3話 王女様からメイドへジョブチェンジ3
(何、この開き直りっぷりは!)
カザナは、2人の発言に呆れてあんぐりと口を開けている。
これが天空界の対魔組織ウィザードの長官とウィル神界の王妃の発言かよ!とカザナは、ツッコミを入れたかった。
それにしても王妃の間は、大きい。シルフィーディア王国時代のカザナの王女の部屋以上だ。ペールグリーンを基調とした女性らしい部屋に天蓋付きの寝台やソファやローテーブルが配置され、天井にはシャンデリアが吊るされている。今は、ソウたちの住む昔のマンションを現代風にリノベーションした家にカザナは、住んでいる。慣れたが、最初はあまりの部屋の狭さにびっくりした。
ヒカルの住む王妃の間を眺めていたカザナにソウが声を掛けてきた。
「じゃあ、カザナ。そろそろあたしは行くわ」
「えっ! ソウパパ、行っちゃうの?」
カザナの勿忘草色の大きな両方の瞳が縋るような色合いに包まれる。そんな可愛い娘の滅多にお目にかかれない甘えた仕草にソウは足を止める。
「カザナが、そう言ってくれるならあたしもメイドとして潜入しちゃおうかしら……」
おかしなことを言い始めた父にカザナはぎょっとし、ヒカルは扇を振り回して、けらけら笑い始める。
「やだ~! ソウ長官のメイド姿を想像するだけでおかしい!」
「ちょっと! ヒカル!」
またお笑い漫才を再開する二人にカザナは呆れるしかない。
「あの、オスカー王子のお話は?」
二人を見つめる冷めた視線にソウとヒカルははっとして、お笑い漫才を中断させた。いつもは、王妃然とした振る舞いばかりをしている、その反動でソウやその娘であるカザナに会えて嬉しくてつい羽目を外してしまったヒカルは苦笑する。
「ごめんなさいね、カザナちゃん。私、ソウ長官やカザナちゃんに会えて嬉しくて、ついはしゃいじゃって」
扇で口許を隠して、ヒカルは微笑む。裏表のないヒカルは、信用できる人間だとカザナは確信し、こくりと頷いた。
「それで……いつから護衛として潜入すればいいのですか?」
身を乗り出して、食い入るようにヒカルの青の瞳を凝視してくる。
「カザナちゃん?」
「ヒカルさんが……オスカー王子を心配なのはわかりました。最初から私を信用してくれて、地を出していてくれたし……。まあ、ソウパパに引きずられて、2人でお笑い漫才を繰り広げていたのは置いておいて。私は何をすれば?」
会ったばかりのカザナは、どうやって依頼を断ろうかと考えているのが一目瞭然で。それが、会って二時間で依頼を受けてくれると頷いたのだ。ソウが言ったとおりだ。ヒカルは嬉しくて、カザナの両手を掴む。
「カザナちゃん! ありがとう! オスカーの味方になってくれる?」
予想外の言葉にカザナは、その大きな勿忘草色の瞳をぱちくりさせた。カザナの手をヒカルはぎゅっと握りしめてくる。その掌にヒカルの涙が雫のようにぽたぽたと落ちてくる。
「ヒカルさん……」
「もうオスカーとは2年も会ってないの……。あの子、王宮にいた時は、リチャードさんと私、ライアンと3人だけでなくて、王宮の皆に愛されていた、明るくて元気な子で……。でも離宮に閉じ込められてからは別人のようだとオスカー付きの乳母から報告があって……」
悲壮な顔のヒカルに、母親が亡くなり、父親に裏切られた頃の自分を構い倒したソウを思い出す。ソウとティムがいなければ、自分はどうなっていたか。オスカー王子は、ヒカルが心配していることを知らない。唯、両親に捨てられたと思い込んでいるかもしれない。カザナはヒカルの両手を握り返した。
「私が力になれるか分かりません。でも、もしオスカー王子の心にほんの少しでも寄り添えたら嬉しいです」
ヒカルは、涙で濡れた青の瞳を隠そうとせず、微笑む。カザナの言葉が母親として嬉しくて、泣きながら笑った。
カザナは母親としてのヒカルの気持ちに共感して、こくんと頷く。
打ち解けた2人をソウが優しく微笑んで見守っていた。
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