2話 王女様からメイドへジョブチェンジ2
カザナは、ウィザードの制服を着てウィル神聖王国の王宮の王妃の部屋にいた。ウィザードの長官で養父でもあるソウ=シルフィーディア同席の上で、現ウィル王の番でオスカー王子の母親であるヒカル=ウィル=カーライルに面会したのだ。
現在、2児の母親であるヒカルは、光の王家ウェルリース家の血筋を色濃く引いている。太陽のような金糸の長い髪をまとめてアップにしていて、青の澄んだ瞳は無垢な色合いを湛えている。整った鼻筋に小さな赤い唇が小さな顔に程よく配置されている。細い肢体に落ち着いたクリーム色のドレスを身に着けている儚げで可憐な美女だ。気性の激しいだが、政治手腕から名君と呼ばれている現ウィル王リチャード=ウィル=カーライルが愛してやまない妃。
天空界の風の王家の第1王女であるカザナは、リチャードがヒカルを追って天空界までやってきたことも知っている。天空界でも2人の恋は、世界を超えた世紀の大恋愛だと伝えられている。年齢不詳の愛くるしい王妃の姿からもリチャードがヒカルを愛して止まない理由が伺える。
それよりもさっきからヒカルの青の瞳に凝視されていて、カザナは落ち着かない。ヒカル付きの侍女に紅茶を出されていたが、手つかずのままだ。初めて会うウィル神族の王族、しかもウィル王の正妃にカザナは緊張しきっていた。ヒカルは、にこっとカザナに笑いかけた。
「うん。いい目をしているわ! 合格!」
天空族語でカザナに砕けた物言いで話しかけてきた。さっきまでの儚げで可憐な美女ぶりはどこへやら、にやりとヒカルは笑う。ソウがその言葉に嬉しそうに返す。
「でしょう? ヒカル。この子、私の自慢の娘なのよ! お人好しで素直な所が昔のあんたに似ているわ」
表向きの男性言葉ではなく、素である女言葉を使っているのでカザナはぎょっとして、ソウを見る。ヒカルは、打ち解けた態度でソウに返す。
「ちょっと! ソウ長官! お人好しで素直は余計よ! どうせ私は王族らしからぬ王族ですよ!」
頬を膨らませて、ふてくされている。ソウとヒカルは、昔上司と部下で兄妹のような関係だったと聞いたが、想像以上の仲の好い関係にカザナは驚愕する。が、王妃らしからぬ率直な物言いや笑顔に親近感を抱いた。
「あの、合格って……」
カザナは、警戒心を解いてヒカルに話しかけた。ふふっとヒカルが微笑む。
「あなたは澄んだ目をしているわ。だからオスカー付きのメイドを頼みたいの」
「!」
「あの子は、2年前に西の魔王にあの子が持つ王眼を狙われて襲われたの。事態を重く見たリチャードさんは、厳重に結界を張った離宮へオスカーを移したのよ。私は、反対したのだけど押し切られて……」
我が子を心配するのは王族でも一緒なのだろう、ヒカルはその愛くるしい顔を俯かせた。
「そうよね~。ヒカルはリチャードさんが好きで好きでたまらないもんね~。いつも振り回されているもの!」
横から茶々を入れるソウにヒカルは、頬を赤く染め上げた。
「ほんと、まだリチャードさんって呼んでいる辺り、恋人時代から変わらないわよねえ……あんたたち」
にやにやしていているソウをヒカルがきっと睨みつけた。
「余計なお世話です! でも頭来たときは、リチャードさんの足を蹴っ飛ばしてますし、無視してやります! そうしたら、大体……」
「夜に仲良しするのね~」
「ソウ長官!」
ソウのヒカルをからかうのが楽しいのが伝わってくる。しかし、初心なカザナにはどきつい内容だった。顔を真っ赤にして、俯いた。
「あの……。二人とも子どもの私にはきつい内容なのですが……」
耳まで真っ赤にしているカザナを二人は確認すると、黙り込んだ。
「カザナ……。悪かったわ……。どうもヒカルは、からかうと面白いからつい……」
ごにょごにょと言い訳するソウに、カザナはジト目で睨みつける。
「だからって子どもがついていけない会話をしないでよ」
カザナに頭ごなしに叱られてソウは、しゅんとする。その光景を見て、ヒカルは二人の関係を悟り、噴き出しそうになる。
あのソウに頭が上がらない存在の娘がいるとはおかしくて仕方ない。ヒカルは、ぶっと噴き出す。
「ちょっとヒカル! 笑うな!」
「だって、あはは! おかしい~」
カザナは、驚いて目を瞬かせた。
(本当にウィザードの長官とウィル神聖王国の正妃なの? この二人が!)
この漫才を繰り広げている二人が長官と王妃とは信じられなくて、カザナは呆気に取られた。
延々とお笑い漫才を繰り広げているかつての上司と部下は、カザナから注がれる冷たい視線に気付いて我に返る。
ヒカルがごほんと咳をする。それが合図とばかりにソウは、黙り込んだ。
「あの~二人とも本当にウィル神界の王妃とウィザードの長官ですか?」
カザナのツッコミに、二人は同時にハモる。
「大丈夫! 猫を被っているから!」
ソウはぐっと親指を上げて、ヒカルはどこからか扇を取り出して、微笑む。
「……」
カザナは、ぽかんと口を開けて驚いていた。
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