27話 無自覚な心と反発する気持ち3
オスカーはカザナを引き寄せて、抱き締める。その身体は、いつものしっかりしたカザナからは想像できない程、華奢だった。
「オ、オスカー?」
カザナは過去にふざけて抱き着かれた、可愛らしい幼い時とは違うものを感じて不安になる。同時にオスカーの精悍な身体をパジャマ越しに感じて、胸が高鳴る。
「?」
カザナの頬が紅潮している。オスカーが同居するようになってから不可解な感情に悩まされることが多くなった。男嫌いで鈍いカザナは、気付いていない、それが恋であることに。無自覚な気持ちは、カザナの胸の奥でゆっくりと育っていた。
オスカーは自分の気持ちに蓋をしてきたが、堪えきれない。ぐっとカザナを抱き締める腕の力を込めた。そして、カザナの小さな赤い唇に自分の唇を重ねた。最初は優しく啄むように。それが段々と強くなってくる。カザナは息が出来ない。
オスカーの唇が離れた。はあとオスカーは、唇を手で拭う。その仕草がいやに男らしさを感じさせた。紫の王眼は情欲に濡れている。14歳とは思えない大人びた視線にカザナは、戸惑う。
オスカーがカザナの金色の長い髪を指で優しく梳いて、溢れる涙を舌で吸う。宥めるような仕草にカザナは、何故かほっとして、オスカーの身体に抱き着いた。いつからだろう、ソウが夜勤で家を空けていて一人で怯えていた夜が怖くなくなったのは。オスカーが家に下宿し始めてからだ。
「カザナ……。俺はカザナのことが好きだ。14歳になった今は、王眼を操れるようになった。前はカザナと父上が俺を守ってくれた。今度は俺がカザナを守りたい……」
カザナの長い髪を梳きながらオスカーが告白する。その言葉が紡がれた瞬間、カザナは甘い夢のような時間からはっと目を覚ました。
「守りたいなんて嘘……。好きなんて言葉、まやかしよ……」
カザナが小さい声でぽつりとつぶやいた。カザナは、己の身体を守るようにぎゅっと抱き締めると、後ずさる。
「カザナ……?」
自分の告白にカザナから返されたのは冷たい言葉で。信じられない想いで絶句する。
「カザナ、俺は……」
カザナは、オスカーを拒絶する言葉を吐いた。
「オスカーのこと、可愛いって思ってた……。家族みたいになれたと思ったのに! こんなことをするなんて……。ひどいよ、大嫌い!」
カザナは叫ぶと、自分の部屋に走り去った。オスカーは、愕然とする。さっきまで自分の身体に抱き着いて甘えていたのに。
「カザナ……」
オスカーの足元にはカザナの残した西の魔王に引き千切られた水色のリボンが落ちていた。オスカーは、それを拾い、手で握りしめた。
あの一件以来、カザナはオスカーと必要以上に口を利かなくなった。ソウの手前、一緒に学校まで通学して、カザナはオスカーのお弁当を作っている。そして、どこかオスカーと互いに通じ合っていた感情が全く通わなくなっていた。
「オスカー、お弁当」
カザナは、中等部の正門の前でお弁当を渡す。オスカーを一瞥することすらしないで、歩いていく。カザナは泣きたかった。大切な弟のような存在であるオスカーを失いそうだからだ。そして、一瞬でもオスカーに抱き着いた自分が信じられず、許せなかった。それ故、身体全体でオスカーを拒絶していた。
「……」
あの日、カザナが自分を心配して飛んでくれて来た日。カザナも自分を思ってくれていると確信した。その一瞬に油断してしまったのだ、幼い頃からアンことカザナを慕っていた。家族の代わりに自分へ寄り添ってくれたアンに幼い思慕を抱き、それが恋へと変化した。
そして、カザナが自分の番だと判明した時は戸惑うばかりだった。
だけど。
ウィル王家の番を求める血はオスカーに間違った態度を取らせた。
カザナの前では弟を演じて、甘えていなければいけなかったのに。
自分のしたことは実の父親に裏切られたカザナを更に傷つけた、だけだった。
オスカーは溜息をひとつ、零した。
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