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29話 無自覚な心と反発する気持ち5

 秋の雨の日は憂鬱だ。霧雨がしとしとと降ってくる。霧雨が降ると辺りはぼんやりして、単色の風景となる。灰色の世界がカザナには、新鮮に感じる。傘を持って、オスカーとカザナは家を出る。二人は当然の如く口を利かない。


 雨の光景が自分の心を重なっているようで、カザナは複雑だった。弟みたいに思っていたオスカーからキスをされた上に、愛の告白をされた。幼い頃の二人がカザナの心に蘇る。可愛らしく甘えてきたオスカーに、姉のように振舞う自分。懐かれて、嬉しかったのだ。そして、番と言われて拒絶したが、また以前のように戻れて。それが、あんなことをされて、自分の中の綺麗な思い出を穢された、そんな想いで一杯だった。


 傘を差して歩く二人を沈黙が包み込んでいる。ちらりと視線を気づかれないように送る。昔と違い、子どもから少年に成長したオスカーは、綺麗だ。紫の王眼に父親譲りの涼やかな美貌と成長途中のしなやかな身体の中性的な美少年だ。カザナは、頬を染めて顔を逸らした。最近、オスカーを見ると原因不明の動悸に襲われる。オスカーに苛ついているのだろうかとカザナは首を傾げる。


 二人は、シルフィード大学駅前のプラットフォームで降りた。そのまま自動改札に定期を当てて通過する。駅の改札を出たところで、一台の車がクラクションを鳴らした。車の車種は天空界では、王侯貴族か財閥の人間しか乗れないと言われているイヴァンだった。イヴァンの後方の窓が開かれる。窓から可愛らしい少女の顔が現れた。


「イザベル?」

 オスカーは幼馴染で元婚約者の名を驚いたように叫ぶ。

「オスカー様! 学校まで送らせてください」

 イザベルと呼ばれた少女は、嬉しそうに車から笑顔で声を上げる。親密そうな二人の様子にカザナは、学校へ向かう足を止めた。オスカーはイザベルを見ると、口を開こうとする。カザナはオスカーの手を取る。


「オスカー、学校へ行こう」

 今まで無視をされていたのが急に自分の手を取り、声をかけてきたのだ。オスカーは、嬉しいというより困惑している。


「あなたは、何のために留学してきたの? ウィル神界と同じ立場で留学生活を過ごすの? 少なくともオスカーは、王子なのに平民と同じ学校生活を送りたいとうちに下宿しているの。貴族のまま学校生活を送りたいならオスカーにちょっかいを出さないで」

 カザナは、イザベル相手に手厳しい言葉をかけた。


「行こう。オスカー」

 カザナは、オスカーの手を握ったまま歩く。オスカーは目を見開いたまま唖然としていたが、カザナに着いていく。オスカーとイザベルとの間に流れる昔馴染み独特の空気が嫌だった。何故か胸がもやもやして、落ち着かない。カザナは、オスカーの手を掴んでいたことに今更ながらに気が付いて手を離した。自分の頬が赤いことに気が付かない。


「オ、オスカー。今まで口を利かなくてごめんね。あ、あのことは忘れるから仲直りしよう?」

 オスカーは、カザナの言葉に衝撃を受ける。カザナにとって自分との口づけはそこまで嫌なことだったのかと。確かにカザナは実の父親との過去で男嫌いだ、だけど自分とは違うと信じていたかったのだ。


「カザナは……俺のこと、嫌いなの?」

 オスカーの紫の王眼がカザナを鋭く見据える。カザナは、勿忘草色の円らな瞳を彩る金色の睫毛を上下させた。イザベルは、オスカーの元婚約者で幼馴染だ。何故、オスカーはそんな存在がいるのに天空界へやってきたのだろうか?そしてカザナという番がいるのに何故、婚約していたのか。カザナの頭がぐるぐる回り、訳が分からなくなる。

読んでくださってありがとうございました!

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