紗月が何を考えているのかが分からない。ただの露出狂なのではないかという疑いが俄に俺の中で沸き立ち始めていた。


「いつまでパンツの話をしてるんだ俺たちは」


 俺はあえてツッコむことをせずに、話題の転換を試みた。もうスカートの下りから見ても、何分パンツについて討論したか分からない。あまり食事時にする話でもないし、これ以上話を広げるわけにはいかない。セクハラはもう勘弁だ。


 俺の意図を察したであろう紗月はわざとらしく溜息を吐いて、テーブルに肘をついた。


「見てくれても良かったのに」

「この後はどうするんだ?」


 ぎりぎり聞き取れてしまった紗月の独り言を無視して、俺はこれからの予定を尋ねた。


 行動とは裏腹に心はざわつく。先程までの話の流れを汲めば、ほぼ告白に等しいことを彼女は言ったのだ。


 やはり紗月は俺のことが……。そんな思考が蘇る。純粋にそのアピールとして捉えて良いものか。ここで電話の件について詰めるべきか。


 あたふたした俺を余所に紗月は質問に答えた。


「この後は行きたいところがあるのよねー」

「行きたいところ」


 俺は取りあえず紗月の言ったことを復唱する。一旦電話の件に関しては思考を中断して、意識を目の前に戻した。


「まあ行きたいところっていうか、行かなきゃいけないところなんだけど」

「どういう意味だ?」

「予約してるところがあるのよ」

「予約? 髪でも切りに行くのか?」


 そうなった場合、俺は紙袋を二つずつ両手に提げて、お留守番ということになるだろう。美容室について行っても俺にすることなんてない。多分居場所もない。


 俺の推測を聞いた紗月は、首を横に振った。


「違うわよ。そんなことしたら律希置いていかなきゃならないじゃない」

「違うとしても予約するような場所って俺も一緒に行けるのか?」

「行けるわよ。むしろ来てもらわないと困るんだけど」


 俺は九十度くらい首を傾げる。ここまで聞いて全く紗月が行こうとしている場所が想像つかなかった。


「俺をどこに連れて行くつもりなんだ?」

「おーしえない」


 ウインクしながら立ち上がった紗月は、自分の分のトレイを持って、ゴミ箱の方へと向かっていく。いつの間に食べ終わっていたのか。


 俺は急いで残りのポテトをジュースで流し込んでから、忘れず紙袋を両手に提げて、彼女の背中を追った。


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